sideシーラ

「ん………。」


朝の目覚めはいつもどこか痛かったり、腰が使い物にならなくなっていたり、寝不足だったり、色々な問題が発生しているのに今朝は違う。


気分も穏やかで体も特に何もない。


それに珍しく…


「………。」


ナイトが私の隣で眠っていた。

いつもは仕事でいないのに。

もしかして今日は休みなのかな?


幸せだな…。

今までこんな幸せな気分に包まれて朝を迎えたことがなかった。


だって、私はナイトに遊ばれているとおもっていたから。


「ふふ…。」


寝顔可愛い。

初めて会った時よりも大人びているけど面影があるからそう感じるのかな。


よし、今日はいつもより早起きできたしたまにはナイトよりも早く服を着ていよう。


スッと起き上がると…


「ひゃ!!」


何故か体がベッドへ引き戻された。

私の腕を引いた犯人なんてすぐにわかる。


「ナイト!」


この人しかいない。


「キスでもしてくれるかと思って寝たふりしてたのに、連れない女だな。昨夜はあんなに溶け合ったのに。」

「//////」


自分の顔が真っ赤になっていくのが分かった。 


「おはようのキスはなしか?」


ナイトは私の耳元で囁き私を抱きしめた。


「そ…そんな意地悪言う人にはしません!」


私がきっぱりと言うとナイトが私の肩に顎を置いた。


「さらには敬語か。

おはようのキスもなし、親しく話してもくれない。夜はあんなに俺にしがみついてたのになぁ?やっぱり体だけか。

あーあ、この歳になって遊ばれるなんて。」


はぁぁ!?


「あ、遊んでたのはナイトだけでしょ!

私はナイトとの事を遊びだなんて思った事ないのに!!」


私がムキになって言い返すとナイトは声を上げて笑った。


「あぁ、分かってる。

からかって悪かったな。」

「もう知りません!」


私がプリプリ怒ってナイトに背を向けるようにして隣に寝転んだら、この色気ムンムンの男は私の背中にキスをした。


「あーあ、嫌われちまった。

俺は遊びで可愛い人魚を囲っていたわけじゃないのに。」


遊びじゃないって…本当なのかな?


「ほ…本当?」

「んー?」


ナイトは私の背をなぞるようにキスをしていき、腰にまでキスしてきた。


「遊びじゃ…なかったって…/////」


本当なの?

最初から、私のこと好きだった?


「それは……いや、怒ってるから言いたくねぇな。また怒られて泣かされたら大変だ。」


「な…泣く?」


ドラゴンを倒す人が泣くなんてありえない。

そう思いバッと思い切り振り返ったら、ナイトはイタズラをした子供のような顔をして笑ってる。


本当に、どこまでも私をからかって!


「あー、怖い怖い。」


全然怖がってないよね!その顔!


「もう!!!」


一応両思いなんだから、好き、の一言くらいあったっていいじゃない。


コンコン。

私たちの楽しい会話の最中に部屋がノックされた。

これはかなり珍しい事だ。

私もナイトも何事かとドアの方を見る。


「どうした?」


ナイトがそう聞くと…


「皇女様からお手紙が来ております。」


メイドが淡々と要件を言った。


皇女様からの手紙…。

私の胸がチクリと痛む。

どうやら夢は一瞬で覚めてしまったみたい。

ナイトと唯一結婚できる女性から、ナイト宛に手紙が来た。


私の出番はいつまでだろう。


「あぁ、その辺に捨てとけ。」


………?????


「「え??」」


ドア越しのメイドと声が重なってしまう程、驚く返答だった。


「どうせ意味もなく王都に来いとかそんな内容だ。俺は王都に行く用がない。

用がないのにわざわざ何日もかけて行くなんて馬鹿げてるだろ。」


「あ…あの…、ナイト?

捨てるのはちょっとまずいんじゃない?

皇女様ってこの国一番の淑女でしょ?

槍が振っても行かなきゃいけないんじゃないかな?」


本当は行ってほしくないけど、国一の淑女の誘いを断るなんてそれはそれで大問題よ。


「別に大丈夫だろ。

そもそも引く程人が集まる。

俺一人いないくらいバレねぇよ。」


いやいやいや、あなた公爵様よ?


「バレるに決まってるでしょ!

これは行かなきゃ本当にマズいですって!」


「あ、敬語使ったから絶対に行かない。」


は!?え!!?


「子供みたいな事言ってないで早く返事を書いて!」


私が必死に言うとナイトは私にキスをしてきた。


「そんな無駄な時間過ごすより俺はシーラと一緒にいたい。」


ず……狡い…!

格好いい顔で言ってくる!狡い!狡いよ!


