第3話 疑心暗鬼

ああ・・・美鈴・・・


腹部にナイフを刺されて事切れている姿がそこにあった。なんで?どうして?

俺は、俺の知らない間に・・・


光太郎「美鈴・・・」

無駄だと思いつつも、そっと脈を調べるが、ダメだ。死んでいる。


明美「こうちゃん・・・美鈴・・・」

明美は相当長いこと泣きはらしたのか、目が真っ赤になっており、力也は相当手を尽くしたのか前進キズまみれだ。一体何があった?


力也「今警察を呼んだ。それと光太郎、話がある」

力也がまっすぐな視線で俺を睨め付けるように見る。まるで俺のせいだと言わんばかりに。

光太郎「いいぞ。俺からも聞きたいことがある」

力也「じゃあ聞こうか。オメェ昨日何してたか言って見ろよ」

光太郎「・・・は?」

力也「言えっつってんだよ!!!」

いきなり力也に胸倉を掴まれて、もの凄い形相で睨まれた。どういう状況なのか掴めず困っている俺を明美のやつがフォローを入れた。

明美「りっきーは、あの後寝たはずのあなたと一晩戦っていたのよ・・・私達を守る為に」

残念ながら記憶にない。っと言おうとしたが話はまだ続けられた。

明美「あなたが寝てから私達はあなたのアパートを見張っていたわ。けど、誰も何も来ないし起こらないの。そのまま3時間ぐらい経った時だね。部屋の中で待機していた美鈴が不意打ちを食らって・・・」

そこまで言うと明美はまた思い出したかのように泣いてしまった。

力也「全部テメェの自作自演だったんじゃねぇのかよ!?ええ!?人が死んで、部屋中血まみれで、何とも思わねぇのかよ?」

力也の言い分もわかる。だが、本当に俺にはやった記憶もなければ自覚もない。朝まで眠りこけていたぐらいだ。

力也「もうすぐ警察が来る。話すことを話したら俺達は帰る。こんな野郎とはもう遊べねぇしツラも見たくねぇ。」

光太郎「・・・」

俺は黙り込んだ。見たくないが美鈴の亡骸をもう一度見る。無惨な死に方を遂げた幼馴染み。不意打ちだと言う力也の言い分もわかる。後ろから刺されたナイフがそれを物語っている。クソ!なんでだよ・・・


警察官「通報したのは君たちかな?」

警官が来た。この後、署まで俺達は連行され、たっぷりと事情聴衆をされた挙げ句犯人呼ばわれもされたが証拠不十分で釈放された。だが、その後の生活はかなりの仕打ちを受けた。




まず学校へ行けば力也と明美からは無視され、学校中に噂が広まってしまったせいか俺の居場所はどこにもなくなってしまった。そして、肝心の視線は今も尚消えていない。むしろどんどん近づいてきている気すらしている。

それで済めばまだ不登校で済んだが、近所にも噂は広がっている上に警察も非協力的だ。最初は気にしないでいたが、美鈴のいない学校生活と、イツメンでもう2度と遊べないってことが俺の中で大きな傷痕となっていた。

