第34話 精霊たちの試練



さて、俺は『5人』のエルフを作らなければならない。


そのために俺は精霊と交わる必要がある。精霊と交わるためには精霊に認められなければならない。


そして俺の前には『6体』の精霊が姿を現していた。


……数が合わない気がする。


精霊たちは人間の姿をしており、姿形はほぼ同じだ。顔などにも違いは見受けられず、髪の色だけがそれぞれ違っていた。全員が中性的で、髪の色と同じ色のボディスーツを着ている。肉体の起伏はほとんどなく、体型はスレンダーといえばいいのだろうか。


このまま黙っていても、何も進まない。俺から声をかけるしかないだろう。


「……初めまして。俺はコウテツです。

 皆さんはどうのようにお呼びすればいいですか?」


俺は少し丁寧に彼らの呼び名を聞いた。


「……ヤミ」


髪の毛が黒い精霊が呟く。


「ヒカリ」


髪の毛が白い精霊が答える。


「ホノオ!」


髪の毛が赤い精霊が叫ぶ。


「ミズ」


髪の毛が青い精霊は目を逸らしている。


「カゼ」


髪の毛が緑色の精霊はどこか遠くを見ていた。


「ダイチ」


髪の毛が黄色の精霊を俺は思いっきり殴った。


よし!殺そう!!


俺は完全にキレていた。この精霊はあろうことか、『大地様』と同じ名前を名乗った。許せるわけがない。


絶対に許してはならない。


俺は『ダイチ』と名乗った不届き物の精霊の上に馬乗りになると、全力で殴り続ける。


周りの精霊?『結界』を張って侵入を阻んでいる。あと1分は持つだろう。


俺は1分以内に不届き物を倒すための算段を行う。


…………よし、食い殺そう!!


次の瞬間、俺は『結界』内に侵入者を感知した。誰だっ!?


そこにいたのはシズクだった。シズクも『爺』から術を習っている。つまり俺と同門。そのため俺の『結界』に干渉できたのだろう。


一体何の用だっ!?


俺がシズクを見ると、急に眠気が襲ってきた。


どうして……?ここで俺の意識は途絶えた。



******



目が覚めると、俺の目の前には『5体』の精霊がいた。


髪の色から『闇』『光』『火』『水』『風』を司る精霊たちだろう。


気のせいか『土』の精霊がいた気もするが、思い出すことができない。


それにしても何故精霊たちは、俺から一歩引いているのだろうか?


何かあったのかな?


シズクを見ると、少し疲れた様子であった。


カエデを見ると、何故か驚いている。


ターニャは笑っているし、クズノハは笑顔が引き攣っていた。


どういうことだろう?


「……改めて私たちがあなたを審査するものだ」


黒髪の精霊が呟いた。


「私たちはそれぞれ違う試練を与える」


白髪の精霊が言った。


「それに合格すれば私たちはお前のものになる」


赤髪の精霊が叫んだ。


青髪の精霊は目を逸らしているし、緑髪の精霊は全く別のところを見ていた。


『闇』の精霊が『風』の精霊に耳打ちをする。


「……最初の試練は『鬼ごっこ』」


緑色の髪の精霊が始めて俺のほうを見た。


「ルールは簡単。私が逃げる。あなたが10秒数えて私を追いかける。

 私を捕まえたらあなたの勝ち。私が逃げきれたら、私の勝ち。

 制限時間は1時間。

 何か質問は?」


「……代理のものが参加してもいいのか?」


「好きにすればいい。複数人で追いかけても、私は構わない。

 他は?」


「……ない」


「なら開始する。私は逃げる」


次の瞬間、『風』の精霊は文字通り風になり逃げていった。


俺は10秒を数える。…………数え終わった。


「ターニャ!お前が一番速い!

