第33話 エルフたちに認められるための条件
俺たちはついにエルフの集落に辿り着いた。よくある異世界もののエルフの集落のように、エルフたちは木の上に家を作って住んでいる。
意味はあるのだろうか?
この辺りの魔物は精霊にとって敵になるような者はいない。つまり木の上に隠れる必然性がない。精霊が対処できない魔物もいるかもしれないが、そのような魔物なら木の上でも全く安全ではない。木の上から落ちることを考えると、デメリットのほうが大きいと思う。
俺が不思議そうに集落を見ている一方で、ターニャは強い相手を探しているようであった。正直俺たちは不審者にしか見えないだろう。
エルフたちは俺たちのことを遠くから観察しているようであった。かなり警戒されている。少なくとも歓迎はされていない。
「……旦那様。私が窓口になって交渉を行いますので、短慮を起こさないようにだけお願いします。
特にそこの狼には注意しておいてください」
クズノハがエルフたちの方へと歩いて行った。交渉はクズノハに任せよう。
エルフの方へと目を向けると、様々な体型のエルフたちがいた。
軽く見た感じだと、痩せ型が多い。それなりに筋肉質だが、体型が恵まれているとは言えない状況だ。恐らく食糧事情があまりよくないのだろう。
森の恵みはあるから、たんぱく質や脂質などの栄養は大丈夫と思う。俺も専門家ではないため、間違っている可能性もある。
俺が考えるに主食となる炭水化物が、少し不足しているのではないだろうか?彼らは作物を育てているような感じがない。そうすると本当に森の恵みだけで生きているということになる。そのため領地が広い割には人口が少ないのだと思う。
「……マイダーリン。あまりその辺りのことは考えても無駄ですよ。
彼らには彼らの生活があります。私たちは彼らに干渉するために、ここにいるわけではありません」
確かにシズクの言う通りだな。
俺たちに目的は……なんだ?
「私たちの目的は安住の地の確保です。
帝国は私たちにとって、安住の地ではありませんでした。
王国は論外です。
獣人連邦は揉め事が確実に起こります」
そうか。だから俺たちはエルフドワーフ連合国に来たんだったな……。
カエデを見ると歩き疲れたのか、少し疲れを見せているが相変わらず無言のままだった。
「……そういえば、カエデはどうなんだ?」
「どうとは?戦闘の実力という点においては、かなり上げてきております。
ターニャやクズノハといった良い手本と模擬戦を行うことで、自分の力をある程度制御できるようになっていますね」
俺はあまりカエデとは関りを持っていなかった。移動の際にたまにカエデがターニャやクズノハと模擬戦をしていることは知っていた。多少実力が上がっていることも、何となく感じられた。
「……それで俺に届きそうか?」
俺はカエデの実力を完全には把握していない。もしかしたら俺を殺すのはカエデかもしれないのにだ。少し油断し過ぎていると、言わざるを得ない。
「……そうですね。あと一歩というところでしょうか。
もう少し成長すれば、マイダーリンを相打ちでなく殺せると思いますよ」
シズクはニッコリと笑っている。
「ということは相打ち覚悟なら、俺を殺せるということか?」
「それについは後半歩ですね。
まぁマイダーリンの手札を全て分かっている訳ではないので、現在は慎重に実力を底上げしている状況です」
なるほど。ある意味頼もしいが、ある意味怖いな。そう考えると、ある程度『火』を制御できるということになる。カエデを戦力として計算してもこれからは大丈夫ということか。……殺されないように気を付けないといけないけどね。
「……前にも言ったけど、そういう話は私がいないところでして欲しい」
カエデが抗議の声を上げている。
……気のせいかもしれないが、前よりも俺を見る目が柔らかくなっているように感じる。もしかしたら俺を殺せるようになっても、カエデは俺を殺さないかもしれない。
俺はほんの少しの願望を込めつつ、カエデに対して微笑んだ。
「……キモっ」
やっぱりカエデは俺の敵である。俺は今それを再確認した。
俺は苦手な『火』に対する対策を考えることにした。
******
そんなことをしているとクズノハが戻ってきた。その顔に困惑の色を滲ませている。
「……どうした?」
「少し面倒なことになりました。
短期の滞在すら認められませんでした」
クズノハはそう言って、大きく肩を落としている。
「エルフたちが排他的と聞いていましたが、ここまでとは思いませんでした。
しかし何とか条件を引き出すことにも、成功しました」
「条件?どういうことだ?」
クズノハの話についていけず、ターニャが口を挟んでくる。
「私たちがこの国の住人と交流するための条件です。
そしてこの国に住むための条件にもなります」
クズノハは一度俺たちを見回した。
「まず住人と関わらなければ、この国で生きていくこと自体は問題ありません。
精霊たちに見張られることになりますが、天然魔物をはじめとする森の恵みを頂くことは可能です。
もちろん生きていくために必要な分に限りますけど」
つまり森の中やドワーフの住む火山地帯で自給自足は行えるということか。
しかしそれだとかなりの無理がないか?
