第4話 帝国冒険者ギルド辺境都市オーランド支部と冒険者登録
俺は帝国へと続く街道を歩いていた。
森を切り開いた街道だが、森の中から時折魔物たちが俺を襲いに来る。
魔物とは体の中に魔石と呼ばれる魔力を秘めた石を持つ動物の総称である。そこから魔導王国が人工的に作り上げた人造魔物と、自然発生した天然魔物に分類される。
人造魔物の特徴は、魔物が人型であることだ。人をベースにして魔物を作ったため、人型の魔物は人造魔物になる。もちろん例外もある。
天然魔物は動物が何らかの原因で体内に魔石を手に入れたものだ。特徴は動物の姿をしていること。動物が突然変異したものと考えればいいだろう。
森の中から遅い来る魔物は天然物が多い。しかし総数でいえば同じくらいだ。
人造物は群れを成している。それもそれなりの数の群れで襲い来る。
より確実に獲物を殺すために人造魔物は群れで襲ってくる。
そのどちらも俺は撃退し、魔石を手に入れている。これは冒険者ギルドで売れば金になる。
それ以外の魔物の肉体は俺の胃の中に収めている。
人造物は味は良くないが栄養価は高い。天然物は味も栄養価も良い。
何日か歩いたところに壁に囲まれた帝国の辺境都市が見えてきた。
ようやくまともな生活ができそうだ。
******
俺は夜陰に乗じて、辺境都市に忍び込む。
わざわざ正面から門番がいるところに行くはずがない。面倒ごとが多過ぎる。
普通の人間なら辺境都市の壁を乗り越えることは不可能だろう。
しかし俺は普通の人間ではない。高性能の式神生命体である。この程度の壁をばれないように超えることなど、児戯に等しい。
辺境都市に忍び込んだ俺はまずスラムを目指す。当然『隠蔽』を使い、姿は隠している。
狙いは一人でいる人間。
目的はもちろん情報収集だ。指から針を出して直接脳と連結させて、情報を吸い出す予定である。
前に手に入れた王女と侍女の記憶は王国の情報である。帝国のものではない。なら帝国の情報も手に入れておいたほうがいい。
俺が使用する情報収集方法だと、情報提供者は提供後に廃人になる可能性が高い。なら廃人にしても問題のなさそうな人物で、狙いやすそうな人物を求めてスラムへとやってきた。
丁度いいところに老人が一人で倒れている。
情報提供はこの老人にお願いすることにしよう。
俺は辺りを警戒しつつ老人に近づくと、素早く手で口を押えて後ろから延髄へ針を突き刺す。
口を押えたのは声を出されないようにするためだ。多少暴れているが問題はない。
想定範囲だ。
俺は老人が暴れないように、老人の脳を操作して強制的に快楽物質を出させる。老人が悦楽に体を弛緩させた。
「うむ、成功だな」
俺は小さな声で呟いた。俺は老人から針を抜き去った。
情報は得ることができた。
後はこの老人の始末を考えなければならない。残念ながらこの老人は情報提供に耐えきれずに、他界してしまったようだ。しかし体中から体液を漏らした老人の顔には幸福そうな笑みが浮かんでいた。
……少し快楽を与え過ぎたのかもしれない。次からは気を付けよう。
さてこの老人の始末について、一番簡単なのは全て食らってしまうことだ。そうすれば全ての証拠は隠滅できる。俺の魔力も増える。いいこと尽くめだ。
しかし快楽により体液を体中から漏らした老人を見ると、食べる気が起こらない。
それにスラムにもこの老人の仲間がいるかもしれない。
なら死んでしまったことくらいは死体を残すことで、そいつらに知らせてもいいのではないか。俺はそう思う。
行方不明にさせて無駄に探させるようなことになるよりはましだろう。
俺はそう判断して、この場から立ち去ることとした。
******
俺は手に入れた情報より着ている服を変えることにする。俺の服は俺の体の一部であり、どのようにも変更可能である。
手に入れた情報から冒険者が来ているような長袖長ズボンの少し汚れた服へと変える。
髪の色も黒だと目立つため、白へと変える。
この世界の髪の色は魔法の使える属性によって決まる。
火属性を使えるなら髪の色は赤くなる。水属性なら青だ。
元々の黒は闇属性になる。少し珍しい属性のため、目立つので髪の色を変えた。
白は無属性である。『無』の属性ではなく、属性を持っていない意味の『無』である。
帝国の場合、一般人は圧倒的に髪の色が白い。
大地様と同じ髪の色を変えることは業腹だが、目立てば面倒ごとに巻き込まれる可能性が増える。仕方ないと割り切ろう。
顔立ちは少し珍しいかもしれないが、帝国では様々なところからの移民があるため気にするような者はいないだろう。
流石に俺は顔は変えたくない。大地様と同じ顔を変えるなんて、そんなことはしたくない。
俺は適当な路地裏で『隠蔽』を張り、一晩を過ごすことにする。
明日は適当に町の中を散策してから、冒険者ギルドで冒険者登録を行う予定だ。
ついでに道中手に入れた魔石も換金しておこう。
俺は路地裏で身動き一つせずに一晩を過ごした。
******
朝になり、町の中に人があふれるようになる。俺はそこに紛れ込むと、町の中を散策する。
一応昨日の情報収集の結果で、町の一通りのことは知っている。しかし知識として知っていることと、実際に見て知っていることは別物だ。
観光がてら、この町の中を見て回ることにしよう。
俺は石畳の上を歩いていく。軽く見たところ、文明はよくある中世ヨーロッパといったところだろう。魔法などもあるため、実際はもう少し文明が進んでいる可能性がある。それを確かめるためにも、俺は町並みを歩いていく。
この辺境都市は大きく分けて三つの地区からなる。中央の貴族地区。ここに領主とその配下が生活している。その外側の一般地区。一般人の多くがここで生活している。冒険者ギルドもこの地区にある。そして最後がもっとも外側にある貧民地区だ。
貴族地区にはこの都市の領主とその部下、それを守る騎士団と騎士団の家族たちが生活している。またある一定以上の税金を納めている者も、この地区に住まうことができる。簡単に言えば権力者が住んでいる地区だ。
一般地区は貴族地区に住まえるほどの税金は払っていないが、最低限の税金を払っている者が住むことができる地区だ。
貧民地区は税金が払えないものが住む地区である。スラムもあるが普通に生活している者たちもいる。金に困っている者たちが住む地区である。
納税額で住むことが分かれていて、中々面白い制度となっている。
ちなみに一般地区に入るのに検査はないが、貴族地区に入るには検査が必要になる。それは辺境都市に入る際に行われる検査と別に必要となるものだ。
そういうわけで俺は一般地区へ向かう。
一般地区は住宅地や商業地、工業地などからなる。正確な線引きはなく、多少混じっている部分もあるがそういうものだろう。
さて適当に見て回った後に、目的の冒険者ギルド支部に着く。ここで冒険者登録と魔石の換金を行うことが今日の目標だ。
冒険者ギルドの建物は周りと比べても、一回り大きく立派な建物に見えた。冒険者ギルド自体はそれなりに儲けているようだ。それは冒険者が儲かるかとは別の話だが。
冒険者ギルドの中に入ると、中にはそれなりの数の冒険者たちが存在していた。髪の色を見ると、大抵が魔法属性を1つ以上持っていることがわかる。
……いや、何人かは髪の色を染めているようだ。
髪の色を染めることで魔法属性を持っているように見せかけている人間も、それなりの数がいる。
冒険者という仕事柄、ハッタリを見せることが必要になる場合もあるのだろう。俺は受付に行き、用件を告げると番号札をもらい待つこととなる。
番号札は数字の数字ではなく線が引かれており、その本数が番号を現しているようだ。例えば3番なら、3本の線が引かれているという具合だ。
このことからこの世界の識字率は低いと思われる。王女や侍女は文字を知っていたが、昨日の老人は文字を理解していなかった。そういう意味では教育の水準が低いと考えて間違いないだろう。
そんなことを考えていると、俺の番号が呼ばれたので窓口に行く。そこにはそれなりに綺麗な格好をした犬の獣人がいた。
人間に犬の耳が生えたような獣人ではなく、犬が人間の体格になったような感じである。簡単に言えば犬の要素が強い。顔もほぼ犬である。体格から見て男性なのは分かるが、年齢は分からない。恐らく成人していると思うが、それ以上については不明だ。
「……ん?獣人を見るのは初めてか?」
俺が戸惑っている様子から、ギルド職員が声をかけてきた。声の感じからすると、そこそこ若いように思える。
「……ああ、色々あって王国から来たからな」
俺は手に入れていた知識から、適当な言い訳を告げた。
「そうか、なら仕方ないか。あそこは人間至上主義だからな」
ギルド職員である犬獣人の言葉からは、機嫌の悪さが感じられた。言い訳としては間違いではないが、ギルド職員の俺を見る目は冷たい。王国は獣人を差別している国だ。そこの出身と聞けば、気分が悪くなるのも理解できなくはない。
「それで?今日はどんな用件だ?」
「冒険者への登録と、道中で手に入れた魔石の換金をお願いします」
俺は苦笑しつつ、ギルド職員に丁寧にお願いした。俺はあらかじめ適当な袋に入れていた魔石をテーブルの上に取り出す。
「……そうか、少し待っていろ」
犬獣人のギルド職員は席を立つと、少ししてから猫獣人のギルド職員とともに戻ってくる。
猫獣人は体型から見て恐らく女性。こちらも猫の要素が強いため、年齢は推測できない。
「ギルドへの登録と魔石の換金ですね」
猫獣人が口を開く。声の感じからして、犬獣人よりも年上かな?
「私の方で魔石の査定をさせてもらいます。その間にギルドについての説明をお願いします」
猫獣人が前半は俺に、後半は犬獣人に声をかけた。
「ギルドへの登録だが、これがお前のギルド証になる」
そういって犬獣人が何も書かれていない木の札を俺に渡す。
「最初は全員これから始めることになる。ギルドでのお前の仕事は魔石を集めることだ。その実績がこの木の札に記載されていく。
ある程度の実績が溜まれば、正式にギルド登録が行えるようになる。
ギルド証は何度でも再発行が可能だが、その場合はそれまでの実績が消えるから気を付けるようにしろ」
俺は黙って木の札を受け取る。ここまでは俺の知識ある通りだ。
冒険者ギルドの役割は魔石を集めること。町の清掃などの雑務は冒険者ギルドとは別にある役場が人員の募集をしている。そちらはこの町の領主が管轄している。
冒険者ギルド自体は国の組織となる。名称自体は同じだが、国によって冒険者ギルドは別の組織となる。そのため正確にはこの冒険者ギルドは、帝国冒険者ギルド辺境都市オーランド支部となる。オーランドはこの都市の名前だ。
「……魔石の査定が終わりました。かなり腕が良いようですね。
王国ではかなり上位の冒険者だったのですか?」
猫獣人のその問いに俺は苦笑して誤魔化す。
「……話したくないのでしたら詮索はいたしません。
優秀な冒険者はギルドとして歓迎します。
申し遅れましたが、私は魔石買取担当のアイシスと申します」
「……窓口担当のイーギルだ」
猫獣人が名乗るのを見て、犬獣人も自分の名前を告げる。
「魔石の買取がありましたら、次からは私を指名していただくようにお願いします。
お客様のお名前をお伺いしてもよろしいですか?」
猫獣人がにっこりと笑う。
「……コウテツだ」
俺は自分の名前を猫獣人のギルド職員に告げた。
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