第28話 もう少し周りの状況を考えましょう



気が付けば、俺は何度も宙を舞っていた。


戦いには相性というものがある。


例えばの話だが、ターニャとクズノハが戦えばターニャが勝つだろう。


クズノハは達人で、その技術は目を見張るものがある。それでもターニャが勝つと思える。何故ならターニャのスピードにクズノハが対応しきれないからだ。


ターニャのスピードならクズノハの背後、または死角を突くことができる。それだけのスピードがターニャにはある。伊達に『九尾』と呼ばれていたわけではない。


問題は俺がクズノハに対して相性が悪いということだ。


俺の強みのパワーは通用しない。毒も試しているが、通じなかった。多分術か何かで対策をしているのだろう。むしろ何の対策もしていないターニャがおかしい。


「くそっ、全く何も通用しない!」


俺の口からは悪態がこぼれ出ていた。


見ればクズノハは、ほとんど移動をしていない。移動したのはクズノハから攻撃を仕掛けたときだけ。それ以外は全く動かずに俺の攻撃を捌いていた。


「旦那様はかなり強いですよ。

 でも技術がまだまだ足りません。今はまだ敢えて空中に投げ飛ばすだけしかしてませんが、本来なら関節を極めたり頭から落としたりしているところです」


完全に手加減をされていた。俺はクズノハから手加減をされている。


確かにそうだ。俺は空高く投げ飛ばされているだけで、攻撃らしい攻撃を受けていない。


頭から氷の大地に落とされれば…………俺なら平気かな。それくらいでダメージは受けない。


しかし関節を極められると厳しいかもしれない。


…………ん?


「もしかして空中に投げ飛ばすしかできないんじゃないのか?」


俺は一つの仮定を口にする。


「!……どういうことでしょうか?

 一応聞いてみましょう」


クズノハは少し動揺をしているように見える。


「……実は空中に投げ飛ばすしか『してない』ではなく、しか『できない』んだろう?

 関節を極めたりすれば、そこで俺の反撃を受ける恐れがあるんだろう?

 頭から落とそうとすれば、その時俺は反撃が可能なのだろう?

 そうじゃないのか?」


クズノハは必要最低限でしか、俺と接触をしていない。関節を極めたりするためには、もう少し接触時間が増えるんじゃないのか?そうしたら俺の反撃のチャンスが生まれるんじゃないのか?


クズノハは俺からの反撃を恐れているんじゃないか?


恐らく俺の考えは正解だろう。


クズノハでは俺には勝てない。俺に対する決定力に欠けている。正確に言えば決定的な攻撃を加えようとしたら、反撃を受けて負けてしまう。


クズノハが俺に敗北感を与えているのは事実だ。


俺からの攻撃を無効化して、何度も投げ飛ばしている。


でもこれは俺を敗北させるには至らない。


俺はクズノハに負けることは無い。


「……確かにそうね。

 旦那様の言う通り。私の力では、私の技術でも旦那様には勝てない。

 でも私の技術は旦那様に負けない。

 私は旦那様に負けない。それだけの力はある」


クズノハは笑顔で言い切った。


確かにそうだ。クズノハの言うことも一理ある。俺の体術はクズノハに通用しない。


俺の自慢のパワーも、鋼鉄の肉体もクズノハには通用しない。


なら魔法で勝負するしかない。


俺は俺とクズノハを包むように『結界』を張る。『結界』とは外部と内部を分けるもの。外部からの攻撃を防ぐもの。そして内部に自分の優位な状況を作るためのもの。


手始めに俺は『結界』の内部の温度を下げる。俺の鋼鉄の肉体は低温にも耐えられる。俺の肉体を構成する金属はそういう特性を持っている。正確にはそういう特性を持たせている。


それに対してクズノハはどうだろうか?奴は妖怪だが普通の肉体を持っていた。


普通の肉体は低温状態では動きが鈍る。クズノハの技術も体が思い通りに動かなければ、生かすことはできない。


クズノハもそれが分かっているのだろう。俺の『結界』が発動すると同時に、自分の体を覆うだけの『結界』をクズノハが発動させていた。


こうなると魔力による持久戦だ。『結界』は大きいほうが魔力の消費が大きい。


普通に考えるならクズノハのほうが有利である。


しかしここで思い出してほしい。


俺は魔物を食らっている。


魔物を食らって魔力を生み出している。クズノハも妖怪だ。自分で魔力を生み出すことくらいは出来るだろう。


でもそのための素材となる食べ物をどれほど食べてきているだろう?


俺は何度も魔物たちを食べている。それを十分溜めてきている。


それに対してクズノハどうだろうか?そこまでの量の食事をしてきているだろうか?


「魔力の量の持久戦に自身はあるかな?」


俺はにっこりと笑った。


クズノハが汗を流しながら、顔から余裕が消えていた。クズノハは焦っているように見えた。



******



少し時間はかかったが、俺は勝利することができた。俺の目の前にはクズノハが『幻術』が解けた状態で倒れこんでいた。


俺は『結界』内部の圧力を上げて、クズノハの『結界』に攻撃を仕掛けた。俺のほうが魔力の消費が多かったが、それによりクズノハの魔力も消耗した。俺は適宜魔物を消化することで魔力を生み出している。別に食べるものは魔物でなくても問題はない。ただ人造魔物は大量に溜めていたため、それを消化するだけで魔力を生み出すことができた。


魔力の消耗によりクズノハが『結界』を維持できなくなれば、後はこちらの好きにできる。俺は低温で体の自由を奪った状態にしたクズノハを軽く殴り倒した。


全力で殴れば死んでいただろう。特に殺す気もなかったので、そこは手加減した。


そして残された問題はシズクの機嫌が悪いことだけである。


当然といえば当然だろう。


ターニャとカエデは疲れて倒れていた。それをシズクが『結界』で守っている。


魔物は次々を襲い掛かる。


俺とクズノハが戦っている間も、次々と襲い掛かっていた。そんな中で俺はクズノハに持久戦を仕掛けていた。


その間シズクは一人で魔物と戦っていた。


俺からの魔力供給があるといっても、一人で戦い続けるのは辛いものがある。


カエデとターニャは疲れて眠っていた。すやすやと眠っていた。


俺はクズノハから旦那様と呼ばれて、持久戦を行っていた。


シズクの機嫌が悪いのも当然だろう。俺はシズクのご機嫌を取るために何をしようか考え始める。


ここで問題が一つある。


「マイダーリン?あなたの考えていることはお見通しです!」


シズクが俺の考えを読むことができることだ。


つまりご機嫌を取ろうとしていることは、シズクにバレている。


ならば俺が取るべき方法はただ一つ!


俺は何も言わずにシズクのことを抱き締めた。


考えがバレている以上、言葉を考えるより行動あるのみ!


俺は後ろからシズクのことを抱き締めていた。


「戦闘中ですよ?何を考えているんですか!?」


俺は何も考えていなかった。


魔物については魔法で対応を行い、俺はシズクを抱き締めていた。


下手な考えは逆効果のため、何も考えずに抱き締めていた。



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