第25話 氷の大地での魔物討伐



俺たちは帝都へと戻ってきた。帝都にはリスがいる。俺たちはまずリスのもとに向かい、宙ぶらりんにしていたターニャの奴隷契約について相談することにした。


リスの紹介で別の奴隷商をお願いして、ターニャを正式に奴隷にした後は冒険者ギルドへと向かった。


「シス久しぶり!」


おれが窓口にシスを指名すると、嫌そうな顔をしてシスが登場した。


「……どうして戻ってきたんですか?」


シスは俺たちが戻ってきたことが不満のようだ。


「色々あって、ターニャが俺たちの奴隷になった。そうすると俺たちにとって住みやすいのは帝国しかなかった……」


俺はシスに消去法で帝国を選んだことを説明した。


「特に獣人連邦はあそこにいると更に面倒ごとが起こりそうだったから、あそこに住むことは決してないだろう」


「……悪い国じゃないんですけどね」


俺の言葉にシスが苦笑いをしている。


「そうすると、俺たちの今の状況から帝国に戻ることになった」


「……そうなんですね。

 とりあえず上司に報告してきます。コウテツさんたちのことはきちんと報告するように言われていますので」


そういうとシスは窓口から席を立って、奥へと入っていった。


「……シズク。どうなると思う?」


「正直言えば、しばらくのんびりしたいですね。

 しかしそうはならないでしょう」


俺たちはオーランドで問題を起こしている。俺たちには力がある。


「次はどんな厄介ごとに巻き込まれることやら」


シズクの考えでは厄介ごとに巻き込まれることが確定のようだ。


「私は戦えるのならどこでもいいぞ」


ターニャは戦うことしか考えていない様子だ。


「……私はどこでもいい。とにかく強くなりたい」


最近は影が薄くなっているカエデも戦いを求めているようだ。


そうすると少なくとも帝都住まいというのは無いな。帝都の周りには魔物は少ないし、帝都は物価が高い。


ここは俺たちが生きていくようなところではない。


そうやって色々と考えながら、のんびりと話しているとシスが戻ってきた。


「俺たちのことをどうするつもりだ?」


俺は端的に聞いた。


「皆さんにはそろそろ激しさを増す北の魔物の対応をお願いしたいです」


北の魔物?


「なんだそりゃ?」


「北の魔物は帝国北部の氷の大地に住む魔物たちのことです。

 主に狼系統の魔物や熊や狐系統の魔物が多いのが特徴です。

 それと寒さに強い人造魔物も存在します。

 それらが年に数回帝国を襲ってくるのです。理由は人間を含む動物を襲うためです。

 『ツチミカド』には襲い来る北の魔物の処理を指名依頼でお願いしたいです」


一応指名依頼という形になっているが、ほぼ強制依頼のようなものだろう。依頼を断ると、面倒ごとが増える可能性もある。下手すれば討伐対象になる恐れすらある。ここはいうことを聞いておくほうが賢い選択だと思う。


俺はパーティメンバーを見る。


「特に問題ありません」


「寒いのは得意だ」


「強くなれるならそれでいい」


シズクとターニャとカエデの三人も特に問題がないようだ。


「依頼を受けて、北へと向かいます」


俺はシスに依頼を受ける旨を伝えると、準備をするために一度場王権者ギルドを後にした。



******



氷の大地。そこは人が生きていくには困難な場所である。寒い。とても寒い。


そして海がある。地球でいうところの北極のような場所という感じである。


ここにいる魔物は寒さに強いように進化している。そして年に数回、人里を襲うために訪れる。


人造魔物は子孫を残すために。天然魔物は食料を得るために。


俺たちの仕事は襲い来る魔物を退治すること。


その予定である。


「……大丈夫か?」


俺はカエデを見る。カエデは寒さに震えていた。俺は式神生命体だから、寒さにも強い。暑さにも強い。シズクはサキュバスで優れた魔法使いだ。この程度の寒さならなんとでもできる。ターニャは元『九尾』で獣人族を代表する戦士。肉体の強度がカエデとはそもそも違う。


カエデは『火』の力を持っているが、まだまだ未熟だ。火力の微調整ができない。そのため寒さに震えている。


「……大丈夫。平気」


カエデは強がっているが、全く大丈夫なように見えない。仕方がないので俺はシズクを見た。俺が魔法で温めることはできるが、カエデが拒絶するだろう。そのためシズクに行ってもらう。


