同郷者ソニア

『F9』

”執行人:ミーシャ:紫:ブリタニアール出身”

”執行人:ソニア :紫:ブリタニアール出身”


 ミーシャは隣国との境目に訪れていた。短い紙を一枚片手に周囲を眺めている。


「F9、国境だよなぁ。あ……」


 自分の来た道から一人の女性が来た。自分と同じ黒いローブを身にまとい、そして自分と同じ短い一枚の紙を握っていた。


「ん?あなたがミーシャ?」


 その女性は異常に白かった。誉め言葉ではなく、異常に肌と髪が白かった。しかし老婆ではない。ミーシャと同じ年頃に見える。


「てことは、お前がバニラか?」

「ソニアよ!」

「よかった」


 ミーシャは持っていた短い紙をソニアへ渡した。


「私はミーシャ。よろしく」

「――――よろしく。でも、なんでバニラなんて呼んだの?」

「本人確認」

「疑われたらどうするの?」

「今みたいに紙を渡せばいい。さ、行こ」


 ミーシャを先頭にソニアは続いた。二人は地図もコンパスもなしに真っ直ぐと隣国へ向かう。


 しばらくの間、森の空気の静けさだけが聞こえた。ミーシャはいつもの通り、機械的に行動していた。しかし、ソニアとってはぎこちなかったようだ。


「ねぇ、あなたは、ブリタニアール出身なんでしょ?」


 ミーシャは一瞬ソニアを見る。そして正面を向きながら答えた。


「うん、そうだよ」

「えーと、言いにくいんだけど、どうしてカリステンに来たの?私は孤児だったからさ。奴隷制度のないここを選んだの。あなたも孤児だったり?」

「違うよ」

「じゃあ、貴族だったりとか?」

「言えない。言いたくないんじゃなくて、言えない」


 再び静まり返った。ソニアはさらにぎこちのない顔になる。


「じゃ、じゃあ、思い出とかは?私はあるよ!」

「無理に話さなくてもいいよ。私は気にしてない」


 ソニアは少し黙る。しかし、ぎこちなさから来るものではない。


「――――あなたはそうかもしれないけど。私は、ミーシャさんが気になるの。同郷の者として、どうしてカリステンに来たのか、何が好きだったのかとか、執行人になった経緯、紫まで至った努力とか」

「――――――じゃあ、帰り道に教えてあげる」

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