殺したヤツからの手紙
佐々井 サイジ
第1話
ご無沙汰しております。
さきほど、彩音の部屋に入りました。彩音は上気した顔でスマートフォンを触っていました。あなたがついさっきまであの部屋でセックスをしていたことはわかっています。彩音はよっぽど幸せだったんでしょうね。一人きりの部屋でも口の端が大きく持ち上がっていましたよ。婚約者が亡くなったばかりなのによくあんな屈託のない笑顔を浮かべられますよね。
ゴミ箱にはやはり先端が括られたコンドームがティッシュに包まれて捨てられていました。明日は土曜で会社が休みなのにセックスだけを終えるとそそくさと部屋を後にする大本主任のことを彩音は不審に思わなかったのでしょうかね。それともあなたが適当に拵えた嘘が上手だったのか。何にせよ彩音は気づいていません。あなたに本命の女性がいることを。だから教えてあげました。しかし彩音は聞く耳を持たず、いや、聞く耳を持つ余裕もなく、泡を吹いて倒れました。逆の立場になって考えて見ると不思議ではありません。死んだ婚約者が亡霊となって出てきたんです。自分の裏切りに恨みを持って呪おうとしている、と考えるのが普通です。
ここで気になるのは彩音は無事なのかどうか、ですよね。大丈夫です。無事に、彩音の遺体は発見されましたよ。彩音が気絶したあと、あなたが捨てたであろうコンドームを喉に突っ込み、飲み込まない程度に引っかけました。覚醒した彩音は手足をばたつかせましたが当然無意味ですぐに大人しくなりました。彼氏の使用済みコンドームを食べるという異常趣味のおかげで事故死した、と言うことになるでしょうね。
さて、次はあなたをどう殺そうか悩んでいます。怖いですよね。ただもしかしたらいたずらに思うかもしれません。無理もないです。幽霊など頑なに信じることはありませんでしたもんね。やたらホラー映画を見ては製作者への賞賛と愚痴を言っていたあの頃が懐かしいです。ですので、別に信じなくても構いません。でも仮に信じるなら、ご自身の謎のプライドをぺきぺきに折られて僕という亡霊の存在を信じるのであれば、返事を下さい。どんな内容が書いてあるのか楽しみにしておきます。書いた手紙は大本主任のポストに入れておいていただけたら大丈夫です。いずれ伺いますので。それでは。
小芝智也
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます