第14話 her for four

 店からほど近いホテル。ベッドは小さくないのだが5人ではさすがに狭く見える。綾乃が中央に腰掛けるとその四方を男性達が囲むように座る。


 

「恥ずかしい〜」


 両手で顔を覆いながらも、指の隙間から見える目からは逆ハーレムへの喜びが溢れている。亮介はそんな綾乃の一挙手一投足を、声を、そして表情を全て堪能するため鑑賞のみに徹することにした。



 童顔のZ君がバックハグしながら早速キスを始める。綾乃好みの甘い顔だが女慣れしてそうな経験を感じさせる。


 綾乃もすっかりようで、目を閉じながら右手で彼の頭を撫でる。

 

 綾乃の左にいるのは安⚫︎顕に似たJさん。恐らく最年長となる40代のダンディ。右側を担当するE君と綾乃をでてくれている。S君の頭が綾乃の両脚に挟まれる。

 

(なんて綺麗なんだろう……)


 眼前で繰り広げられる男女5人の戯れ。

 妻である綾乃の意識に果たして自分はいるのだろうか。

 この快楽の海深く沈んでいく中ですっかり忘れ去られているのではないだろうか。

 

 4つの口と8本の腕40の指。

 息つく暇もなく襲いかかる愉楽と刺激。



(あたし……どうなっちゃうんだろう……)

 綾乃は仰向けにさせられながらぼんやりと考えていた。



 例えるなら小関⚫︎太。Z君の唇が綾乃の口を塞ぐ。綾乃の目が一瞬大きく開いたが、うっとりとした半開きの目つきで続けた。


 

 S君が亮介の横に来た。

「綾乃さんって、やっぱりドMですか?」

「やっぱりわかります?」

 苦笑いして答える亮介。

 

 

 芝⚫︎輔のようなE君。店内でも綾乃との会話でやる気を感じさせてくれていたから、見ている亮介も報われた気持ちになり嬉しい。

 

「綾乃さん、俺もう……」


 E君は、綾乃の腰を掴んで持ち上げて、近づいた。


 恐らく部屋の外まで聞こえたであろう絶叫。

 喜びと涙目でぐしゃぐしゃな綾乃。横目でこちらを一瞬見た気がするのは気のせいか。いずれにせよ無我夢中で挟まれている綾乃の姿は美しく、亮介はただただ見惚みとれていた。


 ほとんど声にならない声。だが綾乃がなんと言っているのか亮介にはよくわかる。


 だんだんとゆっくりになっていくE君。退いた瞬間に引き継いだのはZ君だった。ゆっくりで激しさは無い。だが、綾乃にあやしい刺激を与えていたのだった。



(なんかすごいことになってきたな)


 

 Z君は一旦はJさんに場を譲り、綾乃の両手首をしっかりと掴む。

 狂喜する綾乃。四肢をホールドされているので乱舞はできない。

 

 絶妙のチームプレーでポジションチェンジするJさんとZ君。。


 Jさんが入れ替わり、ささやく。


「店に入ってきた時から決めてたよ」


 年の功というべきか、余裕を感じるJさんだったが綾乃に対してこんな想いをいだいていたとは。見つめ合いながらキスを楽しむ二人。衆人環視でラブラブモードに持っていけるその胆力たんりょく――。圧倒される亮介だった。

 



 ゆっくりとした動き。

「君の方がもっと素敵さ」

「Jさん……」

「綾乃ちゃん……」

「あ……」



 亮介は、歳上の男性と一緒にいる綾乃を見るのは初めてだということに今やっと気づく。想像もしてこなかったし、そういうこともないだろうと漠然と考えていた。しかし、今目の前にあるのはある種の恐怖だった。

 仕事でもそうだが、キャリアを積んでいくことでしか達することのできない境地がある。座学や訓練といった「教育の限界」を超えたそれは往々にして年月の経過を伴う。長い期間を経てしか得られないものだとしたら、そこに追いつくこともできないし、急いて獲得できるものでもない。亮介が対峙たいじしているおそれはそうしたもののようだった。


 それが、綾乃の相手をした今日3人目の男性。


 綾乃の目は天井を見ている。その瞼は開いているが、いったいどこに焦点を置いているのかは亮介にはわからない。

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