第11話 魔物の集落殲滅戦



辺境都市オーランドの王国側の門を貧民地区の市民証を見せて潜り抜ける。今日の目的は森の奥にあると思われる魔物の集落の調査。可能であれば殲滅する予定となっている。


冒険者ギルドによる予備調査で大まかな位置は予測されており、今日の調査でそれを確定させる予定だ。


今回の戦力で殲滅が難しい場合は、後日騎士団と協力して集落を殲滅する予定となっている。


俺たちは日の出前に集合して、調査に向かうことになっている。


今回の調査参加者は俺とシズク、それと冒険者ギルドの信用の厚い冒険者パーティ『オーランド遊撃隊』と冒険者ギルドから犬獣人のイーギルになっている。


「……初めまして。冒険者のコウテツです」


「私はコウテツの奴隷のシズクです。よろしくお願いします」


俺は少し表情が硬いが、シズクは明るく普通に挨拶をしていた。


「……貴族地区冒険者パーティ『オーランド遊撃部隊』のリーダーのカエサルだ」


「私はキリカ。よろしく」


「クオンだ」


「ケーリッヒです」


「コリンです。今日はよろしくね」


『オーランド遊撃隊』は全員が人間で、リーダーのカエサルが赤色短髪の男性の戦士。キリカは緑色短髪女性の斥候職。クオンは水色長髪女性の魔法使い。ケーリッヒが水色短髪男性の僧侶。コリンが茶色短髪女性の戦士であった。


魔力の量や染めていない髪の色等から見ても、『オーランド遊撃隊』はかなりバランスも良く強い冒険者であることがわかる。そのくせ全員が20歳くらいに見えた。


「冒険者ギルドから監視役として派遣されたイーギルです。

 私に何かあった場合は、後で色々面倒なことになるので注意してください。」


冒険者ギルドからの監視役として以前に出会った犬獣人のイーギルがいる。


「今回の作戦はお伝えした通り、こちらの二人の実力を試す意味も含まれています。

 こちらの二人が手に入れた魔石の買取額の半分は、『オーランド遊撃隊』に支払われます」


「聞いている。その代わり基本的には我々は手を出さないという約束だったな」


「その通りです」


イーギルとカエサルの間で今回の条件に付いて確認が行われている。


「それでは二人が先行する形で進んでください。

 ……そういえば二人のパーティ名はありますか?」


イーギルから突然の質問が来た。……パーティ名か。特に考えてなかったな。


「パーティ名は『ツチミカド』でお願いします」


俺が考えている間にシズクが勝手にパーティ名を決めていた。


「『ツチミカド』ですか?

 どういう意味です?」


イーギルは不思議そうに尋ねた。


「マイダーリンの家に伝わる名前です。

 いわゆる『異世界』由来の名前ですね」


シズクはニコニコと笑っている。


「異世界?召喚勇者ですか?コウテツさんは王国で召喚された勇者ですか?」


イーギルは鋭い目を見せている。


「いえいえ。マイダーリンは違います。

 勇者ではなく、勇者の末裔です」


「ああ、王国によくいる勇者の末裔を自称する人ですか。

 なるほど、分かりました」


イーギルはシズクの話を聞いて安心した様子を見せると、今度は俺たちを馬鹿にしたように見る。


「パーティ名は『ツチミカド』ですね。ではツチミカドが先行して進んでください」


こうしてひと悶着あったが、調査は開始された。


それにしてもオーランド遊撃部隊の連中は表面的に仲良くしようとしているやつもいるが、全員が俺たちのことを見下しているようだ。


冒険者ギルドの監視員のイーギルも俺のことを胡散臭いやつとしか見ていない。


少し心配になるが、俺たちの調査は始まった。



******



調査自体は順調に進んでいる。


元々予備調査があり、場所の目星はついていたのだ。今回の調査はそれの確認になる。天然魔物はほとんどなく、人造魔物の数が増えてきている。


人造魔物は能力の個体差が大きいが、主にゴブリンとオークとオーガと呼ばれている。


ゴブリンは緑色の小鬼。オークは豚顔の中鬼。オーガは筋肉質の大鬼だ。


全ては人間をベースに作られた人造魔物で、それぞれ加えられた要素が違う。


そのためこれらの3種の鬼は共存が可能である。


「目的地に近づくだけで、巡回する鬼の数が増えてますね。

 大鬼1で中鬼2で小鬼3のパーティを複数確認。

 どうやっても気づかれずに集落を確認するのは難しいですね」


シズクが『探知』を使って、近くにいる魔物の数を確認する。現在行っている小規模な『探知』だと集落まで確認できない。大規模な『探知』なら確認できるだろうが、今度は逆に敵から気付かれる恐れが出てくる。


