圧制者アレックス

『ミーシャへ』

”政治家アレックスがすごい人気だけど、あれってなんでなの?ミーシャの見解が聞きたい。今度の日曜日、いつもの研究室に来て。報酬として飴三つ!絶対来て!”


「アレックス。飴三つだから、三千か。紫はすごいねぇ。額も対象もバケモンだ」


 受け取った手紙を暖炉へと投げる。みるみるうちに燃えていき、が消えた。マフラーを首へと掛け、雪の降る街へと出た。今日もどこかで、執行人は罪人を殺す。


「ふぅ――」


 ミーシャはある豪邸を通った。メインゲートには四人以上の見張り人、広々とした中庭にすら張っている。チラリと見るのではなく、ハッキリと豪邸の方へと目をやって観察した。物珍しく見て、ただの一般人を装う。


 そして近くにあるカフェなどに入店し、適当なものを注文する。物が届くまでは大人しく小説本を読み、届いたら読みながら飲食をこなす。最後にお代を払い、店を出る。


「はぁ――」


 白い息を手のひらへと当て、夜を楽しんだ。帰路へとつき、人気のない階段を上ると、ミーシャの姿が消えた。


「あれ?今あそこに人いなかった?」

「え?気のせいじゃない?誰もいなかったよ」

「おっかしいなぁ」


 ミーシャは階段を降りた。下から来た女性二人を通り過ぎ、またあの豪邸の前へと立つ。


「見張りご苦労。通らせてもらうよ」

「はっ!お疲れ様です!」


 メインゲートからミーシャは侵入した。


「あれ?今の誰だっけ?」

「さぁ?でも入れなきゃだろ?」


 ミーシャは次々と中庭に立つ者共へ挨拶を交わし、豪邸の玄関へとたどり着く。そこには見張り人がいない。しかし、鍵がかけられていた。


「どちら様でしょうか」


 木製の扉上部から目が現れた。スライドをすることで目視の確認ができる構造のようだ。


「私だ。開けてくれ」

「左様でございましたか。少々お待ちを」


 いとも簡単に扉にかけられた施錠が開けられた。ミーシャはさらに奥へと侵入する。


「本日はどういったご用件で?」

「アレックスに用がある。案内しろ」

「かしこまりました。ご案内します」


 執事のような人は、無警戒でミーシャをターゲットの元へ案内した。まるで彼女を知っているかのような対応だ。しかしミーシャはミーシャのままだった。


 一際豪華な扉の前へと立った。執事のような人はそれをノックし、入室する。


「旦那様、お客様です」

「あ?聞いてないぞ」


 光の刃が突き刺す。執事のような人は眠るようにゆっくりと倒れた。執行人ミーシャは冷静に扉を閉じ、光の銃口を向ける。 


「お前、執行人って奴だな?知ってるよ。上の馬鹿どもがやってる汚職中の汚職。あんたもそんな仕事嫌だろ?だから今な、それを使って、上の馬鹿どもを塗り替える準備をしている。どうだ?組まねぇか?」


 首を締められた小鳥のような鳴き声が響いた。終始、ミーシャは真顔だった。


「悪いけど天職なの」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る