第10話 冒険者ギルド副ギルド長との話し合い



完・全・勝・利。


もしかしたら勝たせてもらった可能性は否定できないが、今回は俺の完全勝利で幕を閉じた。


何か掌の上で転がされている感がするのだが、あまり気にしないようにしよう。とりあえず俺は完全勝利した。終始俺のペースで進められた。


そのことが一番大切だ。


「今日も魔物討伐か?」


俺はシズクに尋ねる。何故かは分からないが、シズクのことはとても信用ができると思えるようになっていた。


何故だろう?自己診断するが『魅了』を受けている形跡はない。


「気にしてはいけないですよ、マイダーリン!」


「そうだね、マイハニー!」


あれっ?俺ってこんなことを言うような人格だったか?もしかして改ざんされている?


俺は自分の状態に疑念を感じるが……あれ、俺は何を考えていたのだろうか?


多分必要のないことだから考えないようにしよう。


「えっと……何を言っていたっけ?」


俺はシズクに尋ねる。


「マイダーリン、今日の予定です。

 今日は魔物討伐の前に、冒険者ギルドに行きましょう。

 アイシスに昨日頼んだ件の確認を先に済ませたほうがいいと思います」


シズクは笑顔で俺の問いに応えてくれた。それだけで何故か嬉しく感じる。


「それにしてもマイダーリンは普通の相手と、してはいけませんよ?」


シズクは妖艶に笑っている。その笑みを見ると、俺は心が嬉しくなる。


「えっと、どうして?

 別にそういうつもりはないんだけどね?」


言い訳する必要がないはずなのに、なぜか俺は言い訳をしていた。


「気が付いていないんですか?

 マイダーリンはかなりチートな身体能力を持っています。

 ついで言えば、生殖能力もです。サキュバス相手に完全勝利をするなんて、普通ではありません。

 普通の相手なら潰れてますよ?ついでに妊娠します。

 まぁ強過ぎる子供になりますから、余程の強さが無いと母体が先に壊れますけど。

 そういう理由で普通の相手とは行わないでください」


シズクは真剣な顔つきで俺に忠告をしている。確かに俺は担任やクラスメイトが貰うはずの力の大部分を吸収した。一部は大地様に献上したが、ほとんどは俺の体内に残っている。


チートといわれてもおかしくはないだろう。


「……そういえばシズクは大丈夫なのか?」


「妊娠ですか?それなら大丈夫です。

 サキュバスですので、やろうとすれば避妊は完璧にできます。

 必要でしたら、産むこともできますよ?

 私なら耐えられますので、ご安心ください」


俺は式神生命体として、一つの命となっている。そのため生殖能力を持っているのは知っているが、そこまで強力であるとは考えてもいなかった。


相手を選ぶ必要があるか。……シズクがいるからしばらくは問題ないかな。


俺が心の中で考えていると、心の中を読んだシズクが顔を真っ赤にしていた。


「さぁ、冒険者ギルドに行きますよ!」


シズクに腕を引かれて、俺は冒険者ギルドへと向かうことになった。



******



「無理でした」


冒険者ギルドの窓口で、猫獣人のアイシスが俺たちに頭を下げていた。


それを見てシズクは優しく微笑んでいる。


「アイシス。頭を上げてちょうだい。

 これはあなたの責任ではありません。

 どちらかというと、役場の仕事をしてこなかったマイダーリンの責任です」


シズクはアイシスに優しくしつつ、俺のことを責めていた。


「それで。念のために確認するけど、やっぱり役場の仕事してないから?」


シズクがアイシスに認められなかった原因を聞く。


「……それもあります。

 あとコウテツさんが冒険者の大量失踪について、関わっている疑いがあるからです。

 全てコウテツさんの企みではないかという疑いがあります」


アイシスは俺の顔を見ながら、ハッキリと告げた。まぁ大量失踪については犯人だけどね。特に企みはないけど。


「そういえばコウテツさんは髪の毛染められたのですね。

 似合っていますよ」


俺は黒い髪を褒められて、嬉しくなった。大地様と同じ黒い髪の色が褒められるのは嬉しい。


俺がご機嫌になっていると、横のシズクが釘を刺すように俺の脇腹を抓ってきた。


「なるほど。それでマイダーリンに対して、騎士団は動きそう?」


「それはないと思います。

 魔物の集落があるかもしれなません。そちらの対応が先です。

 ただ疑われていますので、行動には注意してください」


かなり困ったことになったな。騎士団程度なら恐らく俺だけで対処可能だろう。辺境都市すら俺だけで滅ぼすことくらいの力はある。


でもそういうことをしたいとは思わない。別に辺境都市と敵対したいわけではない。


どうしたらいいだろうか……。


「アイシス。ギルドの上の人と話し合いの場を設けてもらえるかしら?

