第14話 冒険者ギルド副ギルド長ウエンツ



俺は帝国冒険者ギルドオーランド支部の副ギルド長をしているウエンツだ。種族はエルフ。年齢は200歳のまだまだ若者だ。


最近の冒険者ギルドオーランド支部では、貧民地区にあるクランの消失が多発している。


どのクランも人身売買などを行っているような問題のあるクランである。証拠がないため、処罰することができないが。


さてそのようなクランでも無くなってしまうと、少し不便が生じる。


魔物の討伐数が減り、魔石の買取量が激減しているのだ。それに加えて、人造魔物が増えているとの報告がある。


この近くに集落ができていると考えてもいいだろう。


貧民地区を含めても行方不明者の数は少ない。しかしその一方で王国からの来訪者の数が激減している。


これは集落を作る際に王国から帝国に向かう者たちが、人造魔物の犠牲になっているとみて間違いないだろう。


これも全てコウテツとかいう冒険者のせいである。貧民地区のクランがあれば、奴らがその辺の管理はきちんと行っていただろう。


わざわざ犯罪者のクランを残していたのは、魔物の管理に役立つからだ。そうでなければ証拠が無くても処分していただろう。


その程度の力は冒険者ギルドにある。


さてまずは集落の位置を確認するとしよう。


「イーギル!一般地区の冒険者を使って集落の位置を探ってくれ。

 まだ大規模な『探知』は禁止。おおよその位置を絞り込むだけでいい。

 安全第一で頼む」


俺はギルド職員のイーギルを呼び出し、集落の位置を絞り込むように命令する。


こいつは足が速いから、少なくとも人造魔物程度になら殺されることは無いだろう。



******



目の前の猫獣人、名前は確かアイシスだったか。こいつは何を言っているのだろうか?


今頃になって集落のことに気が付いたと思ったら、コウテツという冒険者を集落の探索に入れて欲しいといってきた。


何故そんな信用のない冒険者を使わないといけないのだろうか?


理解に苦しむ。


それにそのコウテツは貧民地区のクランを潰した、集落が生まれることになった元凶だろう。


何を考えているのか理解できない。


当たり前だが断った。


それで話が終わるかと思えば、今度はクランの消失について話がしたいと申し出があったらしい。


何を考えている?


とにかく情報が必要だ。猫獣人のアイシスから聞き出すことにする。


全て話してもらおう。ついでにお前と関わった冒険者が数人姿を消しているが、そのことについても話してもらおうか。


…………なるほど。黒髪のサキュバスか。


嫌な予感がするな。しかしあいつは死んだと聞いている。


関係がないはず。でも少し引っかかるな。


今考えるべきは奴らの狙いだ。気持ちを切り替えよう。


奴らの言うクランの消失について、今すぐに騎士団に動いてもらうことは難しいだろう。今は魔物の集落ができて、そちらに戦力を割いてもらわなければいけない。


こんな貧民地区の揉め事に騎士団が関わるとは考え難い。なら冒険者ギルドで対応することになるのか。


それなりの実力者だろう。それに奴隷は魅了が使えるサキュバスか。


下手な戦力では倒すことはできない。かといって強力な戦力を使うようなことではない。


奴らには焼失したクランの分まで働いてもらうことにしよう。



******



実際に奴らと会ってみた。


今回話したのは、奴隷である黒髪の淫魔。主人である男は淫魔と私の会話に、口を挟んでくることは無かった。


黒髪の淫魔の目的は冒険者ギルドと信頼関係を結ぶことだろう。そうすれば色々儲けが大きい仕事を回してもらえるし、情報も流してもらえる。


冒険者ギルドは冒険者に優劣をつけている。当然だろう。


役に立つ奴と立たない奴で待遇に差があることは仕方がないことだ。差がつけられるのが嫌なら、役に立てばいい。


冒険者ギルドに認めてもらえば、幾らでも優遇しよう。


それにしてもあの主人という男は、聞いていた話と総合すると暗殺者の可能性が高い。誰を殺しに来たのかが問題だ。


領主か?その辺も確かめるため、今回は『オーランド遊撃隊』に監視をしてもらおう。


『オーランド遊撃隊』に興味を示せば、暗殺の狙いは領主の可能性が高い。念のために、奴らを始末するための準備もしておこう。領主の暗殺なら騎士団も動くはずだ。


どの程度の実力者かは分からないが、最悪の場合は俺が動いてもいいだろう。


それとアイシスの奴は奴らの仲間だな。状況次第では始末しよう。



******



イーギルや『オーランド遊撃隊』から報告を聞いた。


……全員が幻覚を見たのだろうか?もしくは洗脳された?


