第20話 狼獣人との遭遇
俺とシズクとカエデは3人で獣人連邦へと向かった。獣人連邦は帝国からみて南にある獣人たちの国である。
獣人たちは各部族ごとに固まって生活している。特に部族ごとで仲が悪いということは聞かないが、部族が集まって住んでいるところに他の部族の者が住むことはほぼない。
それは獣人族は種族が違うと子を成すことができないことが、一つの原因といっても良いだろう。
簡単な例でいえば、犬獣人と猫獣人の間には子供は生まれない。犬獣人は人間となら子供ができるし、犬とでも子供ができる。しかし他の獣人とは子供は作れない。
色々試したことがあるらしいが、作れたとしても生殖能力を失った子供しか生まれてこないらしい。
そのため万が一恋仲になることが無いように、各部族はそれぞれで住むところを分けている。
分かりやすく言えば、地球の動物と同じと考えればよい。違うのは獣人が言葉を理解し人間と子供が作れるというところだけだ。
今回俺たちは狼獣人のツンドラの首をもって獣人連邦に向かっている。狼獣人の首のため、当然俺たちが目指すのは狼獣人の住む地域になる。
ツンドラの報奨金もそこでツンドラの首を確認してもらうことで支払ってもらえるようになる。
「……そういうことで俺たちは狼獣人の居住地を目指すことになる」
俺は今回の目的地についてシズクとカエデに説明する。
「私は特に問題ありません」
「……それでそこはどこにあるの?」
獣人連邦の位置について詳しく理解していないカエデが、俺に質問をする。聞かれた俺はそのまま目線をシズクへと向けた。
「……南です。砂漠の向こう側に獣人連邦はあります」
******
「……少し足が取られて動き難いな」
俺たちは獣人連邦に向かうため、砂漠越えをしている。砂漠を超えなくても良い方法もあるが、かなり大きな迂回が必要になる。迂回ルートは2つあり、王国を通るルートとエルフドワーフ連合国を通るルートだ。
王国を通るルートは、俺が何となく王国が嫌いだから使いたくない。カエデも王国から逃げた来た人間であるため、王国に行くのは嫌がるだろう。
シズクは我慢できるといっていたが、基本的に行きたくないようだ。実際帝国に住む獣人族も王国迂回ルートは使用していない。獣人族が獣人連邦から帝国を目指す場合は、エルフドワーフ連合国を通っている。
ただし距離などは王国迂回ルートのほうが短いようだ。その証拠に人間は王国ルートを使用している者が多い。
「もう少し体を浮かせたらどうですか?
少し体が重すぎるのでしょう」
シズクは完全に体を浮かせることで、砂の上を移動している。
それに比べるとカエデは少しきつそうに見える。
「……カエデ、大丈夫か?」
「問題ない」
少し心配して声をかけても、俺に対して弱みを見せたくないのかこのような回答しか戻ってこない。
「マイダーリン。
砂漠を選んだのは一度見て見たかったから?」
シズクがよく分からないような質問をしてくる。
「どういうことだ?」
正直に言って俺にはシズクの質問の意味が全く理解できなかった。
「知らなかったの?
