第19話 今度は獣人連邦へ



ツンドラを倒した後は、旅はそこそこ順調であった。たまに盗賊を見つけて倒すことはあったかもしれないが、そこにはツンドラのような強敵はいなかった。


ツンドラが異常だったのかもしれない。


「……これが帝都か。かなりデカいな」


俺たちの旅路は一度終わりを告げる。俺の目の前には巨大な城壁に守られている帝都があった。


「中に入るまではもう少し時間がかかると思いますので、ゆっくりしていてください」


御者席にいるシスとリスについては、もう見分けがつかなくなっている。最近は服装も似たような感じで全く見分けがつかない。


「……シズク。ツンドラのやつはかなり手強かった」


「そうですか」


「あいつが俺を襲ったのは偶然だと思うか?」


「それはないでしょう。

 あの男の話し声を聞いていましたが、マイダーリンのことを知っているようでした。

 誰かがマイダーリンのことを話して、襲うように仕向けたのだと思います」


シズクはいつもの笑顔で淡々と話している。


「誰だと思う?」


「恐らくは副ギルド長のウエンツ。その辺りと思いますが、証拠が全くありません。

 追及するだけ無駄でしょうね」


その辺りは俺も同様に思っている。しかし今から引き返して聞きに行くこともやる気が出ない。


「別に無視しても問題ないと思いますよ。

 ウエンツにしても足が付かない手頃な手駒がいたから、ぶつけてみたという程度でしょう。積極的に殺しに来るとは考えられません」


そうなんだよなぁ。恐らく邪魔者同士をぶつけただけだろうな。その後は全くそれらしい奴はいなかったから、もう何もしてこないだろうな。


「ところで話は変わるが、カエデの様子はどうなんだ?」


「カエデですか?順調に強くなっていますよ」


「相打ち覚悟なら俺を殺せるくらいにはなっているということか?」


「そこは微妙ですね。

 そんなことをしようとしても、マイダーリンなら先に殺せるでしょう?」


「まぁな。切り札の一つや二つは当然持っているかなら」


「……そういう話は私のいないところでしてほしい」


俺とシズクの話にカエデも口を挟んできた。


「カエデ。お前が俺を殺そうとするのは、世界の意志であり当たり前のことだ。

 普通世界の意志に影響されない者はいない」


「『爺』を除きますけど」


「あれは論外だ。一緒に考えるべきものではない。

 話が逸れたな」


「コウテツ」


珍しくカエデが俺の名前を呼んだ。


「たまに聞く『爺』とは何者?私もそいつのように強くなれる?」


「「無理」」


俺とシズクの声が重なった。


「カエデ、よく聞け。

 『爺』は目標にしていいものではない。あれは俺よりも誰よりも強い。

 でも強過ぎて何もできなくなった。何かするだけですごい被害が出るようになった。

 あれはいわゆる災害と同じだ。自由が失った強さだ」


「カエデ。あなたは強くなってどうなりたいの?」


シズクがカエデを真正面から見つめて問い掛けた。


「……私は。強くなりたい。

 それで好きなように生きたい。

 生き残るだけの強さが欲しい。

 そしてコウテツを殺したい!」


「カエデ。お前には世界から貰った力がある。

 俺を殺すための力だが、お前は俺を殺す必要はない。

 それは世界がお前に与えた感情だ。それに従う理由はない。

 力を鍛えて自由を手に入れろ。

 少なくとも今のお前は力に振り回されているだけだ。

 力を支配しなければ、俺に勝つことはできないと心せよ」


俺はカエデに殺される予定はない。カエデを殺す予定もない。


カエデには世界の意志に影響されないくらい、強くなって欲しい。


世界から与えられた力を自由に使って欲しい。


そうすれば俺はこの世界で自由に生きていけるようになるだろう。


カエデならこの世界で最強に近い力を手に入れることができるはずだ。


「俺のために強くなってくれ」


「……私は私のために強くなる」


カエデは俺から顔を逸らしながら、そういった。



******



そんな風に話している間にシスとリスによって、帝都の中に入る手続きは終えていた。


一応俺たちは辺境都市の冒険者ギルド副ギルド長の依頼で帝都まで来ている。そのため比較的スムーズに帝都の中に入ることができた。


荷馬車の中は俺とシズクとカエデだけだ。途中で捕まえた盗賊はできるだけすぐにリスが売り捌いている。


この後リスは知り合いの奴隷商人のもとに行くらしい。そこで働かせてもらって、再起を図る予定とのことだ。


シスは俺たちと共に冒険者ギルドに向かう。帝国冒険者ギルド本部だ。そのためリスとはここで別れることとなった。


「世話になったな。

 それじゃまた」


「ここまでありがとうございました」


「ばいばい」


「それでは後でそちらに伺います」


シスは親戚だからか、後でリスと出会うようだ。こうして俺たちは冒険者ギルド本部へと向かう。


「……それで本部はどこにあるんだ?」


「帝都も3階層になっている。すなわち貴族地区と一般地区と貧民地区だ。

 いま私たちがいるのが、貧民地区。リスの知り合いの奴隷商人も貧民地区。

 帝都は辺境都市と比べて一般地区の敷居が高い。

 それで冒険者ギルド本部だが、本部は一般地区にある。

 この道を真っすぐに行けば一般地区に入ることができる」


シスによるとここは、貧民地区らしい。まずは一般地区に入るところからか。それにしてもさすがは帝都というだけはある。貧民地区でも辺境都市よりも発展している。


「貧民地区と呼ばれていても、オーランドの一般地区くらいの活気があるな」


俺が見たところ帝都の貧民地区は、辺境都市の一般地区と同じくらいに見える。


「まぁそれだけ帝都が発展しているということだろう。

 他の都市にも貧民地区に寄ったが、さすがに帝都。どこよりもすごいな」


シスが帝都の様子を絶賛している。


「……それにしても、その分広そうだな」


俺は道の先を見るが、一般地区まではまだまだ遠いようであった。



******



余りにも遠いため、俺たちは一般地区へと向かう辻馬車に乗ることとなった。辻馬車とは簡単に言えばタクシーのようなものである。それを使い俺たちは冒険者ギルド本部へと向かうこととした。


