第23話 仲が悪いのなら隔離をしていて欲しい
「コウテツ。一つ聞いてもいいか?」
俺たちは首都に向かう途中で少し休憩をしていた。その時にターニャから俺に対して質問があった。
「コウテツはドラゴンと何か因縁があるのか?」
あるかないかで言えばある。俺自身が『竜』に因縁があるわけではない。大地様が『竜』との因縁があるのだ。
俺はこの世界で『竜』を倒したいと思っているわけではない。倒す予定もない。むしろ関わりあいたくないとすら、思っている。
「マイダーリン。私も詳しいことを知りたいと思いますので、話してください」
シズクまでもが聞いてきた。隠すようなことでもないため、話すとするか。
気は乗らないけどね。
「俺自身はなにも因縁はない」
何か言いたそうなターニャを制して俺は言葉を続ける。
「しかし俺にとって一番大切な大地様は『竜』によって大怪我を負わされた」
話自体は簡単な話だ。不老不死。あるかどうかも分からない不老不死を求めて俺たちとは別の流派が異世界から『竜』を召喚した。大地様は『爺』の命令でそれを退治するために仲間と共に戦い、大怪我を負った。
ただそれだけのことである。俺は大地様が大怪我を負った後に作り出された存在で、大地様の代わりに学校に通学していた。最も作り出すの時間がかかったため、大地様は留年することになったのだが。
「詳しいことについては話すつもりはない。ただ俺にとって『竜』とは強大な敵を意味するし、『最強』とは『竜』を倒すことができる者を意味する。
ただそれだけだ」
俺たちは無駄話をしながらも、首都へ向けて歩を進めていた。
******
俺たちは獣人連邦の首都でツンドラを倒したことによる報奨金を貰うための手続きを行っていた。狼獣人の族長の手紙もあり、手続き自体は簡単に終わることができた。報奨金も予想よりは少ないが、手に入れることができた。
ここまでは全く問題が無い。
さて獣人連邦の首都は基本は獅子獣人の縄張りとなる。しかし首都ということもあり、少ないながらも他の獣人も生活していた。
他の『九尾』も珍しいが首都にいた。
ありえない話ではない。しかし運が悪いといいたくなる。何故なら首都にいた虎獣人の『九尾』ナダルは、狼獣人の前『九尾』ターニャと思いっきり揉めていた。
話を聞くと元々ナダルはターニャが『九尾』であることについて不満があったらしい。ターニャは速さがあり確かに強いが、その一方で力が無い。攻撃が軽い。
更に女性の地位が低い獣人族で、栄誉ある地位である『九尾』をターニャは持っていた。
ターニャに対して不満を持っている者が大勢いてもおかしいことではないだろう。そんななかで、ターニャが『九尾』を失った。
ナダルにしてみれば天からもたらされたチャンスが到来したようなものだ。ここぞとばかりにナダルはターニャを罵倒した。
以前はターニャは『九尾』であり、狼獣人の戦士の代表である。そんな彼女を罵倒したりすれば、部族間の抗争が起きる恐れがあった。しかし今はそれが無い。
そのため聞くに堪えないような罵倒がナダルの口から繰り出される。一方のターニャは我慢強いわけではない。当然それに対して怒り狂っている。
こちらも聞くに堪えないような罵倒を繰り出している。そんなこと行えば結論は一つである。
「「決闘だ!!」」
両者の声は全く同じ結論にたどり着いた。
******
さてここで問題を整理しておこう。
ターニャは手続きこそしていないが、俺の奴隷である。つまり俺の持ち物。俺の持ち物が虎獣人の『九尾』ナダルに喧嘩を売った。
悪いの誰になるだろうか?
正直言えば原因を作ったナダルが悪いし、それに乗ったターニャも悪い。だから二人で殺しあうのが正しいと思う。しかしそれにシズクが待ったをかけた。
「お待ちください。
おバカさんたち」
シズクは相手を刺激しないように笑顔で丁寧に話しかけている。……内容があれなので効果はないが。
「なんだぁ!?貴様?
ぶっ殺すぞ!?」
「関係ない人間は引っ込んでいてくださいっ!!」
ナダルもターニャもどっちもどっちの状態である。
「落ち着け?クソ馬鹿ども?」
シズクは笑顔のままで静かに魔法を発動させていた。『影縫い』か。綺麗に決まったな。
ナダルもターニャも動くどころか、声も出せないような状況になっている。シズクの『影縫い』は両者の影に干渉することで、動きを封じる術のことだ。分かりやすく影に何かが刺さっているわけではない。
熟練の魔法使いなら影に干渉している魔力を見つけることが可能かもしれない。しかし魔法が得意そうには見えない二人には、無理な相談というやつだろう。
「ターニャ。あなたはマイダーリンのものになっています。
あなたが問題を起こせば、マイダーリンに責任が生じます。
愚かな行動は慎むようにお願いします」
シズクは笑顔だが、ターニャに対する圧がすごかった。ターニャもシズクの圧に押されて、圧倒されていた。
「そしてそちらの虎獣人。
あんたはクソですか?ゴミですか?
