第37話 王国を滅ぼすに至る状況
今一度重要な人物である『爺』について説明しておこう。
『爺』。本名不明。見た目は老人。実体は不明。年齢不明。西暦が生まれる前から生きていることから、少なくても2000歳以上。
地球と契約している存在。人間と呼んでいいかも不明。
契約により地球が滅びない限り、『爺』は死なない。『爺』を殺すには地球を滅ぼす必要がある。
地球規模の力があるが、手加減は苦手。力を使えば、地形が変わるレベルの損害が出る。
そのため小回りの利く存在として、『土御門家』を起こした。
土御門家は『爺』のために作られた家だ。一般的に強い力を持つ者を育てる場所だ。
もちろん限度はある。制御できなければ危険な力だ。
危険と判断されれば排除される。『爺』に管理された家が土御門家だ。
そして『爺』のための手足でもある。
「……とまぁ、簡単に説明するとこんな感じだ」
俺たちは今一度情報を整理する必要がある。そのためにここから見て異世界である地球の『爺』と土御門家について説明をした。
「それで旦那様が、土御門家で作られた式神生命体というものということですか……」
クズノハは何とか話について来ている。ターニャは理解を放棄している。カエデは頑張っているが、理解が追いつかないようだ。
「その認識で問題ない」
今の俺は生まれ直したことで、更に進化している。しかしそれが何なのか、俺自身にも理解できずにいた。
「……それで異世界召喚とうのは、何が問題になるのですか?」
クズノハは根本的な問題点について確認をする。
「それについては私から説明しますね」
笑顔のシズクが口を開いた。
「まず私は知っての通り淫魔です。
昔に『爺』と契約をしました。その契約はすでに完了していますが、今回『爺』によって利用されています」
『爺』が全ての黒幕のように思えてきた。そんなことは無いだろうけど。
……もしそうなら、勝つ見込みは無いな。
「さて異世界召喚の問題点ですが、簡単にいうと龍脈が乱れます。
龍脈とは世界の命の流れ。つまり下手をすると、世界の一部が死にます。
これがこちらとあちらの両方で起こります」
「……ということは前回の召喚で地球の学校周りの龍脈が乱れたのか?」
そんなことは無かったように思えたが?
「面倒なことに召喚される側の地球では、少し離れたところの龍脈が乱れます。
結構広範囲だったようです。大地様がかなり苦労されたと聞いております」
『爺』が動く理由もわかる。これは止めようとして動くだろう。
地球の龍脈が乱れるなら『爺』が動く理由としては十分だ。
「『爺』の目的は、地球の保全と人類の繁栄です。もちろん地球に生きる人類です。
異世界召喚はそれに喧嘩を売る行為ですので、阻止するために動いています」
「なるほど。そういうことか……」
クズノハが納得している。ターニャを見れば、既に夢の国へと旅立っていた。カエデは理解できない話をされて、頭を悩ませていた。
「……それで俺を『竜』に進化させて、どちらの王国も滅ぼそうということか?」
「はい、マイダーリンの言う通りです」
状況は何とか理解できた。しかし『竜』に進化しろと言われても困る。別に協力する気がないというわけではない。
協力するしかないと考えている。
「……確かに俺は強くなる余地がある。進化できる。しかしそれで『竜』になれるかと言われると、それは別の問題だ……」
俺は困惑していた。
「マイダーリンは『竜』について正しい知識はお持ちですか?」
「?『竜』とは生きた災害だろう?
強い災害。それが『竜』だろう?」
「不正解です」
シズクはニッコリ笑って否定する。
「『竜』とは魔力生命体です。異常な進化をした精霊であり、精霊でなくなった精霊です」
魔力生命体?精霊?どういうことだ?
「何らかの理由で自我を失うほどの力を蓄えた精霊が変異したものが『竜』です。
妖精でも同じことが起こり、『竜』が生まれたことがあります。
また力に支配されたものが、『竜』に変異することもあります」
だから『爺』は地球の魔力の濃度を低くしたのか!『竜』を生み出さないために。
力に支配されることを望んだ流派を消したのも同じ理由だろう。
『爺』は地球で『竜』を生まれることを望んでいない。
「今回マイダーリンには、大量の魔力を吸収して変異してもらいます。
その際にくれぐれも自我を崩壊させないように気を付けてください」
シズクは笑顔で言っているが、その内容は酷いものだ。
気が付くと、俺の足元には魔法陣が作られていた。
シズクかっ!!
