第30話 次の目的地と仕事終わりの報告



俺には第二夫人までいることになったが、今はそれどころではない。


『竜』による襲撃があったところである。


「マイダーリン。既に襲撃は終わっています。

 それにしても今回の依頼も裏がありましたね」


「裏?」


シズクの呟きにクズノハが反応する。


「ええ。私たちは氷の大地で魔物を討伐しろとしか命令を受けていません。

 『竜』について全く聞かされずに依頼されたのです」


「どうして自分たちで調べなかったの?」


クズノハの一言で俺とシズクは固まった。


「冒険者として依頼受けたら、先に情報収集するのが当然だと思うけど?

 だいたいここで大規模な『探知』を行うなんて、自殺行為ようなものと思います。

 あなたたちの問題は情報収集をおろそかにしていたということではないでしょうか?」


クズノハの言うことは全くの正論であった。俺には何も言い返すことはできない。


「まぁ普通は冒険者ギルドか先輩の冒険者から教えてもらうようなことなんですけどね」


俺たちは冒険者ギルドとは仲が拗れている。教えてくれるような先輩の冒険者もいない。


このままではかなりヤバいのでは?


「……表情から察するに人間関係がうまくいかなかったようですね。

 むしろ敵対している?

 なるほど。まずいですね」


クズノハは俺たちの顔を見ながら話を続けている。


「この帝国以外にも少し注意しないと『竜』に襲われるようなところはいくらでもあります。

 『竜』以外に危険な場所もたくさんあります。

 少なくても黙って危険地帯に送られないようにしなくてはなりません。

 問題は冒険者ギルドと揉めていることです。

 簡単なのは外国に行くことです。

 外国で新たに冒険者として登録すれば、新しい冒険者ギルドと新しい関係を築けます」


外国か……。


「クズノハにはどこかお勧めの国はあるのか?」


「エルフドワーフ連合国ですね。

 獣人連邦だとターニャさんの扱いに問題がありますし、私もあの国では嫌われ者です。

 獣や獣人から派生した『妖怪』は獣人連邦では忌み嫌われています。

 もちろん王国は論外です」


やっぱり王国は論外か。


「人間至上主義の神聖王国も論外ですし、魔法至上主義の魔導王国も論外です。

 どちらも等しくゴミですね」


この世界では王国と名の付く国に碌なものがないようだ。


「しかしエルフドワーフ連合国はエルフとドワーフ以外に対して排他的と聞いていますよ?」


「敵対視されている帝国よりはマシと思いますよ。それに排他的といっても王国の亜人差別に比べればマシですし。

 正直に言えばこんな状態で帝国に居続けるよりはマシと思います」


シズクが反論するが、クズノハも負けてはいない。


二人の視線が重なると同時に視線が俺の方へと向けられた。


俺が決めないといけないということだろう。


確かに現状帝国に居ることはリスクがある。そう考えると、エルフドワーフ連合国なら行ってもいいかもしれない。王国は論外だし獣人連邦も避けたい。


エルフドワーフ連合国は少し興味もあるし、行ってみてもいいだろう。


「よし、エルフドワーフ連合国へ向かおう」



******



俺たちはエルフドワーフ連合国に向かうことにした。しかしその前に氷の大地の魔物討伐について報告を行わなくてはいけない。そのため俺たちは帝都にある冒険者ギルド本部にいる。


俺たちは窓口でシスを指名して、窓口で魔物討伐について報告を行っていた。


「……そういうわけで魔石は人造魔物のものしか回収できていない。

 天然魔物のものは『竜』に食われた」


俺は自分が食した魔物の中から魔石を取り出すと、それらを全てギルド職員であるシスへと渡した。


「確かにお預かりします」


シスは魔石を受け取ると、その場で鑑定を始めた。


「ところで『竜』についての情報は知っていたのか?」


「……いえ、私は元々オーランドの職員だったため存じ上げませんでした。

 依頼の後に色々調べて初めて知りました」


シスは鑑定を行いながらも、雑談に応じている。シスは魔石の鑑定については、それなりのベテランである。少しくらいなら話しながらでも、キチンとした鑑定ができる。もっとも鑑定しながら話しているためか、感情のこもらない声をしていた。