 追いつけるか!?」


今回緑髪の『風』の精霊は姿を隠していない。ならターニャが追いかけるのが一番速い。


ターニャが逃げる精霊を追いかけていった。俺はそれを見送ると、残っている精霊に向き直る。


「『鬼ごっこ』はターニャに任せた。次に行こう」



******



次は青髪の『水』の精霊。試練は『かくれんぼ』。


ルールは俺が100数えている間に『水』の精霊が隠れる。制限時間の1時間以内に見つけ出せれば俺の勝ち。見つけ出せなければ『水』の精霊の勝ち。


今回も代理人は認められている。そのためクズノハに探してもらうことにした。


続いて赤髪の『火』の精霊。試練は『相撲』。


円形の土俵の中で『火』の精霊と相撲を取る。


ルールはほぼ一般的な相撲と同じ。土俵から出るか足の裏以外が地面に着いたら負け。


唯一の違いは反則負けがないこと。つまりほぼ相撲ではない。


反則がない以上、殴る蹴る何でもござれだ。


『火』の精霊相手に一回でも勝てば、こちらの勝ち。こちらは何度負けても良い。


諦めたらこちらの負け。


俺は『火』が苦手のため、カエデに任せた。


念のためにシズクが補助としてついている。


これはターニャやクズノハとは違い、勝てるとは思っていない。


俺が『火』が苦手なこともあるが、それ以上にカエデの練習に丁度いいと思ったからだ。そのためカエデには無理はしなくても良いと伝えている。


残るは『闇』と『光』の精霊。


「……私たちの試練は」


黒髪の『闇』の精霊が呟く


「何でもいい」


白髪の『光』の精霊が言った。


「何でもいい?

 それはどういう意味だ?」


俺は2体の精霊に聞き返した。


「「内容はあなたが決めていい。私たちに勝てると思う内容で勝負すればいい」」


2体の精霊の声が重なった。


つまりこちらの得意分野で勝負してくれるということか。その分俺は一人だが、相手の精霊は2体。俺の得意分野で勝負するのが、最適だろう。


俺が精霊に勝てそうな得意分野とは何だろう?


頭を悩ませるが何も出てこない。


俺はふとシズクたちの方を見た。そして勝負方法を思いつく。


これなら俺が2体の精霊に勝てると確信する。


「決めたぞ。勝負方法は……」


こうして全員の勝負が始まった。



******



『風』の精霊とターニャの勝負は単純なスピード対決になっていた。


ただ真っすぐな道を何の駆け引きもなく走る続ける。


駆け引きなどをすれば、確実に『風』の精霊が勝つだろう。しかしそれではスピードで勝てないといっているのと同然である。


だからどちらも走る続ける。力の限り走り続ける。


そして先に限界が来たのはターニャであった。かなり無理してスピードを上げていたため、体力より先に足が持たなかったようだ。


ターニャは足が意識についていけなくなり、派手に転んで倒れ込んだ。


それを見た『風』の精霊は足を止め、ターニャのもとに駆け寄るとターニャの手を取った。


ターニャは『風』の精霊の手を取って、起き上がる。精霊と狼獣人の間に友情が生まれた。


……ところで『鬼ごっこ』のルールは知っていますか?


スピードでは負けたが、『鬼ごっこ』はターニャの勝ちであった。


『風』の精霊とターニャにとってそんなことは些細なことでしかない。



******



クズノハは『水』の精霊を探していた。


『探知』を使用しているが、見つけることはできなかった。理由は元々精霊が『隠形』が得意なためもある。しかしそれ以上に厄介なのが、周りに多くの精霊がいることだ。


たくさんの精霊の中から隠れている『水』の精霊を見つけなければならない。


更に面倒なことに関係のない『水』の精霊も多くいる。


ハッキリ言えば違いがわからない。見分けることなど不可能に近い。


「……どうするかな」


クズノハは少し悩んでいたが、やがてすぐに決断した。


「見つけた。あなたが『水』の精霊です」


そこにいるは確かに『水』の精霊であった。しかし隠れていた個体ではない。今回の勝負と関係のない個体である。


「私、違う!」


「関係ないですね。私が聞いたルールでは『水』の精霊を見つければ勝ちと聞いています。

 あなたは『水』の精霊です。勝負していた個体とは違うかもしれませんが、『水』の精霊です。

 ならこの勝負は私たちの勝ちで、あなたには旦那様の子を孕んでいただきます」


クズノハはニヤリと笑う。


正直まともにやって勝てるわけがない。たとえ本物を見つけたとしても、相手に違うといわれればそれで終わりだ。こちらには本物を見分ける手段がない。


なら偽物でも本物と言い張って通すしかない。もしくは違いを確認するために、本物を出せといって見つけ出すしかない。


ここからは魔法の技術の戦いではない。口先の戦いだ。


クズノハはこの勝負には自信があった。



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