ここってマイダーリンが龍脈を吸いつくして滅ぼした教国の跡地よ」
「そうなのか?」
全く知らなかった。
「呆れた。
ならなんでこのルートで獣人連邦に向かっているの?」
「近かったから。このルートが最短ルートだ。
俺とシズクは砂漠とか関係ないし、カエデも勇者だから大丈夫だろうと判断した。
みんな大丈夫だから最短ルート選んだ。それだけだ」
本当にこれ以上の理由はない。
「そうなんだ。感傷的になっていたら面白かったのに」
「そんなことよりも、さっさとこんな砂漠抜けるぞ」
この砂漠は龍脈が枯れているせいか、ほとんど生き物が存在しない。龍脈が原因で砂漠になったため、暑さについてはそこまで酷いものでもない。
せいぜい水不足ぐらいだろう。それでもこのルートが使用されないのは、龍脈が枯れたこの土地が基本的に不快だからだろう。
ある意味人工的に作られた砂漠。砂漠になった地域。不吉の象徴であり、実際に微妙な不快感を感じる砂漠。
使用するのをためらいたくなるのも当然といえるだろう。
******
俺たちは砂漠を抜けて獣人連邦へとやってきた。俺たちの目的地は狼獣人の住む地域。
特にそこに行くまでは問題が無かった。獣人連邦では種族ごとに住むところも違うし、定住ではなく遊牧民のように移動して生活している部族もいる。そのため帝国のような城壁はなく、人の出入りも比較的自由になっていた。
ただし部族以外の種族の者は目立つため、ものすごく警戒をされるのだが。
狼獣人が住むのは草原で、そこを移動しながら生活している。主に狩猟をしており、獲物を追うために定住はしていない。
俺たちは他の獣人族に聞きながら、狼獣人の住む場所を探していた。
「……なかなか見つからないな」
「話によるとこの辺りと聞いています。細かく移動を繰り返しているため、他の部族も詳しい場所は知らないそうです」
俺たちはかなり怪しまれながらも教えてもらった場所に来ていた。他の獣人族も詳しい場所については、知らないらしい。
「……それじゃ、急な連絡が必要の時はどうしているんだ?」
「基本は早馬ですね。それと重要でない場合は首都にそれぞれの部族が何人かいるため、それらの者が判断を下しているそうです」
シズクの回答を聞いてふと思った。
「……俺たちの目的はツンドラの首の確認なんだけど、それなら首都で行ってもらえばよかったんじゃないか?」
「……そうですね。今考えるとそう思います」
「……」
俺とカエデの視線がシズクへと集中した。
「でも、ここまで来てしまったんです。
狼獣人の居住地を探しましょう」
シズクは誤魔化すように明るい声を出すと、狼獣人が住んでいるといわれている場所に向けて歩き出した。
大規模な『探知』は敵対行為と見做されることもあり、自重している。今回の訪問は友好的に行う予定である。
「マイダーリン。フラグですか?
失敗に終わりそうですよ?」
シズクが不吉なことを言っているが、俺はそれを打ち消すように前へと歩き始めた。
******
大規模な『探知』が使えないからといって、『探知』自体が出来ないわけではない。
気付かれないような小規模の『探知』は旅をするうえで行うことも珍しいことではない。
最も街道ならまだしも住居の近くで行うことは、好ましいことではないのだが。
「シズク、何か見つかったか?」
「……ダメですね。
もしもに備えて隠蔽性能を高くする分、探索機能が下がってしまいます。
あまり役に立ちませんね」
その時、俺たちを探知する存在に気が付いた。
「!」
「探知されましたね」
俺たちは警戒態勢を取る。カエデを見ると、状況を把握できていないように見える。
「カエデ、警戒態勢。
敵味方の区別は不明。先制攻撃は控えろ。
とにかく自分の身を守ることだけを考えろ」
俺はカエデに指示を出しながら、辺りを見回す。ここは草原。見晴らしがいい。
しかし相手の姿は視認できず。身を低くして、隠れているのか?
それとも距離が遠い?いや、それはない。
先程の『探知』は出力が弱く、ある程度の隠蔽効果を組み込んだものだった。その分出力が弱く、そんな遠くから行ったものではないと推測される。
俺たちが警戒態勢を取っていると、やがて草原の中から数人の狼獣人が現れる。
ツンドラと同じように顔つきは完全に狼で、俺には全く見分けがつかない。それでも注意深く見れば、多少の違いは分かるのかもしれない。
体型から見て、一人の狼獣人が女性であることはすぐにわかった。露出は少ないが立派なものを持っているのが、隠せていない。
奴らはこちらを包囲するように近づいてきている。
「カエデ、絶対こちらから手を出すなよ」
俺はカエデに注意しながら、奴らの出方を待った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます