第3話 森からの脱出と腐った魂



異世界の森の中に俺は一人でいた。送り込まれたのは一人だけなのだから、当然といえば、当然だろう。


俺の姿は相変わらず『主』である大地様の姿である。変えることも考えたが、その必要性を感じなかった。それにこれが唯一残された大地様との繋がりである。


俺の肉体は身長が175センチくらい。見た目の体重は100キロくらいの、いわゆるデブだ。これは大地様の体形と同じである。


さて、俺の名前は『鋼鉄』だ。今の俺は名前の通り、体が金属でできている。そのため実際の体重は300キロを超える。魔法で少し誤魔化しているが、実際はそのくらいある。


髪の毛と瞳の色は黒。髪は短髪で、顔についてはノーコメント。大地様と同じ顔とだけ言っておこう。


服装は学生服。黒の学ランだ。といっても服は俺の体の一部からできていて、金属製。いつでも変更は可能である。変えるつもりは全くないが。


完全自立思考型の式神で、動力はいわゆる魔力と呼ばれる謎エネルギーだ。


魔力と呼ばれる謎エネルギーの性質は、どのようなものにも変換可能。そして消費しなければ変換したものから魔力への再変換が可能であるというものだ。


簡単に説明すると、魔力を炎に変えることができる。そしてその炎は魔力に戻すことができるということだ。


とくに後者の再変換についてはかなり高度な技術のため、知らないものも多い。


俺はこの魔力を食事『など』から作り出すことができる。


自分で魔力を生み出せるというのは、まさに生物といっても過言ではない。


そういう意味では俺は『式神生命体』と呼ばれてもおかしくない存在だ。


それだけ大地様が優秀だったといえるわけだ。


さて、そろそろ現実を直視しよう。


俺は森の中にいる。初めてくる森だ。道が分からない。というより、進むべき方向が分からない。


元々植物などに詳しいわけでもない。サバイバルの知識を持っているわけでもない。俺は進むべき方向が分からないでいた。


とりあえず木の枝を適当に拾って、倒れた方向へ進むことにした。



******



この森は鬱蒼とした陰鬱な森で、出口はどこにあるのか見当もつかない。


森の中の動物はどれもが攻撃的で、殺意が高めなのがいただけない。そんな動物たちを俺は確実に返り討ちにして殺していた。


動物立ちの特徴としては、見た目は地球の動物と似ているが大きさが一般的に大きい。それから魔法を使っている個体もいた。


燃え盛るイノシシや風纏うシカなどだ。


それから体の中に魔力を秘めた石のようなものがあった。いわゆる魔石というやつだろうか。地球では見たことのない存在だ。


とりあえず時空魔法を使い収納する。時空魔法は魔力の消費が多いから、一部の動物は胃袋の中へと入っていただき、魔力を生み出すための糧となってもらった。


「……そろそろ何か出てこないかな。動物以外で」


殺意高めの動物は間に合っております。


願いが通じたのか、馬車らしきものを発見した。


馬の姿はない。周りに人間らしきものも見えない。地面には血痕が残っており、この場で争いがあったことは確実だろう。


馬車は豪華なつくりをしていて、貴族等が乗っているような馬車であった。幸いなことに馬車が通る道があり、これで道に迷うことはないだろう。


馬車の中を見ると、二人の女性の死体がそこにはあった。服装から見て、一人は貴族または王族。もう一人は従者だろう。従者自体が下級貴族である可能性もあるが、ここでは考えることはやめておく。


さてどうしようか。


詳しく調べると、この二人は両方とも胸を一突きで殺されている。傷の深さなどから考えるに他殺である。それらしい武器も見当たらないから、恐らく他殺で間違いない。


致命傷となる一撃以外は特にその他の傷はなし。色々な意味で暴行を受けた形跡がないか確認したが、その形跡は全くなし。


貴金属などのアクセサリー等もそのまま残っていることから、物取りとも考えにくい。


断定はできないが、殺害のみが目的とみていいと思う。


他の遺体は見当たらず。恐らく森の動物の胃袋の中に仕舞われてしまったのだろう。鎧などの金属や、服などの布の一部が残されているだけだ。


それに対して馬車自体が扉を閉めることで、何かの結界を張り守っていたのだろう。馬車の中の二人の死体は綺麗なものだった。


ちなみに今も扉を閉めている。やはり結界が張られているようだ。馬車の扉が閉まることで発動するものと推測される。必要となる魔力は動物の体内にある魔石のようなものを、馬車の内部に組み込んでいるものと考えられる。


とにかく二人の死体に関してのみ、かなり綺麗な状態であることは確かだ。


そうなると俺には選択肢が出てくる。


この二人を蘇らせるかどうかだ。生命倫理については特に考えない。


二人の『魂』も結界に守られていて無事だ。特に蘇らせることに支障はない。


メリットは現地人の協力者を得ることができる。町などに入るときの助けになるだろう。また相手は貴族などで間違いない。それなりの金銭による報酬も期待できなくはない。


デメリットとしては確実に問題を抱えた人物と関わることになる。殺された状況から考えて、権力争いによるものと推察される。絶対に問題を抱えていると断言できる。


どうするべきか悩むな。


…………よし!蘇らせるのはやめておこう。わざわざ面倒ごとにかかわる必要はない。


この世界の常識などの情報は欲しいから、二人の『魂』から直接情報を抜き取ろう。


その際に魂が壊れて蘇らせることが不可能になるが、特に問題はないだろう。殺されているくらいだ。蘇って欲しいとは思われていないはずだ。


俺は右手から護符を生み出す。俺の体の一部を護符に変えたものだ。金属製のため丈夫で繰り返しの使用に耐えることができる優れものである。


俺は簡単に生み出すことができるけど。


俺は護符に魔力を流し、二つの魂に干渉する。すると二つの魂は細かく震えながら、砕けて俺の中へと吸収される。


思っていた通り馬車には王女と侍女が乗っていたようだ。殺された理由は不明。王女も侍女も自分が殺された理由については、全く心当たりがない。


本人たちが意識していないだけで、恨みを買っている可能性はある。詳しく調べればわかるかもしれないが、多分気分が悪くなるだけなので行わない。


馬車が通れる道を右に進めば、この王女たちの国である王国がある。逆に左に進めば、帝国と呼ばれる国がある。


俺は迷うことなく帝国へと足を向けた。だがその前に行わないといけないことがある。


俺はその場に蹲り、吸収した魂を吐き戻す。魂を吸収する際に俺は魂から『味』と『匂い』を感じることができる。


今回感じたのは両方とも、とてつもない不快感である。何と形容したらいいのか分からない。ただ俺は強い吐き気を催して、それを実行した。


俺は念入りに魂の欠片も残らないように、自分体内を浄化する。ついでに吐き出した魂だったものの欠片も、塵も残さないように焼き尽くした。


「……魂が腐っていたようだ。

 こんなやつらが存在した国になんて行ってたまるか!

 ゾンビでもここまで魂が腐ることなんてないぞ……」


逆にどんなことをしたらこんな魂が出来上がるのか興味はある。しかし碌なことにならないので、関わるつもりはない。


俺は馬車が通れる整備された街道を帝国に向けて歩き出す。


「これからどうしようかな……」


生まれてから俺の生きる意味は全て大地様のためだった。


俺はそのために生まれてきたし、そのために生きてきた。全て大地様のためのものであった。


しかし今の俺は大地様から捨てられた存在だ。生きる意味が消えた。かといって死にたいわけではない。


生きる意味がないことと死にたいことは別問題だ。イコールではない。


とりあえず人のいるほうに向かっているが、それは俺が森で生きていくことを望まないからに過ぎない。


俺は文明社会で生きてきた。今さら森の中で生きていこうとは思わない。能力的には可能であったとしてもだ。


ただ問題がある。俺は人間が嫌いだ。人間を信用していない。


そんな俺が人間が多くいる町でうまく生きていけるのか?


もしかしたら大地様のように俺が仕えるべき人間が、この世界にも存在するかもしれない。……いやそれはないか。


帝国にも王国と同様に魔物と呼ばれる魔石を持つ動物を倒すとお金がもらえる冒険者という職業と、その互助会である冒険者ギルドというものがあるらしい。


とりあえずはそこに所属してお金を稼ぎながら、今後については考えることにしよう。


帝国への道のりはまだまだ先が遠かった。



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