いや、それはない。それなら持たせていた『精神干渉遮断』の魔道具が、反応しているはずだ。魔道具には全く反応が無い。


『精神干渉』は受けていないと考えるのが妥当だ。


そうすると報告は事実ということになる。かなり厄介な状況だな。


コウテツは恐らく実力を隠したうえで、ほぼ一人で集落の大鬼と中鬼を殲滅。


奴隷の方は確かシズクといったか?こちらは集落を覆うような『結界』と小鬼の魔法による殲滅。更に殺し終えたほぼ全ての魔物を『ゾンビ化』させたという。


この二人を合わせれば余裕で『都市級災害』の実力者だろう。


それに奴隷の方は『奴隷の抜け道』を使える可能性がある。あの奴隷だから主人と命令伝達用のラインがあり、それを逆流すれば主人を『精神干渉』できるとというトンデモ理論を実現させたというのか?


もし『奴隷の抜け道』を使って主人に精神干渉しているなら、あの奴隷の魔法制御能力は、魔導王国の十大仙人の筆頭格と同じくらいということになる。


そんなの生まれて数年のサキュバスにできるはずがない。


サキュバス?……『自己転生』か!それなら説明できる。


……そうなるとあの奴隷は神聖王国の『剣聖』を引退に追い込んだ『黒龍殺しの淫魔』ということか!?


ありえない。……しかし状況的にそう考えると説明が付く。


……さすがにここまでくると、俺が対応できる範囲を超えているな。


俺が考えているのが事実なら、奴らは『都市級災害』ではなく『国家級災害』の実力を持っている。


下手に対応を誤れば、帝国が滅ぶかもしれない。


この件は領主とギルド長に相談して進める必要があるな。



******



「……以上が私の考えを交えた上での報告になります。

 さすがに下手に刺激して暴発されると大変ですので、推論についてはまだ確認していません」


俺は領主の館の客室で、ギルド長と領主に対して報告を行っていた。


通常ならば俺自身の推測なんて報告に上げない。事実確認を行ったうえで、事実のみ報告していた。


しかし今回は事実確認も命懸けである。『辺境都市の』命懸けである。


懸けるものが大きすぎるため、今回はそれを行うかも含めて『上』の判断を仰ぐことにした。


「……『国家級災害』か。少し大袈裟のような気もするな」


円卓のテーブルの俺の隣の席に座っているギルド長は、少し疑い気に報告書に目を通している。


「それで現在確認できている実力だと、騎士団で対象の処分は可能か?」


領主は隣に座る騎士団長に問うた。


「……恐らく可能です。隠している実力は分かりませんが、騎士団で倒せない相手ではないでしょう」


「どうの程度の被害になる?」


騎士団長の答えに領主は更なる質問を行う。


「…………小さく見積もっても、騎士団は半壊すると思われます」


さすが騎士団長だ。相手の実力と自分たちの実力の適正な比較ができている。しかしそれはあくまで敵の実力が報告程度の場合だ。それ以上なら回答の通りにはいかないだろう。


「……なら騎士団に当たらせるのはやめたほうがいいな。損害が大き過ぎるし、それで済む保証もない」


領主は与えられた情報から判断する。


「基本的には手出し無用だ。見張りも不要だ。無駄な犠牲が出るだけだろう。

 ただ金が目的の可能性もある。しばらくは適当に仕事を与えての様子見でいいだろう」


「そうなると買取担当も処分不要でいいでしょう。多少の色を付けているようですが、不正と呼ぶほどのことではありません。自分の固定客相手なら、他の買取担当も行っている程度の金額です。問題無しとしましょう」


領主の決定を受けてギルド長もアイシスへの対応を決める。


「それと彼らのこれからの対応はウエンツ、あなたの仕事とします。

 彼らが問題を起こさないように、あなたの指導を期待していますよ」


ギルド長は面倒ごとを俺に押し付けようとしていた。


「いや、……基本的は手出し無用でしょう?」


「それは実力行使という意味です。冒険者ギルドとして冒険者の指導を行うことは、おかしいことではありません」


ギルド長の言葉に領主も頷いていた。


……こうして俺は面倒ごとを抱えるようになってしまった。


こうなったら奴らには他の町に行ってもらうように、誘導しよう。


それと厄介ごとの始末を任せることにしよう。


俺は心の中で強く誓うのであった。



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