第27話 理解できませんが戦います
妖怪。それは大気中の魔力を吸って変異したものを指す。年を経て変異したというのは、長い時間大気中の魔力を吸うことで変異したという意味でもある。
地球において妖怪は絶滅危惧種になる。理由は簡単だ。地球の大気中の魔力濃度が、とても低いから。そのため妖怪へ変異するために必要な魔力を吸うまでに、莫大な時間が必要になった。その一方で俺が所属していた土御門家のように、妖怪を排除するための組織はいくつかある。流派によって魔力の呼び名や術式の法則などに違いはあるが、基本的に人に仇名す存在を倒すのがその役割だ。
生まれる数が減り、討伐されているため妖怪の数は激減している。それが地球の実情である。
なお西暦が始まる前から生きている『爺』の話によると、昔は地球の魔力濃度も高かったが妖怪がウザくなったので地球上の魔力を全部吸って低くしたらしい。
流石は『爺』。どこから突っ込んでいいか分からない。
話を戻そう。この世界は地球よりも魔力濃度が高い。そのため地球よりも妖怪が生まれやすいといえるだろう。
目の前にいる狐の妖怪クズノハも、そうして生まれた妖怪だろう。ここで一番の問題は、クズノハの目的が何なのかということだ。
魔物退治を手伝いに来てくれたのなら、特に問題はない。しかしその可能性は低いだろう。何故ならクズノハは『隠形』を使い、俺たちに近付いてきたからだ。
姿を隠して近付いて、俺たちの手伝いをするというのは少し考えにくい。
俺は少し警戒を強める。魔物の方は、シズクが対応している。何も言わなくても対応してくれて、シズクには本当に助けられている。
俺はクズノハと向き合い、クズノハを見る。
「……そういえば、何の話だったでしょうか?
そうそう。私の用件の話でしたね。あなたが私の正体に気付いたため、そちらが興味深くて忘れていました」
クズノハはニッコリと笑った。
「私の用件はあなたの観察と、お願いです」
「お願い?」
「ええ、お願いです。あなた方は正体不明な部分があり、オーランドで色々面倒ごとを起こしたと聞いています。
その一方で元『九尾』のツンドラを倒すほどの実力者で、今はあのターニャを奴隷にしています。そんなあなたに興味を持って、実際に見てみて確信を得ました!」
クズノハの顔から狂気が滲み出ていた。
「コウテツ!あなたは私のものです!
私と一緒になりましょう!コウテツ!!」
クズノハは狂気の秘めた笑いを浮かべていた。
どういうことだ?こいつは何だ?俺は状況を理解できずにいた。
「何を惚けているのですか?コウテツ?
……いえ、呼び方を正しくしましょう。
旦那様」
旦那様?俺の頭では理解できない状況に陥っていた。
何故俺はクズノハから旦那さまと呼ばれているのだろうか?誰か教えて欲しい。
俺は辺りを見回す。カエデとターニャは疲れて眠っているため、答えることはできない。シズクはどうだろうか?シズクを見るがシズクは俺から目を逸らしたまま魔物の討伐を行っている。この事態はどうやら俺一人で解決しなければならないようだ。
正直に言ってクズノハが何を言っているかよくわからない。まずそれを確認しよう。
「まずは落ち着いて聞いて欲しい」
狂気的な笑みを浮かべてにじり寄ってくるクズノハを、一旦両手で制した。
「俺のことを観察するために近付いたといっていたが、それは何故だ?
何のために俺を観察した?」
「興味がわいたから。あなたの噂を聞いた。
あなたの噂は裏社会で色々流れていた。それを聞いて興味がわいた。
だから来た」
なるほど。冒険者ギルドが俺の情報を流しているな。恐らく裏社会のものを使って俺を制御しようと考えていたのだろう。そのために流した噂をクズノハが聞いたということか。それで興味がわいて観察したと……。
「……よし、次の質問だ。
お願いというのは何なんだ?一緒になるとはどういう意味だ?」
「それを私の口から言わせるのですか、コウテツ。
仕方ない人ですね」
クズノハは恥ずかしそうに手を頬に当てて、首を振っている。
「……結婚。夫婦になるということです」
そっかー!そういうことかー!
