第31話 帝国との決別



「冒険者ギルドは、シズクさんの力を高く評価しています」


シスから放たれた言葉に、俺は理解が追いつかなかった。


「オーランド支部副支部長のウエンツさん曰く、シズクさんは伝説の『黒龍殺し』と同等の力を持っているとのことです」


ウエンツ?あいつか?あいつの手紙にそのようなことが書かれていたのか?


俺はシズクを見た。シズクは表情を消して、何を考えているのか分からない。


「『黒龍殺し』ですか。

 流石にそれは無茶がありませんか?」


クズノハが口を挟んできた。こいつも『ツチミカド』の一員であり、口を挟む権利がある。


「『黒龍殺し』は伝説の淫魔ですが、神聖王国の『剣聖』によって殺されています。

 その際の傷が原因で『剣聖』は引退に追い込まれたと聞いています。

 シズクさんをそんな化け物のような淫魔と同等と考えているのですか?」


クズノハの意見は正論だろう。伝説の淫魔と同等とみるなんて普通に考えればおかしい。


でもシズクは同等といわれても、おかしくないのかもしれない。


元々シズクは『自己転生』で肉体が生まれ変わったサキュバスだ。魔法の技術としては、俺が足元にも及ばないくらい優れている。


もしかしたら伝説の淫魔の正体もシズクなのかもしれない。


「お断りします」


シズクの声が静かに響いた。気が付くと窓口に『結界』が張られている。恐らく『防音』のための『結界』だろう。張ったのはシズクか。


「私が伝説の淫魔と同等だからどうしたというのです?

 その依頼を受ける理由にはなりません」


シズクは静かに拒絶の意思を示していた。


「……シズク様。私はシズク様がその伝説の淫魔そのものではないかと思っております」


シスは相変わらず表情を張り付けたまま、言葉を紡いでいる。


「それで?

 仮に本人として依頼を受ける理由にはなりません」


「あなたは!あなたには倒せるだけの力がある!

 なら倒してくれもいいじゃないですかっ!!」


シスが急に叫び出す。急にどうした?俺はシスのことを注意深く観察した。


……これはシスのことを誰かが操っているな。


通りでシスの様子が少し変だったわけだ。


「それが事実としても戦う理由にはなり得ません。

 『竜』と戦うことはそれだけ危険なことですから」


シズクは淡々と拒絶していた。


「それにものを頼むときは自分の口からいうものですよ。

 操り人形の口から頼まれた依頼を受けるわけがないでしょう」


誰が依頼したかまでは分からないが、帝国とは距離を置いたほうがいいな。


「申し訳ありませんが、依頼については拒否します。

 私たちはエルフドワーフ連合国に行きますので、そのつもりでお願いします」


このような状況になり、俺も逆に冷静になっていた。冷静に拒絶し帝国から去ろう。


「貴様らには、」


「何の義務もありませんよね」


シスの口を借りた言葉をクズノハが遮った。これ以上は話すだけ無駄だ。


俺たちは窓口から立ち去ることにする。


カエデとターニャは何も話していなかったが、俺たちに決定に異を唱えるつもりはないだろう。


俺たちは帝国からエルフドワーフ連合国に向かうこととした。



******



「……シズク。伝説の淫魔というのはお前のことか?」


エルフドワーフ連合国に向かうこと途中で、俺は気になっていたことをシズクに尋ねる。


「そうですね。

 『自己転生』を行う前の話になりますが、私です」


「じゃあ、『黒龍殺し』と呼ばれたのも?」


「私です」


シズクはなんてことのないような感じで答えている。


「今でも『竜』を殺せるのか?」


一番重要となる点について確認する。


「可能です。『竜』相手でも私の『魅了』は通用します。

 そのため『竜』ですら殺せますね」


「そうか」


「ええ、そうです」


「……」


「……」


俺たちは必要なことを話し終わると、黙って歩き続けている。


「いや、それで終わらないでください」


クズノハが口を挟んできた。


「伝説の『黒龍殺し』の淫魔ですか?

 どうしてそんなあなたが奴隷なんてやっているんですか!?」


「殺さずに精気を吸えるのがマイダーリンだけだから。

 こう見えても私、誰かを殺すことが嫌いなんですよ」


「!」


シズクの答えにクズノハは息をのんだ。


「コウテツ!詳しいことは分からないが、エルフドワーフ連合国に向かうということでいいのか?」


蚊帳の外だったターニャが口を挟んできた。


「ああ、それでいい。

 俺たちは帝国を捨ててエルフドワーフ連合国に向かうことになっている」


「お前も大変だな。

 ついに帝国まで敵に回したか!

 本当に面白いな」


こんな状況でも普通にターニャは笑っていた。それに対してカエデは、ある意味いつも通り俺のことを睨んでいる。


「それで念のための確認なんだけど、エルフとドワーフの特徴ってどういう感じなんだ?」


エルフとドワーフは様々な作品で活躍しているが、作品によって姿などが大きく違う。一般的な例でいうとエルフは華奢でスレンダーな体型をしている。金髪碧眼貧乳。弓を使い、森を愛する。肉を嫌う菜食主義者。


大体こんなところか。しかし作品によっては筋骨隆々だったりするし、肉も食らう。巨乳もいる。


ドワーフに関していうと、男は髭面。女はロリ。背は低く男は太っている。女性は痩せ型で貧乳。山に籠って鍛冶仕事をしている。後は怪力。


作品によっては女も髭面。巨乳もあり。エルフほど違うタイプは少ないかもしれない。


さてこの世界のエルフとドワーフはどんな感じだろうか?


俺は期待しながら、クズノハを見る。


クズノハはそんな俺を見て嘆息すると、ゆっくりと話し始めた。


どういう理屈か分からないが、クズノハは俺の聞きたいことがわかるようであった。


「心の声が漏れてましたよ?

 まずエルフですが、金髪碧眼です。森を愛して、弓を使います。

 菜食主義者もいるかもしれませんが、基本は雑食。ほぼ人間と同じです。

 体型も個体差があり、太っているものも存在します。

 胸の大きさについても大きいのから小さいのまで揃っています」


なるほど。そこまで外れているようなものでもないな。


「ドワーフは基本山に住んでいて、男性は鍛冶が得意です。女性は細工ですね。

 これもそういうドワーフが多いだけで、絶対ではないです。

 背は低く男性は太っているというか、がっしりとした体形が多いです。それで髭面。

 女性は基本ロリです。髭は無し。胸の大きさは千差万別。体型についても同様ですね。

 後怪力というも同じですね」


ドワーフも普通だな。


「違いというと生態が少し違いますね」


シズクが口を挟んできた。


「エルフは人間と精霊の子供です。

 そのため人間及び精霊と子を作ることができます。

 ドワーフは人間と妖精です。

 人間及び妖精と子を作ることができます」


精霊と妖精?どう違うんだ?


「どちらも自然から生まれた存在です。

 厳密に定義すれば自然から生まれた魔力生命体といったところでしょうか。

 精霊と妖精の違いは年齢です。

 100歳以上の成人したものを精霊と呼びます。

 逆に100歳未満の未成熟なものを妖精と呼びます。

 妖精から精霊に変わるときに、姿も変わりますので精霊と妖精は明確に違う存在です」


そんな違いがあるのか。


「その影響もあり、エルフは老人を好みます。

 ドワーフは成人未満ですね。

 つまり精通や初潮が来ていないものです」


変態だぁー!!


ドワーフはアウトー!!


エルフはまだ大丈夫か?老人を好むエルフか~。


「ちなみにエルフもドワーフも寿命は人間と変わりません。

 老化についても同様です」


「こいつらどうやって増えているの?」


俺は素朴な疑問を口にした。


「基本的に精霊または妖精と交わって増えています。

 エルフの場合は高齢出産などで増える場合もあります。

 ドワーフは大人が子供を襲うことで増える場合がありますね」


なんだろう。変態しかいないように思えてきた。


大丈夫だろうか?俺の心に疑念が生じていた。



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