第15話 仕事の依頼とアイリス奴隷店
人造魔物の集落の殲滅の後、俺たちは冒険者ギルドに顔を出すことにした。
今回の魔石が、どの程度の買取になるのかを確認するためだ。量が多いため時間がかかると聞いており、今日は当初の予定では査定が終わっているはずの日である。
ここしばらくはシズクの助言もあり、役場の仕事をしていた。周りからの信用。それが無いと無用な敵を作るし、儲け話に関われなくなる。
ドブ掃除や荷物の積み込み等の肉体労働を中心に、仕事をこなしていた。
さて冒険者ギルドに着くと、いつも通りにアイシスを指名する。今日も冒険者ギルドは、忙しそうにしている。
最初に来た時よりも若干冒険者の数が減っている気もするが、そんなものは誤差の範囲だろう。
しばらく待っていると、用意ができたのかアイシスのいる窓口に呼ばれた。
「……今回の報酬は全部で金貨200枚になります」
細かい明細は置いておいて、集落殲滅の報酬は金貨200枚になった。半額になって、これである。
これで一般地区の市民証を買う目途がついた。俺が一般地区に住む場合は、奴隷のシズクの分の市民証も必要になる。つまり年間で金貨240枚無いと、俺は一般地区に住むことができない。
よくよく考えると、その計算だと1か月に金貨30枚くらいは必要になるか。
「……ねぇアイシス」
シズクがギルド職員のアイシスへと話し掛ける。
「一般地区の市民証ってひと月単位の購入って、できなかったかしら?」
「はい、その辺りは役場の担当になりますが出来たと思います」
アイシスは少しシズクに苦手意識があるようだが、聞かれた問いについては答を淀みなく返してくれた。
「これだけあれば、一度市民証を買うのもいいかもしれないわね」
元々永住希望のない俺たちだ。シズクの言う通り市民証を買って、この都市で生活してみて無理そうなら別の場所へ移動するのもいいかもしれない。
「……すいません。報酬の清算の後に、副ギルド長から話があると伺っております。
申し訳ありませんが、少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
これからのことを考えていた俺に、ギルド職員のアイシスから予想外の言葉が放たれた。
「マイダーリン?
これくらいは予想の範囲内ですよ」
焦る俺に対して、シズクは全く動じることなく落ち着いていた。
******
「……お待たせして申し訳ないね」
副ギルド長がすぐそばで控えていたわけではないので、俺たちは会議室で少し待たされた後に副ギルド長が登場した。
「いえ、問題ありません」
俺は副ギルド長に立ち上がってあいさつした後に、再び椅子へと腰かけた。俺とシズクは隣り合って座っており、俺の正面に副ギルド長がいる。シズクの正面には俺たちの分も含めて、飲み物を用意してくれたアイシスが座っている。
「さて君たちも忙しいだろうから、さっそく本題に入らせてもらうよ」
副ギルド長のウエンツは笑顔を張り付けながら、話し始める。
「君たちの実力を見込んで、仕事を依頼したい。指名依頼というやつだ。
それなりの報酬もあるし、役場等からの覚えも良くなる仕事だ」
ウエンツは完全に俺たちのことを調べ上げているようだ。俺たちが望むような報酬を準備している。
まぁ一般的な報酬とも言えなくもないのだが。
「それで仕事の内容について、お聞かせいただけますか?」
俺が考え事をしている間に、シズクが話を進めていく。
「もちろんだ。仕事の内容は盗賊の殲滅。証拠として盗賊どもの首から上を、提出して欲しい。
場所は帝都とこの都市を結ぶ街道。報酬の金貨100枚は先に渡しておこう。
君たちは帝都に向かい、その道中にいる盗賊を倒してきて欲しい」
ウエンツがニコニコしながら、仕事の内容を説明する。
「……いくつか確認してもよろしいですか?」
「もちろん構わないよ」
シズクが問い掛けてもウエンツの笑顔は崩れない。
「今回の仕事は特定の盗賊の討伐ではなく、街道の盗賊の一掃ということでしょうか?」
「その通りだ。定期的に行っている盗賊の殲滅を依頼したい」
「盗賊の首の提出先は、この冒険者ギルドですか?」
「ああ、それは違う。君たちは私の手紙を渡しておくから、帝都の冒険者ギルドに首を提出して欲しい。
賞金首等がいた場合は、そちらで追加報酬を支払う予定だ」
何か妖しいくらいウエンツがニコニコしていた。
「それから念のためにお金を持ち逃げしないか監視するために。冒険者ギルド職員が同行することになる」
ウエンツはポンっとアイシスの肩を叩いた。
「へっ?」
「同行するのはアイシス君だ」
ウエンツはニコニコしていた。それに対してアイシスは知らされていなかったのだろう。急なことに驚いて、完全に固まってしまっている。
「……どうして?」
「何故かって?
