第12話 シズクとの奴隷契約について



後片付けは大変だった。敵を倒すだけなら簡単だったが、魔石の取り出しや死体の片づけは時間がかかる。


俺とシズクは途中で魔物等の死体を食べながら後始末をしていたが、『オーランド遊撃隊』とギルド職員のイーギルは食欲が無いようであった。


魔物の肉は嫌いなのかな?人造魔物は元は人間だから嫌いでもおかしくないか。


俺はふと以前収集した知識からそれに該当するものを引っ張り出す。どうやら人造魔物は食料とみなされていないようだ。天然魔物については全く逆で高級食材になる。


俺にとってみればどちらも栄養の面から見ると同じである。確かに天然物のほうが美味しいけど。


「少し魔石取り出すの面倒ですし、少しだけ無理をさせてもらいますね。

 問題ないよね、マイダーリン」


「もちろんさ、マイハニー」


条件反射のようにシズクとのやり取りをしていたが、何かおかしいように思った。俺は首を傾げる。


何がおかしいかは考えることすらできないのだが。


「彷徨える魂よ、我が命に従いて一時的に眠りから覚めよ!

 『ネクロマンサー』」


シズクが使った魔法は簡易的で一時的な死者蘇生の一種で、最近死んだものを一時的に蘇らせて自由に操るというものだ。


死者蘇生といったが、どちらかといえば死体操作というほうが近いだろう。


「魔物どもは私の前に魔石を捧げなさい。その後は再び眠りなさい」


シズクが一時的に蘇った魔物たちへと命令を下す。魔物たちは自分たちの前で、痛みに耐えながら自分の中にある魔石を取り出す。それをこちらに渡すと、再び死体へと戻っていく。


俺は損傷が激しく、蘇らせることができなかった個体の魔石を取り出していく。


シズクのおかげで予想以上に時間を短縮することができた。



******



魔石はすべて回収できた。いくつか質の良さそうな魔石もあったので、半額とはいえ買取額は期待できるだろう。


「……死体はどうするんだ?」


カエサルが俺に魔物の死体の処理について尋ねてきた。一般的には燃やすのが主流のようだ。


「持ち帰ります。食べる予定です」


しかし俺が魔力を生み出すのに利用できるため、燃やしてしまうなんてありえない。


「……そうか。……貧民地区は大変なんだな」


何かカエサルは誤解しているように見えたが、そのまま流しておく。俺にとってはどうでもいいことだ。


「……カエサルさん。彼らが特別なだけです。

 さすがの貧民地区でも人造魔物は食べません」


俺が訂正しないため、冒険者ギルド職員のイーギルが訂正する。


……イーギルも大変だな。


「それで結構時間がたっていますが、この後はどうしますか。

 この場で一晩過ごして帰るというのが妥当のように思います。

 今から急いで帰っても、辺境都市の門は閉じているでしょう」


俺はこの後の予定を確認する。既に日は沈みかけている。今から戻っても辺境都市の門は閉ざされていることだろう。


「それについては問題ありません。

 緊急時の処置ということで、夜でも特別に門を開けてもらえることになっています」


……そう言われればそうか。魔物の集落を確認しているのだ。もしかしたら急に集落の魔物が辺境都市を襲おうとするかもしれない。そういう場合に急いで連絡する必要があり、そのために特別に門を開けてもらえるのはおかしいことではない。


「そうですか。

 では撤収しましょう。何時までもここにいる必要はないでしょう?」


イーギルの言葉を受けてシズクが撤収を提案する。周りも頷き、特に問題はなさそうだ。


「『ツチミカド』と『オーランド遊撃隊』はここの地図を作成しておいてください。

 魔物は殲滅されていますが、念のため後日再調査が入るはずです。

 その時に使いますので、お願いします」


イーギルの事務的な連絡を受けて、俺たちは集落を後にして辺境都市へと帰っていった。



******



俺とシズクは拠点にしている空き倉庫にいる。時刻は深夜。あの後で俺たちは夜中にもかかわらず、門を置けて中へと入れてもらえた。その後は解散して詳しい話は、明日の昼に冒険者ギルドで行うこととなっていた。


俺とシズクは普段は夜に寝ているが、必ずしもそれが必要なわけではない。眠らずに行動することも可能である。そのため今日は寝ることなく、暗闇の中で話し合いを行っていた。