 できればギルド長がいいんだけど」


「どういう御用件ですか?」


「もちろん冒険者の大量失踪について」


シズクはにっこりと笑っている。



******



冒険者ギルドの会議室の中で、俺はシズクとともに椅子に座っている。


目の前には猫獣人のアイシスとその上司である副ギルド長でエルフのウエンツがいた。


ウエンツは緑色の髪の毛で風属性の魔法が使えることがわかる。背は高く細身で、顔も整っていた。


ただその顔は今、思いっきり顰められていた。


「……それで冒険者の大量失踪についてについて話があるらしいね」


ウエンツが口を開く。思ったよりも低い声をしていた。


「ええ、そうです。

 単刀直入に申し上げます。マイダーリンは複数のクランから襲撃を受けました。

 そしてそれを撃退しました。自分の命を守るために仕方なくです。

 マイダーリンから仕掛けたことは一切ありません」


シズクはニコニコ笑いながら説明を行っている。


「それを信じろと?」


ウエンツは俺たちを疑わしい目で見ている。


「真実ですので」


シズクは笑顔で返す。


「クランの連中はそれなりの実力だし、人数もいた。

 どうやって一人で倒せたというのかね?」


「マイダーリンはとても強いんですよ」


何か空気がピリピリしていて、嫌な感じだ。


「彼が強い?クランを一人で潰せるほど?

 それを信じろと?」


「丁度よく森に魔物の集落ができていると聞いています。

 それを私たちが片付けることで、強さは証明できるのではありませんか?」


シズクはにっこりと笑った。なるほど。これが狙いか。


冒険者ギルドから集落の襲撃の依頼を受けること。それを狙っていたのか。


「私があなたたちを信用するとでも?」


「どうせ襲撃のために信用できる冒険者を準備しているのでしょう?

 その方々に私たちの見張りをさせればいいではありませんか」


「なるほど。それで手に入れた魔石はどうするつもりかな?」


「当然通常の値段で冒険者ギルドに販売しますよ?

 私たちは魔石を必要としてませんから」


ウエンツの片方の眉毛が上がった。


「つまりあなたの狙いは、集落の襲撃に加わりたいということですね?

 それで儲けたいと」


「何か問題でも?」


シズクは相変わらず笑顔で返している。


「こちらとしては君たちをこのまま騎士団に引き渡すこともできる」


「引き渡してどうするんです?

 奴らは色々問題のあった連中でしょう。それに貧民地区の問題です。

 騎士団がどれだけ真面目に対応してくれるでしょうか?

 どうせ適当な注意を受けるくらいで終わるでしょう。

 この程度のことは冒険者ギルド内で対応すべき話でしょう?」


シズクは全く笑顔を崩していない。それに対してウエンツは少し考えこんでいた。しばらく考えた後にウエンツは大きく息を吸い、大きく息を吐いた。


「分かりました」


どうやらシズクの企みがうまくいったようだ。


「集落への襲撃をあなた達二人に任せます。

 当然見張りは付けます。手に入れた魔石は全て提出するように。

 ただし買い取り額は通常の半額とします。

 これは罰を含んでいるので、それで引き受けてもらいます」


ウエンツは断言する。これ以上の譲歩を得ることは難しいだろうが、これで十分だろう。


「分かりました。

 ただし買い取り額の査定はアイシスに任せてもらいます。

 他の担当者は信用できませんので」


急な流れ弾が来たアイシスは、とても驚いていた。


「……いいだろう。

 アイシス。おかしな査定をすると、お前の評価に響くから注意しろよ。

 それから襲撃部隊は明日の日の出とともに門から出発する。

 時間厳守だ。遅れるなよ!」


ウエンツは席を立つと、会議室から出ていった。


「……まぁこんなところですね」


シズクは貼り付けていた笑顔を脱ぐと、表情筋を弛緩させた。


「こちらとしては今回の件で冒険者ギルドからの信用を得ることが目的です。

 そうすればこれからも色々仕事を回してもらえそうですしね」


「なんだ、目的は魔石の販売による金ではなかったのか?」


「それもあります。しかし一番の目的は冒険者ギルドへの信用回復です。

 この状況が続けば、いずれ冒険者ギルドから刺客が送られてくるようになります。

 私たちは撃退できますが、『アイシス』が殺されるのは少し可哀そうですしね」


「えっ?」


アイシスは固まった様子で、ゆっくりとシズクを見る。


「既にウエンツというか冒険者ギルドからシズクは私たちの仲間と、認識されていると思いますよ?」


「えっー!!」


アイシスが大声を上げた。


「当然でしょう?普段から買取の指名を受けているし私たちのために動いているし、どう考えても私たちの仲間でしょう?

 今さら逃げようとしても遅いですよ。私たちと一蓮托生です」


シズクはアイシスに微笑みかける。アイシスは言われたことを理解したのか、大きく肩を落とした。


こうして俺たちは魔物の集落の調査依頼に参加することとなった。


もちろん俺たちの手で壊滅させるつもりである。



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