sideナイト
シーラが俺に背を向け眠りについた。
アイツが…あの男がいつまでも邪魔をする。
俺が死に物狂いでシーラを探していた時、シーラの側にいたあの人魚…。
アイツと会えないと分かるとシーラは俺と目を合わせなくなった。
恋人じゃないと言っていたが本当か?
本当は俺の元から逃げ出したくて堪らないんじゃないか?
今まで俺に調子を合わせて逃げ出す隙を伺っていたのだとしたら?
これは絶好の機会になるだろう。
シーラを海に連れて行けば今度こそ俺の元には戻らない。
もしもまた海に逃してしまったら…?
シーラのいない時間を思い出すだけで吐き気がする。
あんな地獄を味わうのは一度でいい。
このままだとシーラは俺の前から逃げ出すかもしれない。
恋人なんて繋がりじゃ生ぬるい、何があっても俺から離れられないようにするには結婚するしかない。
公的に俺の妻だと認められればシーラの命を狙う馬鹿はいなくなる。
そして、一番の利点はシーラが完璧に俺のものになると言うところだ。
どうにか法律を変えたい。
法律を変えなければ、俺とシーラはもちろん結婚なんてできない。
それどころかシーラは火炙りか断頭台に立たされる。
シーラは俺の妻だ!とどんなに大声で叫んでも民衆や貴族連中は俺がシーラに誑かされたんだと憐れむだけ。
そしてその憐れみは怒りとなってシーラに矛先を向ける。
人間の怒りを買った人魚は拷問された後悲惨な死を遂げるだろう。
法律を変えるのは国王しかできない事だ。
俺の権力を持ってしても無理な事で、国王に婚姻の法律変更について進言しようものなら怒りを買うだけで結局シーラは殺される。
で、俺を取り込みたい国王は喜んで皇女と結婚させるだろうな。
こんな最悪なストーリーは他にない。
シーラと夫婦になりたい、シーラを一生縛り付けられる証明が欲しい。
もうこうなったらやるしかないよな…?
俺はもう十分待った、嫌と言うほど我慢した。
やってやろうじゃねぇかよ。
この国始まって以来の…
「王家暗殺をな…。」
面倒だから今までやらなかったが、こんな国くらい簡単にひっくり返せる。
幸い、今の王はこの国の誰からも好かれちゃいない。
王直属の騎士達は各地で出現する魔物討伐には行かず城の中で警備と言い張り贅沢三昧。
民衆達からは多額の税を巻き上げ私腹を肥やしている奴らだ。
極め付けは魔物討伐に行かされるのは平民出身の騎士ばかり。
それで対処できなくなると俺やルークが派遣される。
不平不満は常にその騎士たちから聞いてきた。
この瞬間にも反乱が起こっていないのが不思議なくらいだ。
そんな嫌われ者の王族を俺が皆殺しにしたとしたら討伐に命をかけてきた騎士たちや民衆は大喜びするだろう。
堂々とアイツらの首を取りたいところではあるが俺がバサバサ切り捨てて死体の山を築けば他の貴族連中が黙っていない。
俺を倒す事は不可能だろうからそれを諦めて弱点のシーラを狙ってくるだろう。
そうなるとまた振り出しに戻る。
結局、シーラを危険に晒す事になるか。
くそ…何をどうやってもシーラに火の粉がいく。
「ナイト…。」
震える声で俺の名前を呼んだシーラ。
背を向けて眠っていたシーラは俺の方を向いて不安そうな目を向けていた。
「まだ朝まで長い。ゆっくり」
「暗殺って…言った?」
これは失敗したな。
俺の独り言が聞かれてしまったなんて。
「さぁ、なんのことだか分からないな。」
「と、とぼけないで!私ちゃんと聞いたよ!
絶対にダメ、皇族に何かしようなんて絶対に思わないで!」
その皇族のせいで俺は好きな女を妻にできない。
あの馬鹿どものせいで俺はシーラをいつ失ってもおかしくないんだ。
殺意が湧くのは仕方ないだろ?
「大丈夫だ、シーラ。」
「簡単に言わないで!相手は最高権力者なのよ?私はこんな無謀なことでナイトを失いたくないよ!」
シーラ、お前は本当に面白いことを言う女だ。
シーラが俺を失う?
そんな馬鹿みたいな話がどこに転がっているんだ?
「シーラが失うものなんて一つもない。」
何があっても俺だけは失わないだろ。
俺はどんな非人道的な事をしてでもシーラを縛りつけようとしているんだから。
「私はナイトがすごく大事なの。
お願いだから馬鹿みたいなことを考えるのはやめて?そもそもなんで暗殺なんて物騒なことを考えてるの?」
シーラはもう泣きそうな表情をしている。
その顔は正直見ていたい物ではないな。
シーラと二人で幸せに暮らしたい。
「シーラを妻にしたい。」
だから滅ぼそうと思ったんだ、くだらない皇族を。
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