最近は冒険者も減っていて買取担当に余裕がある。
特に君の担当の冒険者はコウテツ君たち以外は、何故か消えているじゃないか。
コウテツ君だけが君の担当だろう?ならコウテツ君の仕事に同行するのは当然と言えるだろう。
心配しなくてもいい。君が抜けても問題ないだけの体制は整えてある」
ウエンツはアイシスにニッコリを笑いかけている。
この様子だとウエンツはアイシスがシズクに冒険者を紹介することで、冒険者が亡くなっていることを知っているな。その上で俺たちとともに、アイシスをこの支部から飛ばすことにしたのだろう。
「なるほど。『追放』ですか?」
シズクがハッキリとウエンツに真意を問い掛ける。
「いやだなぁ。『栄転』といって欲しいな。
もちろんアイシス君のことも手紙に書いておくから、帝都の冒険者ギルド本部で働くことができると思うよ」
つまりウエンツは仕事に見せかけて、俺たちはこの都市から追い出そうと考えたわけか。そのついでに街道の盗賊退治もやらせようと考えたと。
「俺からも一つ聞きたい。
盗賊の持ち物については、どういう対応になる?」
「それは全て君たちのものだ。盗賊の持ち物は手に入れた者が、全て貰うことができる。
それが帝国の一般常識だ」
俺の質問にウエンツは笑みを張り付けたまま答える。
「準備が必要だろうから、7日間の猶予を与える。
7日間で準備した後に、帝都に向かうようにして欲しい。
それからこれは7日間だけ有効になる一般地区の市民証だ。渡しておこう。
私からは以上だ。何か他に質問はあるかね?」
ウエンツから俺が2枚の市民証を受け取る。
こうして俺たちは辺境都市オーランドから厄介払いされることとなった。
******
俺たちは今、ギルド職員の買取担当アイシスが借りている部屋にお邪魔している。
借主であるアイシスは副ギルド長に言われたことがショックなのか、酷く落ち込んでいた。
「えっと、アイシスさん。
こうなったら俺たちは仲間だ。一緒に帝都に行こう?」
話が進まないため、俺は形だけアイシスを慰めることにする。
「……どうするんですか!?
実質追放ですよ!?私どうなるんだろう……」
「もちろん私たちと帝都に向かうことになるわね。
それ以外の方法があると思うの?」
シズクは落ち込むアイシスを一刀両断する。
「とりあえずアイシスは自分の荷物をまとめておいてくれ。
それと必要なものの買い出しを頼む。
俺たちはその辺の者が必要としていない」
俺とシズクは服は体の一部だし、食事についても問題ない。俺はその辺の魔物を食べれば生きていけるし、シズクは俺の魔力で生きている。
ついでに言えば俺は野宿に慣れているし、シズクはいざとなれば俺の影の中に潜むことができる。
旅の準備なんてものは特に俺たちには必要ない。
「マイダーリン?そういう考えは思わぬところで、足をすくわれますよ?
それより報酬の金貨100枚を加えて、いま金貨300枚あります。
少し欲しいものがありますので、買い物にお付き合いいただいてもよろしいですか?」
「構わないが何を買うつもりなんだ?」
「それは奴隷です」
シズクはそういって微笑んだ。
******
俺たちとアイシスはアイリス奴隷店にいた。シズクが奴隷を買うと言い出したからだ。
「……アイリスさん、どうしたんですか?」
アイリス奴隷店ではアイリスが項垂れていた。
「…………ああ、コウテツさんか。
この店は『7日後』に店を閉めることになったんだよ……」
「どういうことですかっ!
どうしてそんなことにっ!?」
「アイシス……。
気持ちは嬉しい。でも仕方ないことだ。
理由は『危険な悪魔の取り扱い』によるものだ」
全員の視線がシズクへ向いた。
「私のせいということですか?」
シズクは笑顔であったが、目は笑っていなかった。
「……私たちはたくさんの冒険者をシズクさんに紹介してきました。
そしてその冒険者はもういません。
それが理由です」
言われてみれば、納得ができるものである。アイシスとアイリスはシズクに大勢の冒険者を紹介してきたし、それに冒険者の数が減っていた。
さらに言えば、シズクはとても強力で危険な悪魔である。その気になれば、この辺境都市を滅ぼせるだろう。
「それはマイダーリンも同じですけどね」
それを領主や冒険者ギルドに黙っていたわけだから、店を潰されても文句は言えないのではないか?
「シズクのこと黙っていたのがバレたのですね?
店が潰れる程度で済んだのなら、かなり温情があるのでは?」
俺は正直に自分の考えを告げる。
「……まぁ、そうなんですよね。
正直命あるだけマシというものです。処刑でもおかしくない話でした」
アイリスの話を聞いて、アイシスは顔を青くしていた。ようやく自分がギリギリで助かっていることに気が付いたのだ。
「それでこの後はどうするつもり。
というより私たち奴隷買いに来たんだけど、奴隷いる?」
「奴隷ですか?
ほとんど他の店に売り渡しましたが、売れ残りが一人残っています。
15歳くらいの人間の女性です」
アイリスは営業スマイルを浮かべた。
「ああ、あの子のことか」
「あの子ね」
「ええ、あの子です」
アイシスとシズクとアイリスは3人で納得していた。
俺だけが話についていけずに、置き去りにされていた。
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