式神『鋼鉄』異世界記 ~担任とクラスメイトを犠牲にする異世界召喚~

金剛石

第1話 担任とクラスメイトを犠牲にする異世界召喚



俺はいつも通り、『いわれた通り』に高校に登校した。


『土御門大地』。高校三年生だ。


灰色に見える教室の中でゴミみたいなクラスメイトに囲まれて、俺は暴力を受けている。


一部の男子生徒が俺に暴力を振るう。他の生徒は見て見ぬ振りをする。


顔が良く運動もできて家柄も良い、外面のいい男の担任は俺の味方ではない。こいつこそが首謀者だ。


ホームルームという名の暴力の時間が終わり、俺は解放される。1時間目の授業が始まる前のわずかな時間、クラスの全員と担任が教室に揃っていた時にそれは起こった。



******



教室の中心が光始める。光る文字が教室の床から現れる。魔法陣だ。


これは召喚魔法か?見たことのない術式だ。


教室の中は窓も扉も閉められて、完全な密室になっていた。空いていたと思った窓も今は閉まっている。……魔法陣の影響だろうか?


教室の中は突然のことに、パニックになっていた。突然に光る文字が現れる床。扉や窓は開かず、外に出ることはできなくなっていた。クソどもが慌てるには十分な理由だ。


俺は光が強くなる床の文字を真剣に見ていた。


我が家で教わる陰陽道とは別の流派になるみたいで、魔法陣を読み解くのは中々に困難だ。


別の流派というか、完全な別物だな。陰陽道ではない。


しかし干渉することは難しくない。


召喚魔法の発動は止められないが、書き換えることは可能だ。


この魔法陣は異世界召喚、教室内の全員を異世界に召喚するものだ。


異世界に召喚する際に一人一人に特殊な力を授ける。いわゆるチートというやつだ。


その力の流れに干渉する。全体の約99%を俺に流れるようにする。残りの約1%は俺以外で頭割りだ。


全部もらっても良かったが、そうすると召喚された瞬間に俺以外が全員死んでしまうことになる。


何故死ぬのか?簡単だ。『別の世界だから』だ。


人間は地球で生きていいる。地球以外では生きられない。


月で生きるようにできていない。火星で生きるようにできていない。


それと同じように別の世界で生きるようにはできていない。


特殊な力にはそれを覆す力がある。少し分けておかないと、召喚された先で生きていくことはできなくなる。


俺が分けてあげた特殊な力で『異世界適応』と『異世界言語』くらいは獲得できるだろう。


あくまで生きていくための最低ラインの能力であり、持っていることに気付かないくらいのレベルのものである。


そうこうしているうちに床の光は、輝きを増していた。それとともに喧噪も増している。


『異世界召喚』『ハーレム』『勇者』『魔王』『魔法』等の色々な声が聞こえてくる。


ずいぶんと余裕がありそうだな。中には悲観しているものもいるようだが。


魔法陣への干渉も済んだことだし、流れに身を任せて召喚されるとしよう。



******



俺が召喚されたのは石畳の上だった。担任とクラスメイトをまとめたクソどもも同じ場所にいる。


石畳の上には魔法陣が描かれており、これを利用して俺とクソどもを召喚したようだ。


我が家の立場からこのような危険な魔法陣を野放しにするわけにはいかない。


俺は魔法陣にバレないように力を隠して干渉する。これでこの魔法陣は二度と発動することはないだろう。魔法陣の送還機能も壊れたが、全く問題はない。


俺はその気になれば自力で帰ることができる。


それにしても体に力が満ちていて気持ちがいい。ここまで気分がいいのは生まれて初めてのことかもしれない。


視界が色づいて見える。世界はこんなにも様々な色があったのか。


ようやく自分の体が思ったように自由に動かせるようになったことを感じる。


さてクソどもの方を見ると、外面のいい担任が召喚した責任者から話を聞いているようであった。今の俺は耳もよく聞こえる。


なるほど。


向こうの言い分は、魔王を倒してほしいとのことだ。


ちなみに担任の言い分は、そんなものは知らないからさっさと元の世界に戻せだ。


当然といえば当然だろう。


担任は家柄も良く金持ちで、祖父が私立学校の理事長で父が校長をしている。もちろん担任の勤める学校の話だ。


そんな担任に許嫁がいる。そこの家も特殊な家で、男の夢を詰め込んだような女性を育成し販売している家だ。


恐らく祖父に許嫁を買ってもらったのだろう。担任の祖父は孫である担任に甘いからな。


担任はまだ許嫁に触ることすら許されていない。せいぜい顔を合わせて会話したくらいだろう。頭金を払った程度ではそのくらいだ。


結婚して代金を払い終えない限り、手を出すことは許されない。あそこの家の女性はそういう『商品』だ。


それでも会話したくらいで担任は骨抜きにされている。担任のような素人相手にその程度のことができないようでは、売りにすら出されない。


まぁそういうわけで担任は早く結婚して、手を出したいわけだ。こんなところで魔王の討伐なんてする精神的な余裕はない。


あの『商品』は強い依存性があるからな。毎日顔を合わさないと担任が精神的に狂うんじゃないのかな。担任の祖父もあんな『危険物』を買い与えるなんてどうかしていると思う。


あれは耐性がないと依存し、中毒になる『危険物』だ。


担任はそういう意味では、既に手遅れになっている。


そういう理由もあり、話は平行線をたどっている。仕方ないね。


それにしても魔王か。どういうやつなんだろうか。少し調べてみるか。


俺はこの世界の記憶に接触する。我が家の陰陽道は特別で、星の記憶や世界の記憶に接触し情報を得ることができる。それもまぁ先程の特殊な力を得たからできるようになったのだが。術自体は知っていたが、発動するには力が足りなかった。


ちなみに我が家の『爺』はこのくらいのことは普通に行う。正直扱う力の規模が違い過ぎる。


『爺』と比べても意味がない。あれは別の分類だ。


それはさておき、サクサク調べよう。


…………なるほど、これが魔王か。


さて魔王というとどういうものを連想するだろうか?


魔族の王?異世界ファンタジーの定番といえば、これだろう。今の時代、魔王といえば魔族の王だ。もしくは悪魔や魔物の王というのもあるだろう。


しかし時代が変われば連想されるものを変化する。


ある時代で魔王といえば『織田信長』になる。もちろん織田信長は魔族ではない。


魔王と呼ばれるようなことをした人間だ。そのことには諸説あるみたいだからここではさておく。


つまり魔王とは必ずしも魔族の王ではない。


悪魔や魔物の王でもない。


そしてこの世界の魔王も魔族の王ではない。人間の王だ。


俺とクソどもを召喚したこの国と敵対している国の王が魔王と呼ばれている。


かなり腕のいい魔法使いみたいで、王が魔法使いだから、魔法使いの王で魔王のようだ。


どちらかというと腐っている国はこちらの方だ。


かなりの数の生贄を使って、異世界に俺を誘拐するような連中だ。腐っていて当然だろう。


今回の召喚に使った生贄の数は1000人くらい。かなり無理して調達してきたようだ。


この世界の記憶を見ているからその程度は分かる。


話し合いはまだ続いている。俺は周りに意識されないように『隠蔽』をずっと使っている。


見えなくなるわけではない。いることは分かる。ただ俺のことを意識できないだけだ。


さて、この国はもう限界だろう。生贄の調達のために色々なところの怒りを買った。


魔王がいる。それこそ『勇者』でもいない限りこの状況をひっくり返すことはできないだろう。


ならいいよね。滅んでしまう国なら少しくらい無理してもいいよね。


俺は自力で帰ることができる。でもかなりの力が必要になる。


でも俺には叶えたい願いがある、そのためにこの力が必要になる。無駄遣いは避けたい。


別のところから帰るための力を得る方法は『生贄』か『龍脈』のどちらかだ。それ以外の方法は思いつかないし、見つかるとも思えない。


人殺しはごめんだ。つまり生贄は使えない。


なら龍脈を使うことになる。龍脈とは大地に流れる命の力。


少しくらいなら問題ないが、大量に使うとその地域の命が枯れる。


前に『爺』が鳥取で龍脈を使ったときは、その地域に砂丘ができた。


それくらいの影響が出る。


『爺』としては軽く行ったらしいが、実際は大規模魔法に分類される。しかも今回は更に大きい規模で影響が出るだろう。俺も全力で行えば、それくらいは出来る。


この国は亡びる運命にある。なら砂漠になっても問題ないよね。


俺はまず誰も入れないように結界を張る。


それから自分が帰るための魔法陣を龍脈から力をできるだけ吸いだし発動させる。


余った龍脈の力は俺の中へと入れる。俺が大切に利用しよう。


魔法陣が光りだす。さすがに光り輝けば、『隠蔽』を使っていても周りが気付きだす。


それからの担任の行動は早かった。一瞬で俺の前に来ると、結界に阻まれて魔法陣の中には入れない。


結界を壊すために全力で結界を叩いていた。手からは血が出ている。恐らく骨も折れているだろう。それほど強く、何も考えずに叩いていた。


何か言っているが、結界の中に声は届かない。どうせうるさいだろうから届かないようにしておいた。


周りを見ると男女問わず担任と同じようなことをしているものがいる。クソどもが何を言っているかはわからないが、最後くらい一言残していこうと思った。


思い返せば酷いいじめの連続であった。


『土御門大地』は陰陽道の仕事の怪我で一年ほど入院しており、学校を留年していた。


俺は元の世界では自由に体を動かすことができず、動きが遅くすぐに躓いてこけたりしていた。


自由に体が動かないから、話すのも苦手でうまく表情を作ることもできなかった。


担任の許嫁は元々『土御門大地』の許嫁で、それを担任の祖父が奪ったものであった。


それを知る担任は許嫁が取り戻されるのを恐れて、俺に対して攻撃的であった。


クラスメイトは暴力を振るうための相手を探していた。


誰も俺の代わりになりたいとは思わなかった。


担任が俺を助けることを許さなかった。


誰も担任に逆らうことができなかった。


だから俺は暴力を受けた。いじめを受けた。でも最後くらいはきちんと挨拶をしようと思う。


結界の中からの音を外に伝わるようにする。相変わらず、外からの音は中に入れない。


それは聞くに堪えないだろう。


「……みなさん、私は元の世界へ戻ります。私だけ元の世界に帰ります。

 皆さんはこの世界に残ることになります。

 もう会うことはないと思います。さようなら」


俺は歪んだ笑顔をみせる。


……そういえば笑顔が気持ち悪いといわれていた気がするな。


もう、どうでもいいことだ



******



「ただいま帰りました」


俺はノックをして、自分の『主』の部屋へと入る。


そこにはベットに眠る本物の『土御門大地』がいた。当たり前だが寝ているだけで生きている。ただ今は体が自由に動かない。


陰陽道の仕事の怪我で1年入院したが、体は治らなかった。体が動かせなくなっていた。


だから『式神』である俺が『土御門大地』の代わりに学校に行っていた。


俺の姿は『主』である『土御門大地』と同じになっている。


俺が代わりにいじめられていた。それが一年ほどになる。


『土御門大地』が許嫁を奪われた理由もこれが原因だ。知っているのはこの家の中の人間だけだ。


外の人間は誰も知らない。


俺は異世界で奪った力を本物の『土御門大地』へと注ぐ。全てを注ぐ必要はない。それでも十分に体を治すことができる。


本当の『土御門大地』が目を覚ます。自由に動くようになった体で起き上がる。


「おはよう、『鋼鉄』」


陰陽道では『土』の力から『金』の力を生み出す。つまり大地様から生み出されたもの、俺の名前は『鋼鉄』だ


異世界に行って本当に良かったと思う。


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