第5話 冒険者クラン『金の亡者』と式神『土鼠』



魔石自体はそれなりの数もあったため、合計で金貨10枚で買い取ってもらえることとなった。


国によっても違うが、基本的な通貨は銅貨銀貨金貨となる。


銅貨100枚が銀貨1枚。銀貨100枚が金貨1枚になる。銅貨1枚がだいたい1円と同じと考えてよいだろう。


そのため魔石は10万円で売れたことになる。


貧民地区で1か月生活するなら、金貨10枚でギリギリ生活ができる。余裕が欲しいのなら金貨18枚くらいは必要だろう。


一般地区に住むなら1年で税金として金貨120枚が必要にある。ひと月金貨10枚だ。払えなくなれば、すぐに追い出される。


それが帝国という国である。


とりあえずの用事が終わったので、俺はギルド証である木の札をしまうと冒険者ギルドを後にする。


宿を探してもいいが俺は一般地区市民ではないため、この地区の宿に泊まることはできない。


この地区の宿に泊まれるのはひと月金貨10枚の納税を行った一般地区市民だけだ。俺はそれに当たらない。


さて俺の後ろを三人が後をつけていた。一人は女性。二人は男性の三人組だ。


冒険者ギルドにいたときから視線を感じていたから、こいつらも冒険者なのだと思う。目的は俺から金を奪うことだろう。


尾行を撒くことも難しいことでは……いや、無理だな。既に囲まれている。


三人組の仲間と思われるものたちが、前と左右から来て俺を取り囲んでいる。後ろは三人組が控えていた。


「やぁ、初めまして。警戒しないでくれ。

 私はこの町の冒険者クランの『金の亡者』の一員だ。

 君を私たちのクランに招待しようと思う。一緒に来てくれたまえ」


俺の両脇には屈強な男が俺の腕をつかんでいる。俺に拒否権はなく、胡散臭い男の案内で俺は連れ去られることになる。


ちなみに冒険者クランというのは、冒険者の集まりのことである。小規模なものをパーティ、大規模になるとクランと呼ばれている。パーティやクランの目的はそれぞれだが、このクランの目的はクラン名から想像に難しくない。


俺は貧民地区のとある空き倉庫へと連れてこられた。



******



「有り金を全て渡せ。

 そうすればお前もこのクランの一員にしてやる。

 食事も寝床も用意してやる。もちろん仕事も与えてやる。

 俺たちは仲間なのだから当然だろう」


胡散臭い男が気持ち悪い声で、理解不能な言葉を口にしていた。恐らく『洗脳』系統の力を使っているのだと思う。声の気持ち悪さはそれだろう。


俺は周りを見渡す。周りには10人くらいがいる。種族は獣人や人間などが、男女ともにいる。それにしても獣人は獣の要素が強い。もう少し人間に近い獣人もいてもいいと思う。


「もし断るのなら、非常に残念だが『教育』が必要になる。

 悪いことは体で覚えてもらわなくてはいけない。

 痛いことは嫌だろう?

 なら有り金全て差し出せ!」


胡散臭い男は『洗脳』が通じて異なことに気が付くと、声を荒げて俺を脅しにかかる。


……ああ、なるほど。こいつの姿は『幻術』の類か。どおりで胡散臭そうに見えるわけだ。正体は何だ?


「なるほど、狸獣人か」


俺の声に目の前の狸獣人は驚いた顔を見せる。俺が正体を見抜いたことがそんなに不思議なことなのだろうか?


「やれっ!!」


狸獣人の命令で周りの者たちが俺に襲い掛かる。正体を見抜ける俺を殺すことに決めたらしい。


俺は式神『鋼鉄』。鋼鉄の肉体を持つ式神だ。落ち着いてまずは全員を逃がさないように『結界』を張る。念のため音が漏れないように防音もつけておく。


その間に周りから俺に攻撃を加えられるが、そんなものは俺には通用しない。


やつらの体から洩れる魔力の量から、およその実力は予想が付く。そして予想通りやつらの攻撃は俺の鋼鉄の肉体を傷つけることはできなかった。


「何故だ?何故攻撃が通用しない!?

 無属性の魔力無しにどうして通用しない!?」


奴らの中の一人が叫ぶ。その声で俺がどうしてやつらに狙われたのかがわかる。


俺が冒険者登録に来た新人であることもあるだろう。それよりも俺が髪の色が白で無属性であることと、俺の体から魔力が漏れていないことが原因だろう。


体から洩れる魔力の量でその者の強さがわかる。漏れる魔力が多いことはその者が持っている魔力の量が多いということだ。魔力の量が多ければ強い。そして魔力が多いものは魅力的に映る。存在感が増し、周囲から好意的にみられる。


なら魔力を漏らしていない俺は魅力的ではないし、強そうにも見えないだろう。だから俺はカモと思われて、狙われたのだ。


俺が魔力を漏らさないのは目立たないようにするためだ、魔力を漏らすと魅力が増えて存在感が増す。簡単に言えば目立つことになる。俺は大地様の代わりを務めていた。大地様の代わりの俺が目立ちすぎるのは良くないと考えて、俺は魔力を漏らさないようにしていた。その癖で俺は今も魔力を漏らすことはしない。


しかし魔力を漏らさないことでこのようなやつらに狙われるのなら、これからは少し考えないといけないのかもしれない。


俺は適当に考え事をしながら、両手を適当に振り回す。俺の両手は普通に鈍器で、当たれば骨くらいは軽く折れる威力がある。


「……どうして、どうして」


狸獣人は現実を直視できていないが、仲間は冷静に判断して逃げようとしていた。だが結界に阻まれて逃げることはできない。


当然俺は逃がすつもりはないし、こういう輩を許すつもりもない。周りに目撃者はいないし、殲滅することにしよう。


俺は考え事をやめて、真面目に戦うこととした。



******



俺は目の前の光景に少し悩んでいた。


「どうやってこの死体を始末しよう……」


既に『金の亡者』は全員を始末している。結界は中に入る分には自由にできる。そのため戻ってきた仲間と思える者も、仲良く始末を終えている。


こいつらの知識も既に吸収を終えている。新鮮な死体なら知識を吸収できるから、頭が無事な個体からは知識をいただいていた。


「適当に殴って頭潰した奴もいるんだよな。

 情報収集が出来なくなるから次からは気を付けよう」


反省を行いつつ、現実を直視する。『金の亡者』は貧民地区のクランで、新規冒険者を獲物にして活動していた。有り金を奪った後は、奴隷契約を行い働かせていた。


この中にいる何人かは奴隷契約によって奴隷とされた冒険者である。様々な仕事をして、働いて搾取されてきた哀れな冒険者であった。


今は『色々な意味』で解放されている。


襲ってきた以上、反撃されるのは当然だろう。そこに当人の意志は関係ない。


さて話を戻そう。


「死体の始末をどうするかが問題だ」


一番簡単なのは俺が食べること。でも汚いし、美味しそうにも見えない。食欲が湧かないので遠慮したい。


このままにするのは問題だ。死体が残れば殺人であることがバレる。そうすれば俺が追われることになるかもしれない。こいつらが俺を連れ去ったのは、大勢が見ていて知っていることだ。誰も助けてくれなかったが、自分に利益がないのなら仕方のないことだろう。


こいつらの死体を残せば、いずれ俺が殺したことがバレる。この都市の官憲から追われるようになることは避けたい。


俺は頭を悩ましていると、ふと大切なことを思い出す。


「……俺は陰陽師だった」


俺は護符を生み出すと、そこに魔力を込める。


「式神召喚『土鼠』」


護符から土で出来たネズミが生まれる。体長が10センチ程度の小さなネズミだ。こいつらには役に立つ特徴があり、食べることで数をすぐに増やすことだ。


「食らいて増えよ『土鼠』」


このネズミは雑食で何でも食べる。奴らのいた痕跡を全て食らい、数を増やす。


うちで使っている陰陽道では五行相生という考えがあり、『土』は『金』を生む。簡単に言えば『土鼠』は俺の力を生む。


増えたネズミどもを一か所に集めて、まとめてから護符へと戻す。俺はその護符を手に取り、体へと吸収させる。


あまり気分のいいものではなかったが、『土鼠』に変換した後なら我慢して吸収できる。俺は全てを片付けて、空き倉庫を後にした。



******



その後いくつかのクランが貧民地区から消えた。


それを調べようとした者も、悉く姿を消した。俺はその犯人と睨まれているが、証拠がなく普通に生活している。消えたやつらも犯罪者まがいの奴らだったことも、俺が普通に生活できている要因だろう。あと貧民地区で誰かが消えたところで、誰も気にしていない。ここはそういうところである。


俺もこの町の騎士や市民から税を取り立てる『徴税官』には手を出していない。そういうやつらとは出会わないように、うまく逃げ回っている。こいつらに手を出すことは、領主に喧嘩を売ることと等しい。この町で生きていくためには、決して逆らってはいけない相手だ。


生活するうえで不便を感じるため、貧民地区の市民証は金貨1枚で購入している。この市民証があれば、門を自由に使うことができる。今日も堂々と門から外に出て、近くの森へ魔物を狩りに出かける。


この分だともうしばらく頑張れば、一般地区の市民証を買うこともできるようになるだろう。そうすれば、もう少し文明的な生活ができるようになるはずだ。


毎日のように起こる襲撃と撃退を繰り返す日々も、終わりを告げようとしていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る