俺の体に大量の魔力が流れ込んでくる。それと同時に俺の変異が更に生まれて加速する。
強制的に俺のことを『竜』に変異させようとしているのだろう。
大量の魔力を流されて、俺の意識は徐々に眠りへと誘われる……。
******
俺が意識を取り戻すと、俺の隣にはシズクがいた。
こいつは俺が眠りについてからも、俺から魔力を奪い取っていた。シズクの生きるための魔力は、俺から供給されている。
それを利用して俺の意識が崩壊しないように、魔力の量を調整して変異をコントロールしていたようだ。
「この作戦にはマイダーリンが必須です。
マイダーリンを死なせることは、私の目的に合致しません」
シズクは俺のことを極限まで追い込むことはあっても、最後の最後で守ってくれるようだ。
一応俺の味方なのだなと再認識した。
「ところでどれくらいの時間が経っている?」
俺は少し長い間寝ていたような気がするが、それがどの程度の時間かは分からなかった。
俺はシズクを見る。
「1年というところですね。
予想していたよりも早かったです。
ちなみにターニャとクズノハとカエデはエルフやドワーフと交流を持ちながら鍛錬しています。
いずれ来る王国を滅ぼす日を目標に、強くなってもらっています」
1年か。結構時間が経っているとみるべきか、1年程度で済んだとみるべきか迷うな。
俺は『竜』になったようだが、見た目の変化は全くない。しかし自分の体の中に恐ろしいほどの魔力が渦巻いているのがわかる。
それに奴隷契約を通じて、ターニャたちの能力の一部が俺に流れ込んでいるようだ。恐らくはシズクの仕業だろう。
今の俺はターニャよりは遅いが、前よりも早くなっている。
クズノハよりも拙いが、体術が向上している。
カエデの影響で俺の魔力の質が良くなっている。もちろんカエデほどではないだろう。
シズクには劣るが魔法の技術も上達したようだ。
自分の体の中の魔力量からみて、一般的な『竜』の姿に変身することも可能だろう。
全く気乗りがしないので、行うことはほとんどないと思うが。
俺の姿は大地様の姿だからな。
「まずは全員と合流しましょう。
それから神聖王国に向かい、殲滅します」
やはり先に神聖王国か。魔導王国は現在空を飛んでいる。空を飛ばなければ、侵入することすらできないだろう。
「だから『竜』になったのでしょう?
こだわりを捨てて、変身すれば普通に飛べるでしょう?」
……確かにそれは正しい。それは正しいが、気乗りがしない。とりあえずは後回しにしよう。
奴隷契約を結んだ相手は、その居場所を主人である俺が知ることができる。
それを使って、全員と合流しよう。
俺とシズクはドワーフの里にいると思われるカエデを迎えに行くために旅立つことにした。
******
さて、俺は『竜』になった。
なら『竜』としての名前があってもいいと思う。
王国を滅ぼすのだ。その象徴となる名前があるほうが、分かりやすいだろう。
俺の属性は『金』と『火』。それが混ざり合わさっている。
なんと名前を付けるべきだろうか?
……よし!金属が溶けているというのを表現するために、『マントルドラゴン』と名乗ることにしよう。
マントルは金属が溶けているというのを表現している。それに合わせてドラゴンだ。
名前が決まれば、次はドラゴンとしての姿も決めよう。変身する予定はないが、念のためだ。
魔導王国を滅ぼすために、空を飛ばなければならない。翼は必須だな。
鱗は金属製だろう。火を吐くことも決まりだ。
オーソドックスな四つ足で首が長く、翼を持つドラゴンにするか。
体は金属製で、角を持ち火を吐くドラゴンだ。
色々決まったところで、後は二つの王国を滅ぼすだけだ。
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