いきなりなんです?虎獣人には常識というものが無いのですか?
何か言ったらどうです?クソゴミ野郎!!」
ナダルは『影縫い』によって全く話すことができない。しかしシズクの言葉に怒り狂っているのは分かる。
「文句でもあるのですか?
なら私のマイダーリンが相手になりますよ」
何故かここで俺が戦うことになっていた。何故?
「何故ですかって、当然でしょう?」
シズクは俺の心を読んだのか、俺のほうを向いて解説を始める。
「マイダーリンは私とカエデとターニャのご主人様です。
責任にはご主人様が取る。
当然のことでしょう」
こうして俺は虎獣人の『九尾』ナダルと決闘を行うこととなった。
******
決闘をいきなり街中で行うわけにはいかない。獣人連邦でもそれくらいは常識である。
首都で決闘を行う場合は役所に届け出る。部族内なら族長に届け出る。それが決まりらしい。
届け出後に場所と審判が決まる。場所の関係上、決闘を行うのが後日になることもしばしばだ。
「さてシズク。説明をしてもらおうか?」
俺たちは首都で宿屋に泊まっていた。一応2部屋取っている。俺が一部屋。シズクとカエデとターニャで一部屋だ。
今はシズクと二人きり。尋問の時間だ。
「説明?マイダーリンとナダルの決闘の件ですか?」
シズクは人間の姿をしているが、正体はサキュバスである。魔力の質などから見る人が見ればサキュバスであることはすぐにわかる。得意でない者からすれば、普通の人間にしか映らないだろう。
シズクは必要でない爪の手入れを行っている。シズクにとって爪くらいなら自分の意志で自由に整えることができるはずだ。
「これは気分ですよ」
相変わらずシズクは俺の心を読んでくる。俺に対する洗脳などは防げるが読心については、未だに防げていない。恐らく奴隷であるうちは無理だろう。
「話を戻しましょう。
明日に行われるナダルとの決闘の件ですよね」
シズクは爪の手入れをやめてこちらを見た。
「マイダーリンもわかっているのではないですか?
ターニャではあナダルに勝てません」
それはその通りである。ナダルは身長が2メートル、体重が100キロ以上ある体格のいい虎獣人である。武器は背中に背負っていた大斧。
ターニャが苦手とするパワータイプの戦士である。
「それはやってみないと分からないのではないか?」
「逆に聞きますが、勝てると思っていますか?」
正直に言えば勝てるイメージは湧かない。しかし負けるイメージもない。
ターニャは速い。それは事実だ。ナダルではターニャの速さに勝てるとは思わない。
「それはまともにやればの話ですよね?」
どういうことだ?
「マイダーリンは気が付かなかったようですけど、ナダルは毒を使いますよ」
毒使いか~!じゃあ、無理だな。
「実際にやらせた場合、最初はターニャが攻め続けますけど、ナダルは耐えきるでしょう。
そしてナダルが毒の散布を終えたら、ターニャの負けは確定です」
「毒は卑怯じゃなかったのか?」
「それは狼獣人の考えです。他の獣人も同じとは限りません。
少なくともナダルからは毒の匂いがしました。
ナダルは毒使いです」
シズクは毒の匂いを感じたから、ターニャが戦うのを止めたのか。
「ターニャが負けた場合、マイダーリンが狼獣人に恨まれる可能性があります。
マイダーリンが虎獣人と共謀したとか言い出す可能性すらあります。
避けられるものは避けるべきです」
「……しかしその代わり、俺がナダルと戦うことになるわけだけどね」
「そちらは問題ありません。
今回の決闘は命のやり取りはしないと、たがいに誓っています。
そのため故意に殺されることはありません。マイダーリンもそこは注意してください」
それは分かっている。
「負けた場合はターニャがナダルに土下座する。勝った場合はその逆です。
多少の遺恨は残る可能性はありますが、抗争に発展することは無いでしょう」
抗争については他の部族も止める義務がある。獣人同士仲が悪いということもあるかもしれないが、殺し合いはやめよう。共通の敵は協力しよう。
これが獣人連邦の理念である。
しかし直接ターニャとナダルがやりあって毒を使われてターニャが負けたら、狼獣人は虎獣人に対して抗争を行う可能性がある。理念とかは分かっているが、それでも引けない戦いがある。
獣人族の中にはそんな考えを持つものもいるかもしれない。というかターニャを見ているとそれを行いそうな気がする。
「それについてはマイダーリンがいないときにターニャに確認しています。
毒を使われて負けた場合は抗争するといっていました」
「……よく俺は無事だったな」
「マイダーリンは持論を展開して勢いで通しましたからね。
それに虎獣人と狼獣人は少し仲が悪いみたいなので、抗争の可能性が上がります」
「結論として俺とナダルが決闘しないと面倒なことになるということか」
「それとその面倒ごとに確実に巻き込まれるということです」
俺は諦めてナダルと決闘を行うことを心に決めた。
それとは別にせっかくシズクが俺と同じ部屋にいるのだ。カエデとターニャは別の部屋にいるし、久しぶりに楽しむことにしよう。
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