3. プロフィールシートとは一体
「ああ。先日領地の子供と関わる機会があり、もらった」
「子供からもらった……」
その、プロフィールシートというものだった。
子供から貰うなんて意外だわ。勝手ながら、もっと冷たい人かと思っていた。
「俺も書く。明日交換しよう」
「わ……かりました」
ではまた明日、と自室へ向かう伯爵の姿が見えなくなるまで、頭を下げたまま。やがて足音が聞こえなくなってから、すぐに部屋に戻って、羽ペンを取り出した……ものの。
「……わからない」
名前と誕生日しか、埋まっていないプロフィールシートを見て頭を抱える。
趣味「 」
……エリーだったら、お買い物やドレスを集めること、なんて書くでしょうけれど、私にそんなものはなく。朝起きて、掃除をして、朝食を食べて、帳簿を管理して、メイド長と家の管理や人事、采配について話していればお昼になってしまっていて。また掃除をしたり、事務をしていれば夕飯は過ぎてしまっている。
趣味は、掃除でいいかしら。別に嘘は言っていないわ。嫌いではないですし、体に染み付いてますし。
マイブーム「 」
ぶ、ブーム? エリーは最近よく宝石を集めては自慢しにきていたけれど。私が、していたことといえば……そうだわ、水垢をレモンで落とすのが効率的で……これにしましょう。
好きなもの「 」
……その五文字が、一番私を苦しめた。
「私の好きなものって、なんだったかしら」
どう頭を捻っても出てこない。食べ物は食べられればいいし、動物なんて触れ合う機会もなく、そもそも触れ合おうものならお継母様が酷く怒るだろう。
後回しにしてみると、他にはYES・NO形式のものがあってほっとし……たかった。
告白されたことはある? YES・NO
告白したことはある? YES・NO
好きな人はいる? YES・NO
全てあったら大問題なのでは??
もちろん全てNOに丸をつける。でも……伯爵のプロフィールシートにはYESに丸がついていたら……いいえ、付いていても、しょうがないことだわ。
そして今度は記入式の質問が続く。
好きなタイプ「 」
そ、そんなこと言われましても……。庶民は好きに恋愛ができるから、そういう話もするのね……。
結局、やっと全ての欄が埋まった時には朝になっていて。好きなものは、太い糸にしておいた。針穴に通ってさえしまえばちぎれづらいのが好きだった。
「おはよう、寝不足か?」
「おはようございます。少々考えごとを……こちらプロフィールです」
朝一番にお渡しすれば、伯爵は渋い顔をした。朝ではなく昼の方が良かったかもしれない。
お叱りを受けると思ったのに、伯爵はただ眉間に皺を寄せただけだった。
「睡眠時間を削ってほしかったわけじゃない」
「……いえ、私が不慣れでこうなってしまっただけで」
「すまない。一緒に書けばよかったな」
一緒に……?
どういう意味か理解できずにいる間に、朝食に呼ばれた。向かおうとする背中を見ていると、「なぜ食堂に行こうとしない」と言われた。何もしていないのに、今日もご飯が食べられた。
「れ、レイラさん。貴女何をしてるの!」
「掃除ですが……」
「伯爵夫人が掃除をするわけないでしょう!?」
その後、まだ信用ならないと仕事をさせてもらえず、とりあえず掃除をしていたところに、奥様の叫び声にも似た何かが聞こえた。
でも、伯爵令嬢であり、家の管理をしていても、実家ではやることになっていて……。
「示しがつきません。暇なら刺繍でもしていなさいな……はぁ、なんでまだいびってもいないのに自分から掃除しているの」
奥様はプリプリ怒って行ってしまわれた。使用人が二、三人やってきて「奥様に言われていたのではなかったのですか!?」とか「嘘でしょう……」なんて言われた。
同じ伯爵家でもここまで違うのね……と驚いた。
*
「レイラ、これを」
「……ノート、ですか?」
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