「私たちだけで生きていく?
それはかなり無理がありませんか?」
同じ考えに至ったのか、カエデが質問の声を上げる。
「当然そうですね。全てを自分たちで作り出すなど、不可能とまでは言いませんがかなりの無理があります」
たった5人で森の中で生きていく。それはスローライフなどではなく、サバイバルだ。とてもじゃないが、そんな生活は遠慮したい。
「そこでこの国の住人になるための『儀式』を行うことができれば、この国の仲間として認められるということになりました。
そのため私たちは『儀式』を行うために、再度森の中に入ることになります」
このエルフの集落から出て、森の中で『儀式』を行うということか。
「それで?その『儀式』の内容について教えてもらえますか?」
シズクが一番問題になる点について、確認を行った。
「『儀式』の内容、それはエルフを5人作ることです」
******
エルフ。それは人と精霊との間に生まれた子供である。
「……つまり血が濃くなってきているから、新しい血が欲しいということだな。
ただエルフと人間が子供を作ると、生まれる子供は人間に近くなる。
それは嫌だから、精霊と交わって子供を作れということか」
「ええ、要約するとそうなります」
排他的。言い換えればエルフとドワーフは閉鎖的ということもできる。そうすると気が付かないうちに、近親婚を繰り返してしまう。
血が濃くなると特定の病気に罹りやすくなるなど、様々な問題が起きる可能性が出てくる。
解決方法は簡単。外の血を取り入れればいい。そうすれば血は薄くなる。
薄くなるといっても、半分は精霊の血を継いでいる。この程度なら許容範囲だろう。
その一方で俺たち、正確には俺とシズクとカエデはエルフやドワーフと子を作ることを禁じられている。
血が薄くなりすぎるためだ。あくまでも精霊との間に子供を作って薄めて欲しいとのことだ。
ターニャとクズノハは論外である。ターニャは狼獣人。狼獣人は人間か狼獣人か狼としか子を成すことができない。
クズノハは狐の妖怪であり、ほぼターニャと同様だ。
俺は式神生命体であるが、繁殖能力は人間と同じである。サキュバスであるシズクは本人が望めば、ある一定水準以上の魔力を持った相手となら子を成すことができる。
というより水準以下と子を成すことなんて考えたくないというのが本音らしい。能力的には俺と同じで普通の人間とみて問題ないだろう。
「それでこれは俺の個人的な感情によるものだが、エルフを作るのは俺一人で行うということでいいか?」
精霊はどちらもいける存在である。オスであり、メスでもある。だから俺が作ることにこだわる必要は本来はない。
しかしシズクが精霊と交わるところを見たいと思わないし、カエデについても同様である。
俺には『寝取られ』はまだ早過ぎる。いや、そんなものはいらない。
女性陣からすれば逆に『寝取られ』なのかもしれないが、ここは俺の俺の意見を通させてもらう。
「私はそれでいい。精霊と交わるなんて考えたくもない」
カエデは嫌悪をもって、エルフを作ることを拒絶している。俺が代わりになるのは問題ないようだ。
「私はどうでもいい。コウテツが作りたいなら、作ればいい」
ターニャは浮気を認めている。というよりターニャは体だけの関係であるため、そもそも言われる筋合いがない。
「私も問題ありません。私は作れませんので、旦那様が作っていただければ助かります」
クズノハも容認。ちなみにクズノハとも体の関係はある。帝都に戻った際に奴隷契約をして、肉体関係も結んでいる。
「私にとって大切なのはマイダーリンが私に魔力を与えることです。
それさえ守っていただけるのなら、誰と子を成しても問題ありません」
シズクも容認。これで全て問題なし。
後は精霊と交わり、エルフを作るだけである。
「言い忘れましたが、精霊は実力を認めなければ子を成すことを認めてくれませんよ」
クズノハが重要な事項を告げた。
俺は精霊と戦い、勝利しなければならないらしい。
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