エリオット・アルトリウス

 ソニアの雰囲気が変わった。感情の豊かな彼女が真顔になる。ここで初めて、ミーシャがソニアをまともに視界へ入れた。


 ソニアは両手に光の長剣を持ち、木製の扉へ向けて一本投げる。すると長剣は扉を透過し、中で物音が聞こえた。しかしその物音は微々たるものであり、生活音の一部として紛れる。


 ソニアは扉へ開け、ミーシャを先導する。ミーシャは中へ入り、中身を確認すると、ブリタニアール国王がベッドへ倒れていた。


「生きてはいますけど、身動き一つできません。もちろん声も出ません。私の命令でいつでも殺せます」

「――――――意識があるね。服従の類?」

「まさにそうです。じゃあ、殺しますね」


 一方の剣でソニアが頭を割ろうとした。それも躊躇なく。しかし、ミーシャはソニアの肩を掴み止めた。


「待って」

「え?」


 ソニアは動きを止める。反射神経の鈍い者であれば殺していた。


「ソニア、一定の声量だけ出させることって可能?」

「可能だけど、何するの?」

「聞きたいことが一つあるの」

「――――分かった。はい、どうぞ」


 王様は荒々しい呼吸を繰り返し、ミーシャを睨みつける。


「なんのようだ、賊人」

「――――――エリオット・アルトリウス公、ミシェル・アルトリウスは死んだ?」


 王様は血相を変えた。この状況にではなく、ある単語に反応したのだ。体を前へと動かそうとするが、ソニアの力により身動き一つとれない。


「その名前を、どこで?」

「どこだろうね。で、殺したの?生きてるの?」


 王様は歯を食いしばって押し黙る。ミーシャは小さな果物ナイフサイズの光の剣を持ち、王様の小指を一本切り落とした。ぼたぼたと血がベッドへ滴り、骨と肉の断面が見える。肉は赤く、骨は血に染められピンク色となっていた。


 予告や忠告はしなかった。ただ当たり前のようにミーシャは行った。王様は叫びたそうだったが、そうはできなかった。一方のソニアは黙って聞いていた。


「この国は愛妾あいしょうが禁止って、法律で明言されてるから、王様でも許されない。答えて。お前の名声なんて簡単に潰せる。今殺さなくても、近い未来殺される」

「はぁ――はぁ――分かった。答えてやる。あいつは死んだ。死んだよ。カリステンの馬鹿どもにな」

「カリステン?」

「なんだ?知らないのか?亡命先のカリステンにあいつは殺された。は知らんがな」


 ミーシャは黙った。王様をじーっと見て、何かを沢山考えている。


「分かった。私たちはこれで帰る。今後ともご贔屓ひいきに」

「え?なんで?殺すんじゃ…………」


 ソニアは混乱した。会話の情報量がひたすらに膨れ上がり、ソニアは追いつけなくなっていた。


「帰り道に話すって言ったでしょ。ほら、行くよ」


 ソニアは何度もミーシャと王様を見た。しかし、ミーシャは背を向けて入口へと目指す。仕方なくソニアは術を解き、ミーシャの跡へ続いた。

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