「カエデ。温めてあげる」


シズクはそういうと、カエデを抱き締めた。抱き締めながら魔法でカエデを温めている。ちなみ抱き締めなくて温める程度の魔法を使うことは、シズクにとって簡単なことである。抱き締めて温めているのは、シズクがカエデを抱き締めたかったからに他ならない。


「暖かそうだな」


隣を見るとターニャがうらやましそうにカエデのことを見ていた。


「俺でよかったら温めてやろうか?」


俺はにやけながらターニャを見る。


「抱き締めながらか?」


「もちろん」


俺の回答を聞いて、ターニャは俺に抱き着いてきた。俺は魔法で温めながら、ターニャを抱き締める。ついでに色々と触る。


ターニャは俺の奴隷となっている。俺に負けて奴隷になっている。そういう経緯があるため、ターニャは俺に抱かれることを了承している。もちろん俺は何度もターニャを抱いている。顔は狼で肉体もかなり毛深いが、ターニャは肉付きが良い。


体中に毛が生えていたり、顔が狼であることを除けば素晴らしい女性である。


そういう意味でいうと、カエデだけが仲間外れであった。そのせいもあり、カエデは俺のことを毛嫌いするようになっていた。


まぁそれが原因で火力は伸びているので、問題ないといえば問題ないと思う。


そうしてしばらくイチャつきながら体を温めて、俺たちは魔物を狩るために歩を進めた。



******



結局あまりイチャつくと時間ばかり経過するため、ターニャとカエデは俺とシズクによって魔法で温められながら進むことになった。最初からそうしておけばよかったと思うかもしれないが、俺はターニャとイチャつけたためこれでよかったと思う。


いや、これが良かったと思う。


さてそんなことを考えているうちに、寒冷地仕様のゴブリンが近づいてきたようだ。


「ゴブリン。数は5」


探知を行っていたシズクがいち早く、俺たちに注意を促す。寒冷地仕様のゴブリンは、体中に白い毛が生えていることが特徴だ。逆から言えばそれ以外に違いはない。


「カエデは戦えるか」


俺はシズクを見ながら問い掛ける。カエデ自身ではなく、カエデを見ていたシズクの意見を確かめたい。


「この程度なら大丈夫でしょう。

 それでどうします?」


「一人一体のゴブリンを対処。

 残りのゴブリンは早い者勝ち。

 カエデは火力調整に注意しろ。シズクは念のためカエデを見ながら戦うように」


俺は指示を出すと、寒冷地仕様のゴブリンへと向き直る。寒冷地仕様のゴブリンは素手であった。森の中とは違い、ここにはこん棒を作るための材料がない。氷で作ることはできるかもしれないが、氷は冷たくて持っていられないだろう。


俺はゴブリンに向き合うと、軽く右拳で殴りつけた。ゴブリンは一撃で倒れた。


「初戦はゴブリンか」


俺は周りを見た。ターニャは得意の速さを活かして、既に二匹目のゴブリンを倒していた。


シズクを見れば影を使ってゴブリンを倒していた。


問題のカエデは?俺はカエデを見る。カエデも炎を使ってゴブリンを倒している。さすがにゴブリンに負けるようなことは無いか。


しかしゴブリンを倒すにしては炎の勢いが強かった。まだ火力の調整に難があるように思える。


この一匹を倒すだけなら問題ないが、長期戦になるとこの火力調整だと途中でバテるだろう。


せっかくだ。その辺のことを理解させることも含めて、もうしばらくここで魔物を狩り続けてみてもいいだろう。


ここには人はいない。ここは魔物を狩るためにやってきた人里から離れた氷の大地。遠慮なく戦い続けよう。


「……しばらくここで魔物と戦い続けるということでいいか?」


「カエデとターニャは私たちのように不眠不休で戦えません。

 適度な休憩を考えてくださいね」


シズクからは釘を刺された。


「物足りないから、もう少し戦うことには賛成。

 休憩はこっちは適当に取るから、心配無用」


ターニャは賛成。


「まだまだやれる。私は大丈夫」


カエデは強がっている。


なら決まりだ。


「休憩は各自で取ること。この場での魔物退治を続行する。

 シズク。大規模『探知』だ」


大規模『探知』を使えば敵を刺激することになる。しかしそれが狙いだ。俺たちは魔物を倒すことを考えている。


俺たちの方におびき寄せて、全てを殺せばいい。


「了解。いきま~す」


シズクの声と共に賽は投げられた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る