第2話 崩壊

学校へ行って、アイツらと話をする。さすがに我慢の限界だ。誰がこんなイタズラを仕掛けてるんだ?


力也「なんだよ光太郎。急に呼び出して。」

光太郎「朝起きて玄関を見たらコイツがポストに入っていた」

美鈴「何コレ?」

明美「心当たりないわ」

光太郎「そうか、実はな・・・」

俺はここ2ヶ月の間で視線を感じるようになったことを打ち明けるが誰も知らぬ存ぜぬだ。俺のことをよく知っている奴らはコイツら3人だ。教師や他の奴らなんかじゃダメだ。そう思って聞き込みをいくらかやるが手かがりはなし。アテが外れたか。

美鈴「ほら、これでも飲んで落ち着いたら?」

不意に美鈴が俺の好物であるオレンジジュースを差し出してきた。こんな時にって思ったが、飲んで落ち着くか。そう思った時だった。




光太郎「ごほっごほ!!!」




このジュース・・・ジュースじゃない!?

力也「お、おい光太郎!」

息が・・・上手く出来ない。力が体中から抜けるような感覚がした。少しずつ目の前の景色が暗くなっていくし、力も入らない。最後に見えていたのは、ずっと俺の名前を呼んでいる美鈴の姿だった。







ん・・・ここは?

美鈴「こうちゃん!」

泣きそうな顔付きで隣に立っていたのは美鈴。そうか、俺はあの時コイツからもらったジュースを飲んで倒れちまったのか。

光太郎「ここは・・・どこだ?」

美鈴「ここは病院。2日ぐらい寝ているんだから死んだんじゃないかって・・・」

光太郎「ああ、すまん」

美鈴「まだ休んでて。先生を呼んでくる」

そう言うと、美鈴は出て行ってしまった。だが、間違いなく俺を殺そうとしていたやつがいるようだ。この、3人の中に。








あの一件から俺は3人と距離をとるようになった。昼飯も、帰り道も、いつもの帰宅部も。全て。信用が出来るかどうかわからねぇヤツらとつるむ気はない。だが、俺の意思とは反対に例の視線はずっとつきまとっていた。イライラする。

光太郎「おい!!!隠れてないで出てこいよ!!!クソ野郎!!!!!」

何もない夜道に向かって思いっきり叫ぶが、帰ってくるのは静寂な夜だけ。夏だというのに背筋に冷たい風が吹き付ける。イライラして体が火照ってるはずなのに、なんで?

家に帰り、落ち着くために風呂へ入る。荒々しくシャワーの弁を開けて、髪を洗っていたら

光太郎「うわ!」






浴槽は・・・誰のモノかわからない長い髪の毛で埋め尽くされていた。







俺は怖くなり、風呂場からすぐに飛び退くように、その場を離れた。誰がこんなことを・・・。



そうして、俺は荒れに荒れた。今まで誰かに怯えるなんてことはしてこなかったが、得体の知れない何かにずっとつきまとわれるのは疲れた。


光太郎「おい」


だからまたこの3人を集めた。


力也「お前、大丈夫なのかよ」

光太郎「お前か?ずっと俺の後をつけてんの」

力也「はぁ?ちげぇよ!」

明美「そもそも、誰かにつけられてるなら警察に言ったの?」

光太郎「とっくに言ったさ。そしたらあいつらなんつったと思う?」

明美「・・・」

光太郎「特に被害が出てないからってよ。笑うよなぁ?えぇ?」

力也「やめろよ!」

光太郎「うっせぇ!!!」

美鈴「こうちゃん、それなら私今日から一緒に泊まろうか?」

光太郎「・・・美鈴。」

美鈴「とにかく、しばらく私らとまた一緒に帰ろ?何かわかるかもしれないよ?」

光太郎「・・・そうだな。」


この時からだろうか。俺達の関係に亀裂が入り始めたのは。今となってはもうわからない。





美鈴「じゃ、帰るよ」

学校が終わり、俺達は小学校の集団下校のように帰っていた。イライラと不安が募っているのは変わらんが、多少安心出来ている自分がいる。それでも、ほぼ毎日俺の家の中に何かしらの異変が起こるようになった。耐えかねた美鈴の提案で久しぶりに4人で俺のアパートに泊まろうと言うことになった。

明美「こうちゃんの部屋、結構片付いてるね」

光太郎「気を使わなくていい」

俺の部屋はお世辞にも片付いているとも綺麗とも言えない、散らかりまくりの部屋だ。元々散らかっている方だし気にしない。

力也「ホントにでんのか?」

脳天気な力也を除いてな。

美鈴「とりあえず、ご飯作るわ。こうちゃん、台所借りるよ」

光太郎「ああ」

俺は力なく返事をした。食欲なんてなかったが、せっかく美鈴が作るんだ。何か変わるかもしれない。



ーー夜ーー


美鈴の手料理をみんなで食べて、これからどうするか話し合いをしていた。

光太郎「美鈴、台所はどうだった?」

美鈴「特に異変はなかったわ」

力也「なぁ光太郎」

光太郎「なんだ?」

力也「お前がストーカーにつけられている可能性は低いだろうが、一応聞いておくぞ。本当に誰にも恨みを買ってないんだな?」

光太郎「ああ。そんな暇があれば運動をしたい」

明美「こうちゃんってこんな時でも運動が大事なのね」

光太郎「体が鈍れば舐められるからな」

力也「それがこのザマじゃ笑えねぇよ」

美鈴「とりあえず、私達でこうちゃんの家を見張るってことで今日はいい?」

力也・明美「そうだな、そうね」

二人はそれぞれ納得した様子だ。3人には申し訳ないが、たまにはゆっくり休みたい。布団を敷いて、まぶたを閉じると気付けば俺の意識は闇の中へ引きずり込まれていた・・・。


ーー朝ーー


翌朝、なんとか眠れたようだ。朝日を浴びながらゆっくり起き上がる。そうだ。3人は?順番に見張りをしているそうだし、そろそろアイツらを休ませないと。そう思ったが、3人は部屋にいなかった。

光太郎「ん?美鈴?力也?明美?」

狭い部屋なのでいたらすぐ見つかるのだが、見つからない。外か?俺は眠い目をこすりながら外へ出ると、力也と明美がいた。


光太郎「ここにいたか」

力也「・・・」

光太郎「おい、力也、明美、どうした?」

明美「美鈴が・・・」

二人が立ち尽くすその視線の先は・・・











変わり果てた美鈴の亡骸がそこにあった。

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