って何故そうなる?噂を聞く。興味がわく。俺を観察する。
なるほど。納得した。
次が結婚しよう?
その間が分からない。なぜ結婚になる?夫婦?どうしてそうなる?
「……ちょっと待ってください。
俺のことを観察したところまでは理解しました。
そこからどうして結婚になるんでしょうか?」
俺は何故か言葉遣いが少し丁寧になりながら質問を行った。
「何故って?
それはもちろん一目惚れ」
そっかー。なら仕方ないね……。
言葉を重ねることで、何とか相互理解を行うことができた。
問題はここからどうするかということである。
「旦那様もどうやら理解できたようですね」
クズノハはニッコリと笑っている。
「では殺しあいましょう!」
「……なんで?」
俺は再び理解できない状況に陥った。
「そんなことは簡単です。
夫婦間での力関係の確認は重要なことです。
ですので殺しあいましょう!」
いやいやいや。そうはならんだろう。
「殺されたら夫婦になれないと思うのですが?」
俺は一縷の望みをかけて確認を行う。
「大丈夫です。軽い殺し合いです。
これで死ぬような相手なら、夫婦になる資格がなかったということです」
クズノハ妖怪だけど、獣(獣人族)は全部こういう考えなのだろうか?
獣(獣人族)の考えは理解できない。
しかし今はそれどころではないようだ。クズノハが臨戦態勢を整えている。
なら俺も戦う準備をしなければならない。殺されるわけにはいかない。
とりあえずこいつは倒そう。そうすれば解決だ。
「……それって獣(獣人族)と同じ考え方ではないですかね」
シズクの呟きは小さくて、俺の耳に届くことは無かった。
******
急な展開で付いていけないが、俺は狐の妖怪クズノハと戦うこととなった。地球は魔力濃度が低いため、妖怪の力も弱い。しかしここは異世界で魔力濃度が高い。
それに『隠形』や『幻術』からみてクズノハはかなりの実力者と考えられる。
「……そういえば『幻術』は解かないのか?」
「忘れてました。
解いて欲しいのですか?」
クズノハは棒立ちで煙管を銜えている。それに対し俺は、拳を握り構えていた。
「……いくぞっ!」
俺は拳を強く握ると、一直線に殴りかかる。
「残念」
次の瞬間、俺は宙を飛んでいた。いや、投げ飛ばされた。
俺はクズノハに投げ飛ばされたのだ。
ともかく俺は空中で体を捻り、両足で着地する。
「合気道か?」
「そんなところ」
……まずいな。ハッキリ言えば相性が悪い。なんでこんな相性の悪い相手がここにいる?
俺の戦闘スタイルはパワーで捻じ伏せる。簡単に言えばこんなところだ。
オーガやオークは俺のパワーで捻じ伏せることができた。ツンドラは相打ちのような形で倒した。ターニャには毒を使った。
さてクズノハだが、単純に俺のパワーがクズノハの技術で通用しない。俺は技術が優れているわけではない。
肉体の硬度とパワーで捻じ伏せているだけだ。ズブの素人というわけではないが、達人と呼ばれるような使い手ではない。
達人というのは目の前にいるクズノハのようなものを刺す。
恐らくだが攻撃が当たれば勝てる。クズノハに俺の攻撃を耐えるような強度はない。
問題は当たらないことだ。力が逸らされる。
どうすればいい?どうすれば勝てる?
「悩んでいるの?
来ないならこちらから行こうかな」
その声と共にクズノハがこちらに駆けてくる。動き自体は目で追える。
クズノハが俺の拳の射程に入り、俺は反撃のために殴りかかる。
次の瞬間、やはり俺は宙に舞っていた。
致命傷にはならない。下は氷でも、俺の体は鋼鉄だ。問題はない。
でも勝てない。殺されることは無いし、負けることは無いだろう。
勝てないだけだ。
俺は目の前の相手を倒すために、間合いを取りながら頭を回転させ始めた。
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