そして俺たちは無事に冒険者ギルド本部の中に入っている。本部ということもあり、それなりに大きい建物が、冒険者ギルド本部の建物になる。


明らかに辺境都市の冒険者ギルド支部よりも、建物の大きさは等は上だ。


シスはウエンツの手紙をもって、手続きを行っている。首を渡しても良かったが、首はまだ俺が預かったままだ。


「……遅いな」


「まぁ色々話したりすることがあるんでしょうね」


「……」


「とりあえずで帝都に来たけど、この後はどうする予定だ?」


「特にありません。

 マイダーリンのほうで何か考えていますか?」


「俺も今のところは何も無しだ。

 恐らくツンドラはそれなりの金になるはずだから、しばらくここで暮らすとしても問題ないだけのお金は手に入るはずだ」


もし安く買い叩かれるようなら、ツンドラの頭を使ってアンデッドを作ればいいだろう。それを放して、帝都を混乱に落としても面白いかもしれない。


「……コウテツ、悪い顔をしている」


俺が少し企んでいたのをカエデに見られていると、シスがこちらに向けて歩いてきた。


「コウテツさん。盗賊系担当の担当者と話し合う準備ができましたので、こちらのついてきてください」


俺たちはシスの案内で、冒険者ギルド本部の中にある部屋へと案内される。そこは少し広めの部屋で、気難しそうなエルフがテーブルの前に座っていた。


俺はそのエルフの前に座るとシズクが俺の右隣り、カエデは俺の左隣に座ることとなった。なおシスは冒険者ギルド側ということで、エルフの隣に座っている。


「私が盗賊などの情報を担当しているウエーバーだ。

 本来なら盗賊は役場が担当になるわけだが、今回のように広域の盗賊退治となると冒険者ギルドも担当になる」


あくまで役場は地域の業務を行う。しかし今回のように広域にわたる業務の時は、帝国全土の組織である冒険者ギルドが管轄しているということか。


「とりあえず俺たちが手に入れた盗賊の首はこちらになります」


俺はそういってから時空魔法で、盗賊の首を取り出す。


「もしかしたら聞いているかもしれませんが、こちらは元『九尾』ツンドラの首になります」


俺は他の首と分けてツンドラの首をウエーバーの前に出す。


「一応は聞いている。疑うつもりもない。

 その上で聞いて欲しい。正直に言えば獣人の首の違いなんて分からん。

 そのため獣人連邦に確認することになると思う。

 ツンドラについては報奨金が獣人連邦から出るから、恐らくそうなるだろう。

 そこで冒険者パーティ『ツチミカド』に指名依頼だ。

 ツンドラの首を持って、獣人連邦まで行って欲しい。

 もちろん少ないが、依頼料も払おう」


エルフのウエーバーは難しいそうな顔をして、俺たちにそう言った。


話をまとめると、俺たちに獣人連邦に行けと言っているということか。


「……少し質問をしてもよろしいですか?」


シズクが口を挟む。


「構わないよ」


「ツンドラ以外の盗賊の首についてはそちらで精算していただけるということですね?」


「そうだな」


「ツンドラについては精算が困難のため、私たちに獣人連邦に向かえということですか?」


「そうだな」


「私たちを帝国から追放するお積りですか?」


「分かっているなら話は早いな。

 その通りだ。それで断るのかね?

 断れば一応こちらでツンドラの首について問い合わせはするが、かなりの時間を待ってもらうことになるのは間違いない。

 これは嫌がらせではなく、純然たる事実だ」


ウエーバーは先程から表情が固まっているように見える。


恐らくウエーバーの言うことに嘘はないだろう。獣人連邦とのやり取りで、時間がかかるのは本当だろう。しかもその間は帝都で待ち続けないといけない。


「念のために言っておくが、帝都の周りには余り魔物は出ない。

 ほとんどが弱い魔物で、魔石では辺境都市ほど儲からない。

 役場の仕事は儲けが多いものは、それなりのベテランが持っていくので君らはしばらく辛いことになるだろう」


「なら依頼で獣人連邦に向かうほうが、俺たちにとっては良いということですか?」


「そう私は思っている」


恐らくこの筋書きを描いたのは辺境都市の副ギルド長のウエンツだ。奴が俺とツンドラを戦うように仕向けて、俺が勝ってもツンドラの首の確認のために獣人連邦に行くようにしていたのだろう。


ここで一番の問題は嫌がらせなどで、国外に追いやられているわけではないということ。逆に俺たちにとって一番の利益を考えると国外に行くのがいいとなっている。


「……分かりました。受けましょう」


「それは良かった。今回については冒険者ギルドからの監視はない。

 君たちパーティだけで獣人連邦に向かって欲しい。

 アイシス君は帝都での勤務になり、ここでお別れになる」


こうして俺たちは今度は獣人連邦へと向かうことになった。



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