sideルーク
午後8時、月が王都を照らした。
城では着飾った男と女が嘘と虚栄で塗り固められた語らいを図り、互いを蹴落とす瞬間を虎視眈々と狙っている。
まさに貴族の集まりって感じだね。
この圧迫感、窒息しそうで嫌いだ。
そんな時、この舞踏会に招かれざる客が現れる。
「ちょっと、あれをご覧になって。」
「レイジリアン公爵様よ。」
「いつにも増して素敵だわ。」
「隣の女は…まさかあの人魚?」
「え?じゃあ噂は本当だったの?」
「皇女様が主役の舞踏会に人魚を連れてくるなんて…。」
「きっと魔物の力で操られているのよ。」
「恐ろしいわ…。」
今一番、注目されているナイトとシーラ。
もちろん、いい意味での注目じゃない。
まさかこんな毒蛇の巣にシーラを連れてくるなんて。
ナイトは一体何を考えてるの?
「ナイト。」
見かねて僕が話しかけるとナイトがこっちを向く。
シーラは深々と僕に礼をした。
「ナイト、正気なの?
僕の言ったこと忘れたのかな?」
前にちゃんと警告したよね?
人魚は今目の敵にされてるって。
シーラをわざわざこんな所へ連れてくるなんて。
シーラを殺してくれと言ってるようなものだ。
「お前が怒るなんて珍しいな。」
「怒ってないよ、むしろナイトの考えが理解できなさすぎて戸惑ってる。
シーラがここから無事に出られる確率の方が低いのに。」
「何をビビっているかは知らないが、俺の怒りを買いたい人間はいないだろ。」
それはそうだろう。
ナイトは極端な男だ。
許すか殺すかの二択しかない。
幼い頃からその冷酷さで腹黒くずる賢い貴族の大人を退けてきた。
だけどそれとこれとは話が違う。
ナイトはぶっ飛びすぎて話にならない。
「そうだね、とりあえず皇女様に挨拶してきなよ。もちろん、ナイト一人でね。
結婚を断った女性の前にお気に入りを連れて行くなんて論外だからね。」
「無理だな、シーラが一人になっちまう。」
「大丈夫だよ、僕が一緒にいるから。」
こんな危ないとこでシーラを一人にするわけがない。
「俺が連れてきたパートナーだ。
俺以外が隣にいるなんてありえないだろ。」
「そうかな?
ダンスの時間になればそんなの関係なくなるよ。今変わったところで何の問題もない。」
むしろ、ナイトがシーラのそばにずっといる方が大問題だよ。
ナイトが最初のダンスをシーラと踊ろうものなら皇女は怒り狂って何をするかわからないしね。
「安心しろ、俺はダンスの前に帰る。」
「シーラを守りたいのか殺したいのかどっちなの?」
「あ、あの!ナイト、様!
私は大丈夫ですから!
今日の主役は皇女様ですよ?
ここでおしゃべりを続けているのは失礼に当たるんじゃないですか?」
シーラが訴えかけるようにナイトに言った。
ナイトはシーラの表情を見て少しため息をつく。
「この状況が怖いのか?」
ナイトがシーラと僕にしか聞こえない声で聞いた。
シーラは小さく頷き小声で話す。
「皇女様に目をつけられたくないの。
私のためだと思って早く済ませてきて?ね?」
シーラが最後にとびきり可愛く笑うとこの国の英雄は顔を真っ赤に染めてそっぽを向いた。
「分かった、すぐに戻るからルークといるんだぞ。」
そんな優しい声なんか出せるんだ。
僕が関心しているとナイトは無表情になって僕の方を見る。
「話すだけだ、エスコートはなし。
シーラに触ったらお前の腕を切り刻んでやるからな。」
切り刻むってさ。
「はいはい、分かったから行っておいで。」
ナイトは最後にシーラを見ると名残惜しそうに人ごみの中へ消えて行った。
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