第21話 狼獣人『九尾』のターニャ
「ここは狼獣人の縄張りよ。
あなたたちは何者?」
現れた中でも、紅一点の狼獣人が俺たちに質問をしてきた。狼獣人たちはいつでもこちらを攻撃できる準備を整えていた。
「俺たちはツンドラを殺した冒険者だ。
報奨金を受け取るために帝国からやってきた。
ツンドラの首を確認できるものの元へ案内して欲しい」
俺は警戒を解かずに答える。
その答えを聞いて、女の狼獣人の気配に変化が起きる。目つき厳しいものへと変化する。
「ツンドラの?信じられないわね」
「俺たちはツンドラの首を持っている。
首を確認できるもののところへ案内すれば首を出す。
それで確認したらいいだろう」
「なら今出して。
私が確認する」
どうしてこんなにも喧嘩腰なのだろうか。俺はこのような扱いを受ける謂れはないのだが、ここで揉める必要もないだろう。俺は時空魔法から首を出すことにする。
「魔法を使って首を取り出す。
少し待て」
俺は相手に一声かけてから魔法を使用する。そうしないと魔法を使ったことでいきなり襲い掛かってきそうな雰囲気を醸し出している。
俺はツンドラの首を取り出すと、それを女の狼獣人へと渡す。女の狼獣人はそれをひったくる様にして奪うと、首をまじまじと確認する。
「……本物のようね。
歓迎する。私はターニャ。現狼獣人の『九尾』のターニャよ」
「俺はコウテツ。俺がツンドラを倒した。
こちらは仲間のシズクとカエデだ」
「コウテツね。ついてくるといい」
そういうとターニャは踵を返すと歩き始める。俺はターニャの後を追いながら、ターニャの姿をバレないように見ることにした。
正直に言えば、こいつはツンドラよりも弱いと思う。獣人族の最強の九人。それが『九尾』。ツンドラは最強の名にふさわしいだけの実力があった。
しかしターニャからはそれが感じられない。実力を隠すのがうまいのか。それとも実力が足りないのか。俺には後者であるように感じられた。
******
俺たちはターニャに連れられて、狼獣人が住まうテントへとやってきた。狼獣人たちは獲物を追い求めて、テントで生活しているようだ。その中でもひと際大きなテントに俺たちは案内される。
「ここが族長のテントだ」
そういってターニャがテントの中へと入っていく。俺たちはターニャの後に続いてテントの中へと入ることにする。
「族長!いるか!
ツンドラの首を持ってきたやつが来た」
ターニャの声に少し怒りのような感情を感じる。ターニャはツンドラの親族か何かか?
「聞こえている。
それで本当にツンドラなのか?」
奥の方から一人の狼獣人が出てくると、ターニャからツンドラの首を受け取り確認を始める。
「……確かにツンドラの首で間違いない。
客人。やつとはどこで戦った?」
族長と呼ばれていた狼獣人の眼が俺の方へと向いた。
「ツンドラとは帝国の街道で戦いました。
かなりの実力者で、何とか運よく勝てたというところです」
嘘にならない程度に相手のことも持ち上げておく。正直楽勝ではなかったが、体の性質上何度やっても俺が勝つと考えている。苦戦していた?そんなことは忘れたな。
「そうか。奴は強かったか。
まぁ当然といえば当然か。あれでも『九尾』の一角を担っていた男だ。
……しばらく待ってろ。本物と確認した旨の手紙を書く。
それとこの首をもって首都に向かってくれ。報奨金は首都での支払いになる」
かなり無駄骨を負った気がする。わざわざここに来なくても、最初から首都に向かえばよかったと思う。
「族長しばしお待ちを」
「どうしたターニャ?」
「私は現『九尾』を担うものとして、この者と決闘をしたく思います」
いきなりターニャが訳の分からないことを言い出した。
「ふむ。決闘か。
一応理由を聞いておこう」
「はい。私は最強を誇る『九尾』の一員として、元『九尾』を倒したこいつを倒さないといけないと思うからです」
「よし!許す!」
