第35話 カエデの戦いとカエデとの戦い



一番の問題となるのが、カエデである。


こればかりは勝つ見込みがない。敢えてカエデの成長が見込めるために、行っている。普通に考えれば、カエデに勝負させること自体がおかしい。


案の定、カエデは負け続けていた。シズクがカエデの傷を治しているため、カエデは無事だ。


カエデ自身は自分の『火』の力をずいぶんとうまく扱えるようになっていると思う。しかし相手は『火』の精霊だ。魔法における技術は天と地の差がある。


カエデはようやく一人前といったところだろう。対して『火』の精霊はその属性の極みである。ハッキリ言えば技術では勝負にならない。


では質と量についてはどうかというと、質も量もカエデのほうが上である。カエデの『火』は世界が異物を排除するために、世界から与えられて『火』である。質はすごく高い。そして量についてもかなり多い。


質も量も圧倒しているが、技術の差による相性が悪過ぎた。


『火』の精霊にとって『火』の魔力は吸収できる。敵がどれだけ強い『火』を持っていても関係がない。その全てが自分のものとして取り扱うことができるのだ。


何度も言うが勝ち目なんて全く無いのだ。


「……クソっ!また負けた」


カエデは土俵の上で転がされていた。カエデは精霊と相撲を取っていたが、特にまわし等は付けていない。普段の服である。動きやすい長袖長ズボンだ。


今回の相撲は特に反則もないため、相撲という名前の全く別物である。


先程もカエデは土俵の上で魔法を放っていた。


殴りかかったり、蹴りを放ったりもしている。もっとも相手にされず、転ばされているだけである。


「まだやるか!元気があり、楽しいから付き合うぞ!!」


『火』の精霊は楽しそうにカエデと戦っている。


カエデが戦いの中で少しずつ成長していることも、『火』の精霊には分かっていた。その上で戦いを楽しんでいるようだ。


「一通り魔法の使い方は間違っていない。

 しかしお前の力は世界から授けられた力だ。普通の力じゃない。

 だから使い方も普通の使い方じゃ、意味がない。

 俺に通用しない。

 もっと体で感じろ。力の本質を感じて、引き出すんだ」


カエデに助言をしているくらいだ。本当に楽しそうだ。


それに比べるとカエデには余裕がなかった。倒そうと考えて、少し焦り過ぎのように思える。これだと逆にうまく力が使えないだろう。


「もっと力を抜いて、リラックス!

 全身に流れる力を感じるんだ。

 それは自分の力だ。自分を信じろ!自分を感じろ!

 自分の中の力を開放するんだ!!」


『火』の精霊がカエデを応援していた。


……こいつも状況を理解していないように思える。


『火』の精霊は完全にカエデの指導を行っている。恐らく試練という名目については完全に忘れていることだろう。


「……そうだ!!その力だ!!

 それが世界の力だ!お前の力だ!!

 その力を使って、一気に俺のことを土俵の外へ押し出すんだ!!」


ようやく自分の本当の力に目覚めたカエデに、力を絞り出させながら『火』の精霊は負けていた。


全力でやっていれば確実に負けることは無かった。しかし指導者としては、あそこは負けるところだろう。力を最後まで絞り出させて、わざと土俵の外へ押し出されていた。


指導する立場とすれば負けてもおかしいことではない。ただ勝負している割に勝ち負けに拘っていないように見える。


どうやら精霊たちはある程度の実力さえ確認できれば、負けてもいいと考えているようだ。


残すは俺だけだが、俺の方はとっくに勝負がついている。


俺は『闇』と『光』の精霊相手に互いに裸でベッドの上で勝負を行った。


結果は俺が勝利している。精霊たちはまだベッドの上でダウンしていた。


クズノハの方も口先で『水』精霊に勝利していた。


これで全て俺たちの勝利で終わった。



******



俺は5人のエルフを作り終えていた。正確にはまだ生まれていないが、既に種は蒔き終わっていた。


ちなみに俺は妖精相手にも勝利し、5人のドワーフの種も蒔き終わっていた。


これで俺は10人の父親である。実感は全くない。子供たちも精霊や妖精に育てられるため、俺がすることはこれ以上は全くない。


ハッキリと言えば俺は種を蒔いただけである。まぁそれを望まれたわけだが。


こうして俺たちは、この連合国で生きていくことが認められた。


少しずつではあるが、エルフやドワーフと交流も始めている。


こうした俺たちに少しだけ変化があった。


ターニャが『風』の力を手に入れた。クズノハが『水』の力を手に入れた。


そしてカエデが『火』の力を使いこなせるようになった。


シズクの言うところの一歩進んだのである。


「……コウテツ。今こそお前を倒す時!」


俺は今、カエデから挑戦を受けることとなった。


命懸けの殺し合いである。


といっても俺にはまだ殺す気も殺される気もない。



******



俺の目の前にはカエデがいた。ここは周りに迷惑をかけないように、誰もいない火山地帯である。


森だと『火』で燃える恐れがあるため、火山地帯でドワーフの集落から遠い場所に俺たちはいた。


シズクとターニャとクズノハは俺たちの戦いを見守るために、少し離れたところにいる。姿を隠しているが、精霊たちもこの戦いを見守っている。


もしくは娯楽として楽しんでいる。


「……コウテツ。

 殺す!」


カエデは力の使い方については、鍛えられて上手になっているようだ。『勇者』としての本来の質も引き出せるようになっている。


その一方で力に飲まれているように思える。世界の意志に自分の意志が飲み込まれている。力を使うのではなく、力に使われている感じだ。


精霊にしてみれば、これは正しいのかもしれない。


エルフやドワーフを精霊や妖精が守っている。


これはエルフとドワーフが自分たちの力を、自由に使うために必要な道具だからだ。魔力生命体である精霊や妖精にとって、魔力の使い過ぎと取り込み過ぎは自分たちの自我に影響が出る。


そのためエルフやドワーフといった肉体を使いながら、魔力を周囲から取り込み使用する。そうすれば自分たちの自我の影響はない。


そのために生育している家畜だ。精霊や妖精にとって、エルフとドワーフは家畜である。別にそのことを俺は責めるつもりはない。


それはエルフやドワーフと精霊や妖精の問題だからだ。


俺には関係のないことだ。俺の子が巻き込まれているかもしれないが、それは代価として支払ったもので俺のものではない。


俺の子としての認識はない。エルフでありドワーフだ。


これが大地様の子なら、俺は怒り狂っていたところだろう。


「……かといって、目の前で見ると少し気分が悪いけどな」


精霊の指導を受けたカエデが世界の意志に飲まれて、世界に利用されていた。


地球にも力の意思に従うという流派があった。奴らは自分の意志でなく、力の意志によって力を振るっていた。


俺たちとは相容れない考えだ。少なくともうちの流派の考えではない。


そのため『爺』の意志で消し去れた流派だ。


俺は再びカエデを見た。カエデの右手に集められている炎は俺を殺すだけの威力があるだろう。


ついにカエデは俺を殺せるだけの力を手に入れた。


残念なのはそこに自分の意思がないことだ。カエデがカエデの意志で、俺のことを殺そうとしないといけない。


世界の意志とやらで殺そうとするなど、馬鹿げている。


力は使うものであり、使われるものではない。


その点は精霊たちと主張が全く異なる。


だから俺は目の前のカエデをぶっ倒すことにする。


殺す価値もない。まだまだお前はその土俵にすら立てていない。


そのことをもう一度教えてやろうと思う。


俺の目の前には、カエデが放った俺を殺すための炎が迫っていた。



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