#5 vs自立型拷問魔道具
私がゆとりと出会った場所とはまた違う森に、行方不明の少女はいる。
急いで駆けつけると、そこには天井に磁器で作られた女性の上半身の像が装飾された巨大な鉄製の鳥籠。そして、中には気を失っている少女の姿。
近づいて顔を確認する。行方不明になっている子で間違いなさそうだった。
見たところ、大きな怪我もしていなさそうなので、一安心だ。
と、その鳥籠が突然高く飛び上がったかと思うと、私を押しつぶそうと急降下してきた。
私は身体を大きく前転させて、それを回避する。
「危ないじゃない……」
私は手元に杖を召喚して、戦闘態勢をとる。魔法空間にしまっていた杖を取り出しただけにもかかわらず、魔力がだいぶ減ったのを感じた。
……これは思ったよりも厳しい戦いになるかもしれない。
鳥籠は何度も宙に浮いては、私めがけて落ちてくる。その度に私は飛んだり跳ねたりでその攻撃を避け続けた。
この鳥籠の名は、マギカメイデン。
捕らえた人間に魔力を流し込み苦痛を与えつづける、帝国が捕虜を拷問する為に作り出した人工の魔物だ。
中にいる少女に大きな怪我が見られないのと、押しつぶそうとする攻撃しかしてこないところを見るに、おそらく魔法を使う機能が壊れたとかで、こっちの世界に投棄されたのだと思う。まったく、迷惑な話だ。
「……さて、どうやってこいつをぶっ壊そうかしら」
今の私がまともに魔法を打てるのは一度だけだから、一撃必殺の高火力魔法でさっさとケリをつけたいところ。だけど、それをしてしまうと、中にいる子も無事では済まない。鳥籠ごと消し炭になってしまう。
と、なると魔法攻撃ではなく物理攻撃で破壊しなければならないということになる。
でも、私には鉄を叩き壊せるほどの腕力は無い。身体強化の魔法を使えば、出来るようになると思うけど、その時点で私は動けなくなってしまうだろうから、そのまま、鳥籠にペチャンコに潰されて終わりだ。
……結構詰んでいるわね。
考えれば考えるほど、自分が置かれている状況が厳しいものであることを理解し始めた時、近くで草を踏む足音が聞こえた。
近づいてくる。これは……人だろうか。だとすると、少しまずいかもしれない。
魔物がいる私の世界の人間だって、魔物を見た時はパニックを起こす者がいる。
魔物がいない世界の人間がこんなものを目にしたら、どんな反応するのか見当もつかない。
やがて、足音が止まったかと思うと、その音の主が声を上げた。
「これは一体、何が起きてるんすか?」
聞き覚えのある声だった。その声は震えていたけれど、それは恐怖や混乱などでは無く、興味深いものに出会った興奮であることが不思議とわかった。
「……っ!? なんで、あんたがここに!?」
思わずマギカメイデンから目を離して、そちらへ視線を送る。
そこにいたのは、やはりというか、ゆとりだった。
と、マギカメイデンが頭上から降ってくる。
私はそれをギリギリで避けつつ、もう一度尋ねる。
「どうしてあんたがここにいるのよ?」
「あー、それはっすね……」
ゆとりの話を三行で要約すると、こうだった。
一、私に言われた場所に行ったが、探している子が見つからなかった。
二、私の魔法が失敗したのだと思い、自力で探し始めた。
三、探している途中で大きな音が聞こえてきたから、気になって見にきたら私と魔物に遭遇した。
「私たちが探している子があの魔物に捕まってるの。私がどうにか助け出すから、あんたはさがってなさい。危ないから」
「いやいや、私にも手伝わせて欲しいっす。こう見えて、私、格闘技の経験があるから、腕には自信あるんすよ」
成程。ゆとりが私より小さいにもかかわらず、軽々と私を背負えたのは、身体を鍛えていた経験があるからなのか。
……じゃなくて。
「あのね。これは競技じゃないの。本当に命懸けなの。こいつは私が何とかするから。大人しく引いて」
「何とかって、どうやってっすか。さっきから向こうの攻撃を避けるばかりで、こちらから全く攻撃してないじゃないっすか。イザベルちゃん、魔法を一発使うだけで動けなくなるんすよね? 本当にイザベルちゃん一人でどうにかできるんすか?」
「……」
痛いところをつかれ、言葉を返せなかった。そこをゆとりは見逃してくれなかった。
悪戯っぽく微笑むと、
「一人じゃどうにか出来なくても、二人ならどうすっか? 例えば、イザベルちゃんの魔法で身体能力を強化した私があの籠を壊す、みたいな。まあ、イザベルちゃんがそんな魔法を使えればの話っすけど」
そんな事を提案してきた。
実際、このまま回避だけ繰り返していても、いつか体力が切れてデットエンドになることは間違いない。ゆとりを戦闘に巻き込むことには抵抗があるけれど、本人がやると言っている以上、断っても強引に首を突っ込んでくるだろうし――。
「……わかったわ。あんたの力、私に貸して」
「もちろんっす。私、何だかワクワクしてきたっすよ!」
「……遊びじゃないのよ」
少し不安に駆られつつ、私はゆとりの手を借りることに決めた。
「……今から、あんたに身体能力を強化する魔法をかけるわ。素手であいつをぶっ壊せるくらいの力を出せるはず。魔法がかかったら、あいつの装飾部分を破壊して。そこを壊せば機能を停止するから」
「任せるっす!」
マギカメイデンを見据えたまま頷くゆとりの背中に手を触れ、私は呪文を唱える。
「――!」
ゆとりの身体が光のベールに包まれた。
同時に、私は魔力を使い果たし、その場に崩れ落ちる。
「すごいっす! 力が漲ってくるっす! これならやれそうっす!」
「あとは……任せたわよ……」
息も絶え絶えに、私はゆとりに全てを託した。
「了解っす」
ゆとりがマギカメイデンに向かって駆け出した。
マギカメイデンがゆとりを押しつぶそうと上空に飛び上がる。
「はあっ!」
気合と共にジャンプし、ゆとりはその攻撃を回避した。
そのまま、マギカメイデンの頭上まで飛ぶ。
「うわっ! すごいっす! めちゃくちゃ飛べたっす!」
「はしゃいでる場合じゃ……」
「……そうだったっすね」
顔を引き締め、ゆとりは腕を振りかぶる。
「その子を返してもらうっすよ!」
そうして振りぬいた拳はマギカメイデンの装飾部に命中し、粉々に砕いた。
すると、マギカメイデンは動きを止め、カゴ部分の扉が開く。
ゆとりはすぐにカゴの中に入り、少女の無事を確かめた。
「……うん。気は失っているっすけど、大きな怪我はしてなさそうっす!」
「良かった……」
その報告を受けて安心したのと、空腹が限界だったのとで、私はふっと意識を失ってしまった。
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