「シズク。今回の仕事は特に問題はなかったか?」


「そうですねぇ~」


シズクは俺の質問を受けて、少し考えこむ。


「特に切り札を切ったわけでもありませんし、その上でそれなりの実力も示せました。

 この上でこちらに直接的な危害を加えようと動くことは、まず無いとみて良いと思います。

 そういう意味では問題はありません。しかしその一方で人造魔物を食べることなどから、隠していませんが私たちが人間ではないことがバレたと思います。

 出来れば私たちのことを許容して欲しいと思っていますが、何らかの形で排除する方向に動くことも考えられます。

 今まで通り油断は禁物ですね」


シズクは真面目な顔で話している。


「人造魔物を食べたのはやり過ぎだったか。

 まぁ今さら言っても仕方ないのだが」


俺は反省をしつつ、気持ちを切り替える。


「……ところでシズク、気になっていることがあるんだが」


「何でしょう?マイダーリン?」


シズクはにっこりと微笑む。


「お前、俺の記録領域に干渉しただろ?

 正確にいうと、俺の人格にまで干渉しただろ?」


俺の指摘にシズクは笑みを消す。


「……おや?気が付きましたか。

 気付けないようにしていたと思ったのですが?」


「俺は『式神生命体』だ。『生命体』何だよ!

 経験から成長し、対処できるようになるから『生命体』だ。

 俺のことを甘く見過ぎだ!」


俺は大地様の最高傑作である俺を、過少評価したシズクに吠える。


「これはこれは、失礼しました。

 申し訳ございません。マイダーリン」


シズクは嬉しそうに俺に対して頭を下げた。


「それにしても人格に干渉なんて、どこから侵入したんだ?

 人格の領域については一番精神防御が厚いところだぞ?

 …………そうか!奴隷として繋がっているラインを逆流してきたのか!?

 クソっ!これじゃ奴隷契約を解除しない限り防げないということか!?」


シズクの腕前は異常と呼んで差支えのないものであった。理論上は可能であることは分かる。しかし実践しろと言われても、こんなことは不可能だ。あまりにも繊細な力の制御。芸術の域といってもいいだろう。


俺はもちろん、大地様でもこのような芸当は不可能だろう。『爺』は細かい力の制御が苦手のため、論外だ。


しかし防げないとなると、安全のためには奴隷契約を解除するのが一番いい。


「それだけはお許しください」


俺の心を読んでいるシズクはその場で土下座をする。


「どういうつもりだ?」


「私はマイダーリンに捨てられると、平穏に生きていくことができません。

 捨てるのだけはお許しください」


シズクは今回については真面目な話のようだ。


しかし普通の奴隷契約とかで縛っても、こいつの腕だと多分掻い潜れるんだろうな。


となるとどうすればいい?どうすれば干渉から確実に身を守れる?


「それなら簡単です。奴隷に対する命令権のラインが人格と紐づいています。

 魔力だけのラインなら問題ありません。

 命令権のラインを廃棄すれば大丈夫です」


シズクが顔を上げて、ニッコリと笑っている。こいつ全て知っていたな。


「もちろんです。

 命令を下すためのラインは思考領域、更に人格領域にまで繋がっています。

 魔力供給だけなら、こんなラインが不要なことは明白です。

 マイダーリンは安易な契約を行うことの危険性を知れてよかったですね」


少し納得はいかないが、授業料と思うことにしよう。


俺は即座に奴隷契約を書き換える。これで俺はシズクに対する命令権を廃棄したことになる。


しかしシズクは俺から魔力の供給を受けなければ、魔力を吸う際の魅了によって殺さなければ生きていけなくなる。


それだけシズクの魅了は強力で、俺くらいしか耐えることはできない。他にもいるかもしれないが、シズクが知る限りでは俺しかいない。


「はい。ですのでマイダーリンがいないと、私は殺して吸うか自分が生きていけない程度の微弱な程度を吸うしか選べなくなります。

 前者だといずれ国と敵対します。後者だといずれ私自身が死んでしまいます。

 どちらもごめんです」


難儀なやつだ。国と敵対するということは、国が誇る戦力と戦うということだ。俺はこの世界の国がどの程度の戦力を持っているかは知らないが、俺より強いものがいるかもしれない。


「少なくとも、私を殺せる程度のものは存在します。

 マイダーリンについては分かりません。マイダーリンは私よりもはるかに強いですから」


つまりシズクはこの世界で安全に生きていくために、俺を利用しようと考えているわけだな。


「その代わり、私はマイダーリンの役に立つと思いますよ」


そういって妖艶に微笑むシズクに腹が立ったので、後ろから襲ってお仕置きをすることにした。



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