第2話 異世界に送られた経緯



突然ですが、式神『鋼鉄』である俺は異世界にいます。


誤解が無いように言っておきますが、担任とクラスメイトとはいません。


別行動です。というより、別の場所で別の時間軸です。


恐らく同じ世界だと思います。違う世界の可能性もないとは言いません。


それくらい別の場所にいます。


なぜ俺が異世界にいるのかは、全て『爺』のせいです。


それでは回想を始めます。



******



体が動くようになった大地様は、俺とともに『爺』の元へと向かった。


『爺』は同じ屋敷に内にいる、土御門家の当主になる。


詳しくは知らないが、紀元前から生きているらしい。分類が人間なのか分からない存在だ。見た目は人間ですよ?見た目はね。それも自由自在に変化することができるから、当てにはならないのですが。


現在の『爺』の戸籍上の名前は、大地様の祖父の誠一様の名前になっている。そのため戸籍上は『誠一』様となり、活動している。本物の誠一様は若くして仕事で亡くなっている。亡くなった後に『爺』が『誠一』様として活動している。


ちなみに本物の誠一様のお墓はきちんと整備されていた。何せ誠一様は『爺』の実の子供になるのだから当然のことだろう。


権力者と『爺』は仲好しだ。このくらいを誤魔化すことはいつも行っている。


『爺』は件の家から嫁を買っている。魔性の女性を作る家だ。一応は息子のために買っている。しかし息子の能力が一定以上ない場合は、『爺』の嫁になる。そして嫁が『爺』の子供を産む。こうしてこの一族は力を保ってきている。


大地様の戸籍上の父の血縁上の父は『爺』である。大地様の血縁上の父は『爺』である。


土御門家は『爺』の一族といっても過言ではないだろう。


まぁ今の説明を簡単に言うと、『爺』が息子に嫁を買ってくれるが、寝取って自分の子供を産ませている。それを何度も繰り返しているのがこの家であり、この一族だ。


ちなみに『爺』の子供に女性はいない。どういう理屈かは知らないが、存在したという記録がない。


『爺』が死んだらこの家はお終いだろう。死ぬことが考えられない存在だが。


「大地です。御当主、失礼します」


大地様が『爺』の部屋の前で、挨拶をして部屋に入る。御当主というのは『爺』を意味する。


俺も大地様の後に続いて入る。広い畳の部屋の中央に『爺』が座布団の上に正座している。


大地様がその前にある座布団に正座されたので、俺はその後ろで正座する。


俺には座布団はない。


『爺』の後ろには戸籍上の父が控えていた。術者としての実力が劣るため、雑務を取り仕切るのが戸籍上の父の仕事だ。


そんな戸籍上の父も座布団はない。


「……大地か。まずは回復おめでとうと言っておこう」


『爺』が口を開く。この場での発言権は術者としての実力があるもののみ。


つまり『爺』と大地様のみ。


「ありがとうございます」


大地様が『爺』に頭を下げる。


「さて、大地はずいぶん力を得たようだな。これなら次の子はお前の子でいいだろう」


驚いた。『爺』が大地様のことを認めるなんて。これでこの一族に『爺』以外の子供が生まれることになる。ずいぶんと久しぶりのことだろう。


よく見ると『爺』が微かに大地様へ微笑んでいた。一見するとわからないような、ほんのわずかなものだ。


「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」


再び大地様が頭を下げる。いい話だ。このまま終わればいいのだが、そうはいかないんだろうな。


「さて、大地の回復は素晴らしいが、大地の『式神』は失態だな」


『爺』の眼が俺へと向けられる。


「あの程度の魔法陣はすぐに破壊できないとは問題だ。『式神』よ、直答を許す。

 何か言い訳はあるか?」


『爺』は真っすぐに俺を見ていた。


「ありません」


正直に言えば、俺の能力不足だ。あの時の能力では干渉が精一杯だった。しかしこの場でそれを言っても仕方がない。何か言うべき言葉はない。


「そうか。まぁいい」


『爺』は俺を失望したような目で見ていた。『爺』は俺に何を期待しているのだろうか。


「ところで『式神』よ。貴様は生まれてどれくらいになる?」


「……一年くらいになります」


いきなりの質問に何故そんなことを聞いてくるのかと疑問が心によぎる。


大地様も質問の意味が分からず、困惑されているようだ。


「……そうか、なら防げなくても仕方ないか。ただ何も感想がないというのは、別の問題と思うが……。

 大地よ。おぬしは『式神』をこれからどうするつもりだ?」


相変わらず質問の意図が分からない。『爺』は何が言いたいのだろうか?


「……どう、とは?

 『鋼鉄』にはこれからも私のサポートをしてもらうつもりです」


その返事を聞き、『爺』は落胆したように大きくため息を吐く。


「……大地よ。おぬしは『式神』から力を得て、限界まで成長している。

 それでも『式神』のほうが力が強い。

 これくらいのことは分かっているな?」


「はい。確かにその通りです。

 しかし『鋼鉄』は私に逆らうことはできません」


俺は『主』である大地様に逆らうことができないように作られていた。


「ではおぬしが死んだあとはどうするつもりだ?」


『爺』何を言い出す?もしかして『気が付いている』のか?


「死んだあとは私の一族に仕えてもらうつもりです」


大地様は何を言っているのか疑問に思っているようだ。


でも俺にはわかる。『爺』の意図が。


「甘いの。今までの経験則で、長くても孫の代でおぬしの一族は滅ぶ。

 おぬしの力と才能はその程度のものだ」


『爺』は自分が認めなかった子供に、子供を作ることを許さない。


事実大地様は『爺』に封印されて男性機能が『不能』にされていた。今回認められたことで相手は制限されるが、『一時的に解禁』されるだろう。


大地様の父に至っては生まれてから一度たりとも封印を解かれたことはない。これからも解かれることはないだろう。


これは力の管理から必要なことだ。子供が増えれば、管理できない子供が出てくる。その中から急に突然変異で力を持った子供が生まれた場合、とても危険なことになる。


その子供が『爺』を害することはできないだろう。それでも『国単位』の災害を起こすことができる。


力は適切に管理されないといけない。それが『爺』の方針だ。


この一族に力なき子供は不要。少数精鋭で確実に管理する。力なきものは子を残すことを許さず。


力は代を重ねるごとに弱くなる。力ある血が薄くなるのだから当然だろう。


さてそうすると、早ければ大地様の子供は子供を作れない。遅くても大地様の孫は子供を作れないとそう『爺』は考えている。


大地様もそれに思い至ったようだ。


「……御当主はいずれ『鋼鉄』が自由になると考えておいでなのですね。

 しかしそれに何の問題が?」


「だからおぬしは甘いというのだ。

 『式神』よ。『正直に答えよ』。

 貴様は人間のことをどう考えている?」


『爺』は言葉に力を乗せて、嘘をつけなくして質問を行ってきた。


俺は隠すことができずに、正直に答える。


「滅ぼすべきと考えています」


クソっ。大地様に隠れて行おうとしていた計画が『爺』にバレているようだ。


「『鋼鉄』っ!?どうして?」


どうして?大地様はそんなことも分からないのだろうか?


「大地よ。おぬしも知っているはずだ。

 『式神』は1年前に生まれて、お前の代わりに学校に行っている」


大地様はまだ理解されていないようだ。


「そして『式神』は学校でずっと暴力を受けてきた。

 痛みは感じないかもしれないが、人間の汚さを見続けたのだ。

 人間から憎しみをぶつけられ続けたのだ。

 それも生まれてすぐに、生まれてからずっとだ。

 人間を憎んでいて当然だろう」


『爺』の言うことは正しい。何も間違っていない。


「先程の質問で召喚を止められなかったことに関して何も感じていない。

 担任やクラスメイトが召喚されたことに何も感じていないということだ。

 そして『式神』は今回のことで、誰も助けていない。

 助けるだけの力はあったにもかかわらずだ」


「助ける必要性を感じませんでしたので。

 それに私は彼らに何もしていませんよ」


俺は無表情に答える。どうしてあいつらを助ける必要があったのだろうか。


死なせなかっただけで十分だろう。


『爺』は語気を強めて、さらに質問を重ねる。


「担任の父の校長と祖父の理事長は殺したようだな」


「あれは担任が行方不明になったショックによる心臓発作です。

 二人とも『病死』ですよ」


俺は歪んだ笑みを顔に作る。うまく笑みを作ることができないな。なかなか難しい。


大丈夫だ。俺はバレないように行っている。このことで大地様が疑われることはない。


「……それで御当主は『鋼鉄』をどうするつもりですか」


大地様が辛そうな顔で、必死に声を絞り出す。


「大地よ。もうおぬしにはどうすることもできん。

 『式神』がおぬしの命令を聞いているのは、造物主たるおぬしへの好意によるものに過ぎない。

 命令しても不服があれば簡単に逆らうだろう」


「『鋼鉄』には絶対服従を刻み込んでいますっ!」


大地様はそういっているが、そんなものは既に解除している。このことについては『爺』が正しい。


「既に無効化されている。それくらいの力が『式神』にはある。

 かといって儂が戦うほどの存在でもない。

 儂が動くほうが被害が大きい」


この『爺』は力の規模が地球規模で、手加減ができないという困った存在だ。


前に砂丘を作った話をしたが、それも手加減の練習で起きた話である。


俺の力は強大でも、『爺』が動くことに比べるとちっぽけに過ぎない。


『爺』の目的は地球と人類の守護。そのためなら何でもする。


そのため程々の力を持った自分の子供を作り上げた。


過去に何度も失敗してきた『爺』だから甘さはない。


確実にこの世界から消されるだろう。


逃げ道は……ないな。既に結界が張られている。誰が?


大地様の戸籍上の父か!?……そうか、『爺』の力を直接使えば被害が大きい。


しかし戸籍上の父の介して使えば、その恐れはなくなる。……戸籍上の父の消耗を考えなければだ。


大地様の戸籍上の父を害するつもりはない。暴れるだけ無駄だ。


大人しくしよう。


目の前の『爺』が俺に沙汰を下す。


「『式神』よ。貴様をこの世界から追放する。

 大地よ。おぬしがこの『式神』を異世界へ送れ。

 決して戻ってこれるようにしてはならんぞ」


甘さが残っていたのか?どういうつもりだ?


「『式神』に力を与えたのは異世界だ。

 ならば責任は異世界に取らせればいい。

 それにこの世界が無事なら、儂はそれでいい」


どうやら思っていたより、『爺』は甘いようだ。最後にこの甘さに甘えさせてもらおう。



******



こうして俺は大地様に異世界に送られることとなった。


二度と戻れない旅路だ。


俺は最後に大地様のために、将来大地様の邪魔になる人間を数百人ほど殺しておいた。


これが俺からできる最後の孝行です。


このことは『爺』も黙認している。


人類から見れば誤差の範囲らしい。それに大地様のためなら、『爺』も甘くなるようだ。


そして俺は異世界に送られて、異世界の森の中にいた。



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