全然意味が分からないが、俺との決闘を族長は簡単に認めていた。多分こいつらは頭が悪いのだろう。もしくは戦うことしか考えていないのかもしれない。
「客人よ!外に出てターニャと決闘を行ってもらう!」
族長たちの様子から、決闘が真面目に行うものであるとわかった。しかし納得は行かない。
「どうして俺が戦わないといけないんですか!」
「あなたがツンドラを倒した戦士だからです。私はツンドラを倒したものを倒して、私の実力を他の獣人共に示さなければならい!」
つまりあれか。ターニャは実力不足といわれていて、それを払拭するために俺を利用しようとしているということか。
「分かりました。マイダーリンがターニャと戦うことは認めます。
それでもしマイダーリンが勝った場合は何の利益がありますか?」
シズク!?シズクは決闘を認めながら、こちらの利益を確保しようしているようだ。
「そんなことは起こらないと思うが、私が負けたなら……どうしよう?」
ターニャが族長を見る。ダメだ。こいつら何も考えていない。反射だけで生きている。
「……戦う前にそれぞれの要求について整理する必要があったか。
そうだな。まずターニャが勝った場合、ターニャは何を望む?」
何も考えていない族長がターニャに問い掛ける。
「もちろんツンドラの首だ」
「うむ。して客人よ。
ターニャに勝利した場合、ターニャに何を望む?」
まず『うむ』じゃねーよ。何勝手に話を進めているんだ。
「マイダーリンはターニャ自身を望みます」
シズクが勝手に回答していた。
「シズクっ!何勝手に回答しているんだ!?」
「コウテツよ。私が商品だと不足だというのか?
私は狼獣人の中でもそれなりの美人だぞ?」
ターニャは自分自身の発言で少し照れていた。いや、狼獣人の美人といわれても分からない。狼顔は違いすらつかない。
「よし決まったな。
ターニャが勝てばツンドラの首はターニャのもの。
ターニャが負ければターニャは客人のものとなる。
狼獣人の族長である私が審判を行う。
では外に出て決闘を行おう!」
族長はそういってテントの外へと出ていった。ターニャもそれに続く。
事態についていけず佇む俺に、ポンッと肩に手が置かれる。
「マイダーリン。勝てば大丈夫です」
シズクが笑顔で外へと向かっていった。
「……大丈夫?大変だね」
カエデだけが俺のことを労わってくれた。でもこいつは俺の天敵である。
俺の味方はどこにいるのだろうか?
******
俺が外に出ると既に準備は整っていた。いつの間にか広い場所が作られていた。その周りは狼獣人たちが取り囲んでいる。その中心にターニャと審判役の族長がいる。
「選手入場です」
シズクが俺の後ろから両手で俺の肩を押す。シズクの声を聞いたのか、狼獣人たちは俺のために中央へ行くための道を空けてくれた。
ここまでくると戦わないという選択肢はない。それは許されないだろう。
俺に選べる選択肢はただ一つ。目の前にいるターニャを倒して勝つだけだ。
ゆっくりと中央へ足を勧めながら、俺はターニャを見る。
ターニャは防具らしい防具は付けていない。長袖長ズボンの丈夫そうな服を着ているだけだ。
両手には金属製の籠手を着けていた。恐らく戦闘のスタイルは拳闘。俺に近いものがあるだろう。足の方は何もつけていないから、拳を主体としてくるものと推測される。
俺はターニャの前に立つと、両手を握り拳を構える。
「……あなた武器を使わないの?」
「我が名はコウテツ。そして我が身は鋼鉄。武器など不要。
我が身こそが我が武器なり」
ターニャの質問に対して自然と口から言葉が湧きだした。
どうやら俺は厨二病のようだ。仕方ない。それもまた良しだ。
ターニャも言葉の意味は理解していないが、この状態で戦うことは理解したようだ。構えを取り、戦う準備を整えた。
「これより決闘を執り行う。
それでは、始めっ!!」
族長の声により、俺たちの決闘が始まった。
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