「大規模な『探知』を行い、集落を確認後に魔物と戦闘を行いたいと思います」


俺がギルドの監視員と『オーランドの遊撃隊』に提案する。元々こちらは戦うつもりで来ている。なら大規模『探知』を使わない理由はない。


「『オーランド遊撃隊』としては問題ない。こちらもそれを予定していた」


「ギルド職員としても、問題ありません。自分の身くらいは守れるつもりです」


カエサルとイーギルから了承は取れた。なら問題ない。


「では5秒後に大規模『探知』を行います。『オーランド遊撃隊』も行うのなら、こちらに合わせてください。

 5、4。3、2、1、0」


俺は大規模な『探知』を行う。それと同時に『オーランド遊撃隊』のキリカとクオンが同じように大規模な『探知』を行うのが感じられた。


「前方に集落を確認。生存者10名。敵総数およそ600。大鬼100。中鬼200。小鬼300」


大規模『探知』の結果を全員に伝える。『オーランド遊撃隊』も大規模『探知』の結果は同じようだ。


「それじゃあ、先制攻撃行きま~す。

 『シャドウエッジ』」


今回は詠唱無しでシズクが『シャドウエッジ』を唱える。影の刃が小鬼を貫く。今回は数が多いため威力が低い。小鬼の始末を優先させたようだ。


「生存者はどうせ王国民です。帝国民ではありませんので助ける必要はありません。

 第一目標は情報を持ち帰ること。第二目標が敵の殲滅です」


イーギルが冒険者ギルドとしての指示を伝える。誰も助けなくてもいいのは楽でよい。


敵を殺して、こちらが生き残ればいいだけだ。


とても簡単で、とてもシンプルだ。


俺は自分の体の強度を上げた。敵は中鬼と大鬼。油断ができるような相手ではない。


「俺は打って出る。シズクは敵を逃がさないように結界を頼む」


シズクに結界での包囲を任せると、俺は全力で走り出す。シズクが立っている場所が邪魔になり、俺についてくるものはいない。俺は目の前を見る。


見つけた!大鬼が1。中鬼が2。巡回していた魔物のパーティだろう。


小鬼のゴブリンが殺されて、オークとオーガのみが残っているようだ。


敵もこちらに気付いて、武器を構えている。武器はこん棒。材質は木製。


なら全く問題なし。俺はそのまま敵へと突っ込んでいく。


敵の攻撃が俺に当たるが、全く俺には通用しない。逆にこん棒のほうが壊れていく。


「我が身は鋼鉄。そんなものが俺に通用するかぁ!!」


俺は叫びながらオークを殴る。2メートルくらいあるオークの巨大な体を、俺の拳が一撃で風穴を開ける。


そのまま俺は別のオークを蹴りつける。今度はオークの体を両断する。


武器を失ったオーガが俺を殴りつけるが、オーガの拳のほうが壊れる始末だ。


戦意を失い俺に恐怖するオーガを、俺は手早く手刀で両断する。


「数が多いからな。手早くいかないと」


俺は次の獲物を求めて走り出した。



******



俺は逃げられないように張られた円形の結界の中を、螺旋を描くように外側から回って中心へと向かっていった。


途中で様々な敵がいた。外側にいるのは巡回するための戦士が中心であった。内側に行くにつれて集落の中へと入っていく。


集落の中には幼い魔物の子育てをする魔物たち。魔物を生んだ人間。魔物に種付けされている人間。魔物に種付けしている人間。食料になった人間。


様々なものがいた。俺は有象無象の区別なく拳を振るう。全ての命を奪う。


倒せる敵は倒せるときに倒す。それが鉄則だ。


そして目の前には、最後の敵であるオーガがいた。


「……貴様、何者だ」


オーガは流暢な人語を話す。元々人間をベースに生み出された魔物である。高い知性を持つ個体が生まれれば、人語を操っていても不思議ではないか。


「俺か?俺の名前はコウテツ。冒険者だ」


特に意味もないが、俺は普通にオーガの質問に答えた。それよりも、このオーガは他のオーガよりも強い個体だな。体つきが違う。


大きさ自体は他のオーガと同じくらいで3メートル前後。基本的にオーガは筋肉質だが、このオーガは他のオーガよりも筋肉量が多い。


でも俺の敵ではないようだが。


俺は拳を構える。念のため強度をさらに強くする。


「喰らうがいい、『フレイムボール』」


オーガの声とともに、俺に目掛けて炎の弾が迫ってくる。


うちの陰陽道には五行相克という考えがある。それによると『火』は『金』を殺す。


つまり『金』である俺の弱点は『火』だ。確かに『火』が弱点だ。


「でもこんな弱火じゃ、俺は燃やせない」


俺は炎の弾に当たるが、俺は弱火で燃えることなくそのまま突き進む。俺は目の前のオーガを、両手の手刀で十字に切り裂いた。


倒れるオーガの頭を右足で踏みつぶし止めを刺す。


これで今回の仕事はほぼ終わりだ。後は手間がかかるが、魔石と魔物の死体の回収だ。


「……面倒だな」


俺は大きくため息を吐いた。



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