光太郎「・・・」

アイツが亡くなって1週間、相変わらず周りが騒がしい。玄関は毎日ダンダンと叩かれ、学校へ行けば蔑まれた目で見られ続け、町に出たらスマホでパシャパシャ撮られる。


光太郎「はぁ・・・美鈴・・・」


ほとぼりが冷めれば適当に復帰しようとしたものの、それを阻止するように俺を見続けている視線はついに背中について回るかのような感覚にすら陥ってる。


ピンポーン♪


一人家の中にいたら突如チャイムが鳴った。誰だろうと見てみると、明美だった。


光太郎「なんだ?」

明美「あの・・・ちょっといい?」


明美はバツ悪そうにうつむきながら俺と話したそうにしている。


光太郎「他に・・・誰もいないか?」

明美「・・・いないよ」


周りに誰もいないことを確認させると俺は明美を部屋へ上げた。両手にビニール袋をかっさげて。


明美「何も食べてないと思って。私なりに買ってきたんよ」

光太郎「・・・」


俺は明美の話を聞きながらどういうつもりで来たのか探りを入れる。


明美「力也は相変わらず荒れてるけど、本当は怖いだけ」

光太郎「だろうな」

明美「あなた、あの日の夜本当に自覚がなかったの?」

光太郎「今更聞いたところで美鈴は帰って来ないだろ」


俺はイライラしながらもぶっきらぼうにそう言い捨てた。明美が何を考えてるか知らねぇが、今は一人でいたい。


光太郎「・・・わりぃ。」

明美「ううん、そんなことない」


再び沈黙が訪れる。今はもう誰も信用出来ない。と言うか、することが出来ない。


明美「早く・・・戻ってきて欲しい。」

光太郎「ああ・・・」


力なく俺はうなずいた。




翌朝、明美の頼みと言うこともあり俺は渋々学校へ行く。放課後、話があるそうだ。


何人か人が集まっているが、見慣れた顔付きが何人かいる。力也、明美の姿があった。

明美から事前に聞いてるのは、あの日の夜の出来事だが、どっちかっていうと俺自身のことについてだ。


光太郎「それで、話ってなんだよ?」

力也「前は急に取り乱して悪かったな。」

明美「こうちゃん・・・」

二人は神妙な面持ちでこちらを見ている。警察や弁護士なんかもいるからさしずめ事情聴衆ってやつだろうか?今更?


弁護士「今日はこちらの女性、美鈴さんについて光太郎さんにお話を聞きにきました」

弁護士の男はそのように切り出す。内容はあの日の夜の出来事について詳細をもっと聞きたいってことと、なんで美鈴を殺したのか、本当に自覚がないのかとか色々だ。

光太郎「あの日、俺は3人に確かに寝ることを告げ、3人ともそれを見ているのは確認した。それから朝まで本当に起きていた記憶がない。」

警察「自分にとって大切な人を殺めておいてか?」

光太郎「・・・」

何度も言うが、本当に自覚がない。体がなぜか汚れていたり、部屋が生臭い感じもしたが起きるまでそれはわからなかった。第一俺が本当にやったという証拠も出ていない。何かがおかしい。

力也「光太郎!」

警察「やめろ!二人の証言をまとめると、光太郎君が突如ナイフを持ち、美鈴さん、力也さん、明美さんの3人に襲いかかった。そして、死力を尽くすも美鈴さんの命は守れなかった。更に言えば襲いかかった当人は自覚がなければ記憶も無い。そうだな?光太郎君、力也君」

力也「そうだ。まるで人が変わったようにコイツは、いきなり斬りかかってきやがった。この期に及んで覚えてねぇとか言わせねぇぞ?」

光太郎「そんなことは俺の記憶にない」

力也「この野郎!!!」

警察「やめろ!!!」

激しい怒りと興奮で話が進まない力也と、それを制する警察の口論。ずっと下を向いたままの明美と、何を考えているかわからない弁護士と名乗る男。記憶がないのは本当なのだが、実は力也がやったのではないかという考えも俺の中で出ている。と言うかただイライラしているだけだが。

不意に弁護士の男が口を開いた。

弁護士「私は亡くなった美鈴さんと襲われた力也さん、明美さんの弁護人です。現場の状況を整理すると、光太郎さんの指紋がついたナイフと部屋中に飛び散っている美鈴さんの血痕、そしてナイフは後ろから刺されていた。これらの証拠とお二人の証言から推察して光太郎さんが殺したように私は思います」

光太郎「そうだろうな」

弁護士「しかし光太郎さん、あなたは殺しをした自覚がないと言いましたね。このまま精神病棟にあなたを送り届けてもいいんですが、その前に私から質問があります。」

光太郎「なんだよ?」

弁護士の男は冷静な目つきで俺を見ている。一体何を聞きたいんだ?


弁護士「先日の夜は、いつ頃寝ましたか?」

光太郎「覚えてないが、確か11時頃だったと思う」

弁護士「起きている間に粗相を働いている人はいましたか?」

光太郎「俺の知る限り、そんなヤツはいなかった」

弁護士「なるほど、力也さん、明美さん」

弁護士の男は質問の矛先を二人に変えた。

弁護士「彼は夢遊病のような病気を過去に診断されたと言う話を聞いたことがありますか?」

力也「ねぇよ」

弁護士「今回引き起こされた事件は、彼の生活状況についてもっと知るべきだと私は思います。大切なお友達の為にも何が真実で何が正しいのか、考えてみませんか?」

諭すように弁護士は全員に向けて言い切った。気付けばその男の話を聞き入っていた俺はその通りだと思っていた。難しいことは俺達よりこういうヤツらに任せておけば勝手に解決するだろう。それでも力也は納得していない様子だが。

結局その日の話し合いは、俺を精神病棟へ送り、俺と関わりがあるやつらを徹底的に聞いて回るとのことでケリがついた。何でも良いから俺はさっさと帰りたかった。帰り際も力也は俺を睨み付けていた。まるで俺が犯人だというように。こうして、誰も信じることが出来ない生活が精神病棟と言う閉ざされた部屋で起こる。

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