「……この方が指名依頼を伝えたギルド職員ですか?」


俺たちと同行していたクズノハが口を開いた。


「買取職員としては有能なのかもしれませんが、窓口職員としては全くダメですね。

 もしかして元は別の支部に勤めていましたか?」


クズノハは裏社会に属しているが、冒険者ギルドの登録をして冒険者として活動していた。


「旦那様、この方から依頼を受けるのは避けたほうがいいですよ」


「……どういう意味ですか」


クズノハの言葉にシスが反応する。


「そのままの意味です。あなたはただ依頼を伝えるしかできていません。

 依頼における注意点などを冒険者に伝えるのも、ギルド職員の役目です。

 そういう意味ではあなたは窓口職員としての役割を果たせていません」


「……」


クズノハの言い分にシスは何も言えずにいた。


「……鑑定している様子を見れば魔石の鑑定については信用がおけそうですが、窓口職員として信用するには能力不足です。

 やはり別のところを拠点にしましょう」


「……別のところ?」


シスは不思議そうにクズノハを見ている。


「エルフドワーフ連合国です。

 旦那様、エルフドワーフ連合国に参りましょう。

 第一夫人には既に話を通しております」


クズノハある意味予定通りの演技を続けている。俺たちはギルド職員に問題があるため、拠点を移すという話をしている。


拠点を移すために、このような話をしているのだ。


これでギルド側の反応を見たいところだ。


「コウテツ様。拠点を移すというのは本当でしょうか?」


シスはクズノハの発言の真贋を確かめようとしている。


「……そうだな。新たに仲間になったクズノハの言う通りだ。

 俺たちはエルフドワーフ連合国に拠点を移そうと思う」


「……そうですか。鑑定は終わりましたので金額をご確認ください」


そういってシスは魔石の鑑定結果を俺に示す。


「問題ない」


「では魔石を回収して、代金を取ってきます。

 もうしばらくお待ちください。

 少し今の話を上に伝えますので、少しお時間を頂戴します」


笑顔を張り付けたシスが、魔石をもって奥へ入っていった。それにしても声に感情が全くこもっていなかったな


「……どう思う」


「演技についてはバレているでしょう。

 彼女は優秀な職員です。私たちの今のやり取りが演技であることは、分かっているはずです。

 問題は冒険者ギルドがどう動くかですが、そちらについては予想が難しいですね。

 ですが問題なく話が進むと思っています」


俺の呟きにシズクが答えた。演技がバレるのは特に問題ない。想定の範囲だ。


問題はこれからどうなるかだ。俺たちは拠点移動を理由にして、次の指名依頼については断るつもりでいる。


「恐らくエルフドワーフ連合国に行くことに問題はないと思います。

 帝国としても旦那様を倒すだけの戦力を出すとなると、少し苦労するでしょう。

 旦那様は一応帝国に敵対的ではありません。そのような相手を念のために殺すために上位の戦力を動かすような余裕は、流石の帝国にもないはずです」


クズノハの方もシズクと同様に、拠点移動については問題ないとの判断だ。


俺たちは最初こそ帝国内で問題を起こしていたが、今は冒険者ギルドのいうことを聞いて大人しくしている。更に戦力も増大している。


倒すよりも放っておくほうが賢い選択のはずだ。


ようやくシスが戻ってきた。


「こちらが代金になりますので、お納めください。

 またコウテツ様の拠点移動について上司に報告をしてきました。

 特に問題がないとのことです」


シスは事務的に話している。相変わらず感情が置き去りにされている。


「問題はないのですが、一つお願いがあります」


「なんだ?」


予想外の展開だな。


「コウテツ様たち『ツチミカド』でアイスドラゴンを倒すことはできませんか?」


「無理」


俺は即答した。


「……無理ですか?」


「うん。無理。

 『竜』を倒そうなんて考えるほうがおかしい。

 倒せるわけがない。そもそもどうしてそんな依頼を俺たちにする?」


かなりの無茶ぶりである。ハッキリ言えば嫌がらせに等しい。


俺のパワーも『竜』には通用しない。俺の魔法も同様だ。


ターニャはスピードなら勝てるかもしれないが、ターニャのパワーでは傷一つ付けることができない。


クズノハの技術も体格差があり過ぎて、通用しないだろう。


カエデ?自殺行為だな。自滅覚悟で掠り傷といったところだろう。


何故俺たちに『竜』退治なんて依頼する?


俺には訳が分からなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る