異世界に召喚されて【テイマー】スキルを手にした僕、自分だけボスモンスターを従魔にできる能力を持っていた

名無し

第1話 黒と白


「ねえねえ、あれ見て!」


「やだー」


「はずかしー」


「超きもっ」


「さむーい!」


「「「「「キャハハハッ!」」」」」


「……」


 女生徒たちの蔑むような笑い声が、僕の耳と心に突き刺さる。


 冬の寒い日の昼休み、僕は白い息を吐きながらグラウンドを走っていた。それも、パンツ一丁っていうマヌケな姿で。


 別に望んでこんなことをやってるわけじゃない。いじめっ子たちに命令、脅迫されたんだ。


『おい琉生、みんなが見てる前でパンツ一枚になって校庭を走れ。さもなくば、次は全裸で走ってもらうことになるぞ』って。


 僕は恐怖のあまり地面に頭を擦り付け、それだけは勘弁してくださいと懇願した。いじめっ子たちの勝ち誇ったような笑い声を聞きながら。


 もちろん、僕が連中にいじめられている間、みんな見て見ぬふりだ。


 仲が良かった子もいたけど、僕がいじめられているのを知ってからは豹変し、すっかり無視するようになった。中には積極的にいじめに加担するやつまでいる。


 先生たちも同じだ。僕がいじめられてるのを見ても、いじめなんてなかったことにしたいのか黙殺している。


 そんな僕の名前は倉沢琉生くらさわるい。都内の笹川学園に通う高校2年生のいじめられっ子だ。引っ込み思案で無口だからか、こうしていじめの格好の標的にされてるってわけだ。


「……はぁ、はぁっ……」


 息が苦しくなってきたし、何よりも寒い、寒いよ。体だけの問題じゃない。心が凍てつきそうだ。なんで僕がこんな辛いことをしなきゃいけないんだ。今にも死んでしまいそうだ。


 弱い者は徹底的に淘汰されるんだ。居場所なんてどこにもありはしない。多様性に寛容な社会なんて見せかけの綺麗事だし、子供が純粋だなんてのも真っ赤な嘘だ。学校なんて悪いやつらがつるむ刑務所にしか見えないし、この世に存在しなきゃいいとさえ思う。


 みんな表向きじゃいじめをなくそうなんて言ってるけど、そんなことはどう頑張ったって無理だ。余程のお花畑じゃなきゃ不可能だってわかってるはず。


 いじめなんて絶対になくならないんだ。この世に人がいる限り、いじめという娯楽が消えてなくなることはない。結局、力こそ正義なんだ。力がなければ、力によって支配される。


「琉生君……」


「え……」


 昼休みが終わり、制服を着ることを許された僕が教室へ行くと、クラスメイトでセミロングヘアの少女――佐藤玲奈さとうれなに声をかけられた。秋に転校してきた子で、家が近所なこともあって顔見知りなんだ。


「とても寒そうだったね。大丈夫?」


 佐藤さんがいかにも申し訳なさそうに、上目遣いで僕を見つめてくる。


「……佐藤さん、僕のことなら別に構わなくていいよ。全然大丈夫だから」


「本当に……?」


「うん」


 僕は笑顔で嘘をついた。大丈夫なわけもないのに。


 でも、彼女とは特別親しい間柄でもないし、正直なところどうでもいいや。それに、知ってるんだ。君も影で僕を見て笑っていたこと。いじめっ子たちの一人と付き合ってるってことも。


 要するに、これはハニートラップってやつなんだろう。僕が勘違いして懐くようなことがあれば、後でそれをいじめる材料にするつもりなんだ。単純すぎる。


 本当に人間って腹黒い生き物だなあ。一点の曇りもない笑顔で人を殴ることができる。誰かを痛めつけるために、今日も何食わぬ顔で獲物を狙ってる。


 ハハハッ、今日もいい天気だな、何を食べようかって笑いながら同級生に何度暴行されたか。


 僕もいっそ残酷になれればいいのに。人に優しい人間になりなさいって、亡くなったお婆ちゃんが生前に言ってたから、無意識のうちにそれを守ってるのかな。


 だけど、人に優しい人間ってなんだ? ただのサンドバッグか?


 そういえば以前、怜悧な人間になりなさいって校長先生が言ってた。知らない言葉なのでスマホで調べてみると、賢い人間っていう意味なんだって。


 でもそれって、悪いやつを意味するのかもしれない。だって、本当に賢い人間だったらいじめられるはずもないじゃないか。むしろ、誰かがいじめられてるところを陰から笑って見てるんだろう。


 ボロボロになった僕が教室の片隅でうずくまっているところを、表面上じゃ同情する振りをしながら。


 つまり、すこぶる計算高い。学校っていうのは悪いやつらが集まる場所でもあるってわけだ。


 頭が良ければいい人かって、偉大なのかって、そんなわけがない。もしそう思ってるやつがいるなら単細胞すぎる。


 いっそ、シンプルにみんな消えてしまえばいいんだ。


 何もかも。全部。


 明日なんていらない。


 明日なんて永遠に来なきゃいいのに。


「うっ……?」


 何かヌメッとしたような、黒光りするものが蠢き、僕の心でとぐろを巻いたときだった。


 ほぼ一瞬で周囲が真っ白に染まっていくのがわかった。な、なんだ? 眩しいとかいうレベルじゃないぞ。光で遮られて何も見えない。一体何が起こったっていうんだ……?

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