第2話
小芝智也くん
ご無沙汰しております。大本です。この度は自分の罪を逃れるためにあなたを殺してしまったこと、心からお詫び申し上げます。いえ、命を奪われた小芝くんからするとどんなに平謝りをしたところで私のことを許してもらえないのはわかっております。
正直に話しますと、最初に手紙をもらった時点ではあなたが亡霊としてこの世にいることなど信じてはおりませんでした。彩音さんが亡くなったことも適当に嘘を拵えて脅しているだけだと考えておりました。ですが、のちに刑事が来て、私の使用済みコンドームを飲み込もうとして窒息死したことを聞いて背筋が凍り付きました。その事実は刑事しか知らないそうです。しかし、ここでも私はあなたの存在を頑なに認めませんでした。小芝くんのご友人が警察関係者におり、何らかの情報を得て私を脅し始めたと認識しておりました。
ただ、先日、あなたが私の眼前に現れてついに存在を認めざるを得なくなりました。表現はどうかと思いますが、いまさら小手先でごまかしてもあなたには見抜かれてしまうでしょう。私は怖かったのです。ホラー映画も怖かったのですが、なぜか強がりたいというどうしようもない虚栄心が幼いころからあり、小芝くんにそれを証明しようとしていたのかもしれません。
今、ここに書き連ねているのは正直な気持ちです。私は彩音さん以外にも肉体関係を持った女性がいます。その女性は婚約者でもうすぐ式を挙げる予定です。勝手な気持ちを申し上げますと、せめてその女性と結婚式を挙げたいと思います。呪い殺すならその後にしていただけませんでしょうか。非常に身勝手なお願いだと承知しております。不倫をしておきながらその女性のことを大事に思っているとどんなに文才があったところで薄っぺらい文章になるに違いありません。ですがその女性は僕にとって大事な大事な存在なのです。彩音さんは火遊びのつもりでした。しかしそれが小芝くんにばれ、小芝くんが何をしでかそうとしているのか何となく察しはついていました。だから私は先にあなたを殺してしまったのです。今考えても自分の行動に嫌気がさします。
どんな殺され方をしても受け入れるつもりでおります。だから、せめて婚約者と結婚式を上げさせていただけませんでしょうか。何卒お願い申し上げます。
大森重徳
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます