sideシーラ
ナイトの大きな背中が人混みの中へ消えていった。
「多重人格かな。シーラにはあんなに優しく話せるのに僕の手は切り刻むらしいよ。」
ルーク様は面白かったみたいで少しだけ笑ってる。
「本気で言ってませんよ。」
ナイトは根は優しい人なんだから。
「どうかな。それよりシーラ、僕があげたお菓子は持ってきた?」
ルーク様にもらったお菓子、それはこの間ルーク様がナイトのお城にきた時のあのプレゼントのこと。
姿を消せる不思議な薬のことだ。
「はい、ちゃんと持ってきました。」
なくさないように胸のコルセットの所に挟んである。
「そっか、それなら少しは安心かな。
いざという時は分かってるね?」
ルーク様のいざと言う時って言うのは私の命やナイトの命が危うくなった時だろう。
「はい、分かってます。
それよりルーク様、私から離れていた方がいと思います。ルーク様まで変な噂が立ちますよ。」
今度は私が忠告する番。
いくらここが怖い場所だからと言って私を堂々と攻撃してくる人はいない。
正直一人でも大丈夫。
「シーラ、もしかして人がたくさんいるから安全だと思ってる?」
ルーク様は緩く口角を上げながら聞いてきた。
「はい、そう思ってます。」
違うの?
「むしろその逆。僕ならこの人混みを利用して、毒針でシーラを刺すと思うよ?」
紳士的な笑顔で恐ろしいことを言うルーク様。
「だからナイトは渋々許したんだよ。
人混みの中の一人ぼっち程危ういものはないからね。」
私たちが壁際でコソコソ話していると気になる事が聞こえてきた。
「レイジリアン公爵様はどちらへ行かれたのかしら?」
「まだ皇女様にご挨拶をしていないんですって?」
私とルーク様は互いに顔を見合わせた。
「ナイト、絶対に何かやらかすよ。」
「…はい、探しましょう。」
「ナイトへの弁明は頼んだよ?」
ルーク様はそう言って腕を差し出す。
どうやらエスコートしてくれるらしい。
「はい、ルーク様の手は私が守ります。」
私はルーク様のエスコートを快く受けた。
そうでもしないとこの恐ろしい会場をウロウロできないから。
もちろん、私とルーク様は注目の的となる。
と言うより、私への嫌悪がさらに強くなった。
英雄のナイト・レイジリアン公爵だけでは飽き足らず、もう一人の公爵様に手を出しているんだから。
何も知らない他人は、ナイトがいない隙に他の男を漁っている浅ましい女だと私を評価するだろう。
でも今はそんなことどうでもいい。
本当、死ぬ程どうでもいいわ。
私は早くナイトを見つけたい。
「シーラ。ナイトがここに来る前に何か言ってなかった?」
もう私だけじゃナイトを止められない。
ルーク様には本当のことを言おう。
「暗さ」
「分かった、もう言わないで。」
ナイトが何をしようとしていたか、ルーク様は最後まで言わなくてもちゃんとわかっていた。
この華やかなパーティーの中、私とルーク様だけが怯えている。
ナイトを1秒でも早く見つけないと。
誰かが死ぬその前に。
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