第38話 神聖王国にある国境の町から始まる



俺たちは何事もなく合流し、現在は王国の領地に入っていた。正確には目の前に王国側の国境の町が見える。


当然俺たちは王国を滅ぼすつもりのため、普通に王国に侵入するわけにはいかない。


王国で生きている者たちには悪いが、基本皆殺しだ。


特に念入りに殺す必要はないと考えているが、助けるつもりは毛頭ない。


全てを消し去るつもりで、俺はここにいた。


先制の一撃は今、カエデが準備している。頭が悪い作戦だが、高火力の一撃で吹き飛ばす予定だ。


念のため逃げられないように、シズクが『結界』を張り逃亡を阻止している。


カエデが放った一撃を見れば、カエデの成長の具合もわかる。正直に言えば俺とやりあった時よりも、今のほうが強いのではないだろうか。


魔力の質は少し落ちているかもしれないが、扱える魔力量と魔力の制御具合は成長していた。


ただ一撃で町を滅ぼすことは難しそうなので、追撃があと2~3発必要だろうと思う。


これもシズクが熱を逃がさないような『結界』を張っているから、それだけの量で済む。『結界』が無ければ、数倍の量が必要になるだろう。


まぁそれ以前に反撃されるし、逃げ出す者もいただろう。


こうして俺たちは最初の町を消し去った。



******



「ところで王国の人間は皆殺しにするのか?」


これは俺たちが王国の国境の町を襲撃する前の話。俺が『竜』となり、全員が集まって話をしていた時のことだ。


ターニャがこれからの方針について疑問を呈した。


「……別に助けたいわけじゃない。

 ただ純粋にどうするか、確認しただけだ」


「……なるほど。

 ターニャの質問も理解できます。私たちだけで皆殺しにすることは、難しいと考えているのですね。

 もしくは無駄な殺しはしたくないというところでしょうか」


口にするシズクも、無益な殺しを嫌っている。


「しかし今回は皆殺しの予定です。

 マントルドラゴンによる異世界召喚を研究した国に対する天罰。

 これが今回の目的だからです。

 誰も二度と研究しないように、見せしめを兼ねています。

 それとどちらの国もそろそろ滅びるべきです」


「それは何故?一応理由を聞いておきましょう。

 私も賛成ですけどね」


クズノハはニッコリと笑っている。


「簡単な理由です。

 どちらの国も内部が腐っています。

 内部闘争で疲弊して、何時崩壊してもおかしくないからです。

 それと食糧不足が理由ですね」


これは結構大変な問題であった。


神聖王国は内乱で食料不足に陥っており、今までも国を捨てて逃げる者が多くいた。そのほとんどが奴隷になっているが、その奴隷の影響で帝国も食料が不足してきている。


獣人連邦の方では、人間による略奪事件が増えてきたと聞いている。曰くどれだけ殺しても湧いて出てくるそうだ。


そういう意味では国の中枢だけを壊した場合、周りの国の影響が大きい。それなら周りの国に影響が出ないように、国の住人ごと殲滅するのが一番合理的だ。


「それともう一つ理由がある。

 俺が『竜』だからだ。

 『竜』は食えば食うほど強くなる。そのために王国には俺の餌になってもらう」


これも結構切実な問題であった。


「どうしてそこまで強さを求めるんですか?

 今でも十分に強いでしょう?」


カエデが首を傾げている。


「……カエデは知らないのか?

 神聖王国には『四聖』がいるし、魔導王国には『十大仙人』がいる。

 奴らは規格外の強さを持っている。『竜』にすら勝てると聞いている」


流石は元『九尾』のターニャだ。


「そういうあなたも『竜』と戦える『九尾』の一角だと聞いておりますが?」


クズノハがターニャを見た。


「……残念ながら、『九尾』は弱体化した。

 血統にこだわった結果、帝国に強い奴が流れた。

 そういう意味では帝国の『六芒星』の方が今は強いだろう」


ターニャは苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


「まぁそれを言うなら、『四聖』も『十大仙人』も内乱で半分以上死に絶えてますけどね。

 そういう意味では全く無事なのは『六芒星』くらいなものではないですか」


シズクは他人事のため、どこか投げやりな態度で話している。


「ともかくそういう理由で、神聖王国は殲滅する。

 といっても追い詰められて異世界召喚をされても面倒だ。

 まずは一直線に王都を目指す。

 その途中の村や町は殲滅して、俺を強化する。

 方針はこんなところだ。

 他に質問は?」


俺が周りを見渡すと、全員が頷いていた。


こうして俺たちは王国へと向かった。



******



俺たちはシズクの張った結界を解除して、国境の町へと入った。


思ったよりも中は綺麗な状況だ。カエデが生き物以外は燃やさないように調整してくれたおかげだ。


やはり魔法の制御がうまくなっている。


対象だけを燃やすのは難易度が高い。それができるようになっているところを見ると、カエデはかなり上達したようだ。


俺は中に入ると、『食事』を開始する。死体は残っていないようだが、『魂』は残っている。俺はこれを食らっていく。


俺は強くならなければならない。


犠牲が出るのも仕方がないことだろう。犠牲になったほうにしてみれば、堪ったものではないだろうが。


「……念のために生き残りに注意しながら進むぞ」


町というものはかなりの広さがある。そのため町の端の方には、殺し損ねた人間がいる可能性も否定できない。


「予定通り進行方向上にいる者は殺します。

 わざわざ端まで確認する必要はありません。

 王都へと向かうことを優先します」


シズクが決めていた方針を再確認した。


俺たちはある程度の俺の強化と、王都へと向かうことを優先している。


強化を優先するなら、端から端まで生き残りを探し回るほうがいい。しかしそれだと時間がかかり過ぎる。


そのため中途半端になるが、ある程度だけ殺して進むことにする。


こうして俺たちは最初の王国の町を後にした。



******



俺たちはそれなりに急いで行動をしていた。


敵に対策をされると面倒だし、できるだけ早く神聖王国を壊滅させたいと思っているからだ。


理由は異世界召喚の阻止のため。俺たちのことがバレると破れかぶれになり、無理やり異世界召喚を王国が行う可能性がある。


そうでなくても何時王国が異世界召喚を行うかわからないのだ。


俺たちが急ぐのも当然といえる。


その一方で俺の強化も急務といえる。王国は腐っていても一つの国だ。


国というものはそれなりの武力がある。


国境の町は国の一番端ということもあり、強い人間は別の国に逃げていて不在であった。


これはとても運が良かったといえる。


通常国の国境にある町は外からの攻撃に備えて、それなりに強い者がいたりする。


しかし神聖王国は腐っていた。そのため強い者は腐った国に見切りをつけて逃げ出した後であった。


そういう意味では俺たちが行わなくても、あの町はいずれ崩壊していただろう。


問題はこれからだ。


「……王都に近付くほどに、王国と心中する強者が出てきます。

 そいつらは全体を殲滅するような攻撃で倒せるほど、甘い相手ではないでしょう」


シズクの言う通りで、俺たちは既にいくつかの町や村を滅ぼしていた。


しかし先に進むにつれて、カエデの攻撃で倒しきれない者が残るようになっていた。


今のところは数も少なく、俺たちの敵になるほどではない。


カエデも全体に対する攻撃ではなく、個人向けの攻撃であれば簡単に倒せる程度の者である。


しかし実力に規則性があるわけでもなかった。


進んだ分強い相手が出るわけでもない。急に強い相手が出る可能性もある。


特に次の町は確実に強者が存在する。


『四聖』の一人、『剣聖』が治める町。


かつてシズクを殺した人間が住んでいる町だ。


俺たちはその町の前にいる。



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