リュドミラ人事

 国の中央に本部がある。他の建物とデザインが大きく異なっており、それが政府関連の建造物ということがすぐ分かる。そこへミーシャが入った。役人の顔をして。


「おはようございます。今日はどういったご用件でしょうか」


 黒いカードを取り出す。それを提示すると、優しい顔をしていた受付人が表情を変えた。


「あ、失礼いたしました。ご案内します」


 ミーシャは受付の裏へと回った。奥へ奥へと進み、誰も触らない扉の向こうへ消えた。


「リュドミラ、エレーナが死んだ」


 長方形の机を構え、何かの資料を読込んでいる女性の姿が見えた。ミーシャは彼女をリュドミラと呼んだ。


「ん?エレーナが死んだ?」

「うん。まぁ正確には、私がトドメ刺したけど」

「あぁそう。惜しいね、彼女は。とっても優秀だったのに。甘い奴だったけど」


 リュドミラに動揺は見られない。人の死に慣れている様子だった。同様にしてミーシャも慣れている様子だ。


「それで、私になんの用があるの?」

「執行人ミーシャ、お前がエレーナの後釜だよ」

「後釜?聞いてないよ」

「だから今言ったの」

「年功序列でいったら、ゾーヤ辺りのはずだけど」

「推薦だよ」

「誰の?」

「エレーナの」

「…………………エレーナが」


 死んだ人間の名前で出た。人の死にはかなり鈍い反応を見せたミーシャだが、遺言とも呼べる推薦には驚いた。顔を一瞬ハッとさせる。


「あの子は優秀だった。でも変だった。上から目標を提示されても、逃がすことがある。ミスじゃない。故意的に国外へ逃がした。政府は彼女を解雇しようとしたけど、貴族出の彼女がいったいどんな影響を与えるか計り知れない。だから上は彼女を放置した。周りも彼女を放置した。度々コンビを組むこともあったけど、相方は疲弊不満で解散」


 読んでいた資料を置き、リュドミラが初めてミーシャを見た。真っ直ぐと彼女の視線を捉える。


「ミーシャ、お前が初めての正式なコンビ。エレーナは不思議がってたよ。否定や肯定をするわけでもない。ただ、私の行動を観察している不思議な人って。もちろん私も驚いた。エレーナにペアができるなんて思わなかったから」

「なんの話?」

「つまるところ、エレーナは、ミーシャを理想の人格として捉え、君を推薦した」

「理想の人格?私が?」

「そう言ってたよ、エレーナは」

「ハッ、私がエレーナの理想?笑える冗談だね。エレーナを殺したのは私だよ?」

「とにもかくにも、昇進おめでとう。赤から紫へ。二階級特進だね」

「……………分かったよ。もう帰る。次の目標、早く送ってね」

「もちろん。でも、執行人にまともな生活は送らせないから」


 ミーシャは部屋を出た。扉が閉じ切るまでリュドミラは見続ける。手元に置いた資料へは手を伸ばさない。完全にいなくなるの待っていた。


「エレーナ、本当に彼女って天才?少しだけど、エレーナっぽいよ」

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