「そ、そんなのダメに」

「他の女の元へ行けなんてよく言えるな。やっぱり俺とは遊びか?」


え?え??

何でそうなるの!?


「遊びじゃないよ!でも」

「じゃあ行かなくていいな。この話はこれで終わりだ。俺は行かない。」


ナイトは信じられないことにここできっぱり話を終わらせてしまった。


衝撃的な答えを聞いてから既に3日が経った。

あれから舞踏会の話はしてない。

その話をすると私がナイトに本気じゃないと言い出すからだ。


「はぁ……。」


どうやってナイトを説得しよう。

そもそも、私がいけないのかな?

舞踏会に行ってほしくない自分も少なからずいるから。


「悩み事?」

「うん、悩みと言うかいろいろ…」


ん?

突然した声にバッと振り返った。

するとそこには…


「久しぶり、シーラ。」


この国のもう一人の公爵、ルーク様がいた。


何で?どうして??何で??どこから入ってきたの?

私が驚いているのなんて全く気にせずルーク様は部屋のソファに腰掛ける。


「ごめんね、びっくりだよね、こんな登場されたら。」


もちろん驚くよ、驚きすぎて悲鳴すら上げられなかった。

それより、今日はちゃんと服を着ていてよかったわ。


「はい…正直驚きました。

今ナイト、様は魔物討伐に行っているのでこのお城にはいません。」


「うん、知ってるよ。

今日僕は君に会いにきた。」


え?私に?


私に一体何の用があるの?

この人とは16歳の時のデビュタントでしか会った事ないのに。


「私に何のご用でしょうか。」


どうしても警戒してしまう。

そもそも不法侵入だし…。


「そんなに怖がらないで、本当に君には何もしないから。とりあえず、僕が頼みたいのはナイトの説得だよ。」


ナイトの…


「説得?」

「うん、説得。

ナイトの奴、まだ皇女様に返事出してないでしょ?

皇女様主催の舞踏会に返事を3日も出さないなんてこれはちょっと大問題でね。

それに、僕との約束も忘れているみたいだし。」


「ナイト様と何を約束されたんですか?」


私が聞くとルーク様はにっこり笑った。


「面倒事を引き受ける代わりに皇女様の舞踏会に出てくれるって言うもの。」


ナイトとルーク様の間でそんな約束をしていたなんてもちろん私は知らない。


「そうなんですね。

…分かりました、私から伝えておきます。」


私が了承するとルーク様は懐から赤い箱を取り出した。


「物分かりがいい子で助かったよ。

じゃあお邪魔しちゃったお礼にお菓子をどうぞ。一人分しかないから隠れて開けてね?」


ルーク様はパチンとウインクをした後、瞬間移動の魔法で跡形もなく消えてしまった。


隠れて開けてと言われるお菓子って一体何?

いきなり来ていきなり帰る客人は初めてだ。

まぁいいわ。

今は一人だし一応、何が入っているのか開けてみよう。


赤い小さな箱を開けてみると中には小さなガラスの小瓶が入っていた。


小瓶の下には一枚の紙が入っていて、その紙を手に取り読んでみると…


城の中に皇女が放った密偵がいる。

誰かは分からないから言動や行動に注意する事。

もしも命を狙われるようなことがあったら小瓶を使って。

少しの間、君の存在を消せる。

この事は他言無用で通してほしい。

ナイト、君、僕、みんなの立場が危うくなる。


海の天使に幸運を。


「………。」


紙を持つ手が少しだけ震えた。

ルーク様はお菓子を渡すフリをして私に向けた忠告をしてくれた。


このお城の中に皇女様の放った密偵が潜んでいるなんて。

こんな形とは言え、とんでもない秘密を知ってしまった。


この事は手紙に書いてあった通り誰にも言えない。

手紙と箱は読んだらすぐにふわふわと浮かび消えてしまった。

私の手に残ったのは小さな小瓶だけ。


姿を消せると言うすごく不思議な薬だ。


小瓶の中身は透明で、正直水が入っているようにしか見えない。

これは肌身離さず持っていた方がよさそうね。

さて、どうやってナイトに隠し通そう…。


いや、それより、皇女様の密偵か……。

ルーク様はだからこんな回りくどい事をしたのね。

危険を冒してまで私に忠告してくれるなんて物凄く親切な人だ。


皇女様からしたら私が邪魔で仕方ないよね。

私とナイトの関係が事細かく伝わったらきっと私は消される。


ついに国の最大権力者から目をつけられてしまった。

まさかこのお城に皇女様の密偵がいるなんて誰が想像する?

どうしよう…せめて密偵が誰かわかればいいんだけど。

密偵を私一人で見つけ出すなんて絶対に無理。


かと言ってナイトに言ったら大事になるし、もし密偵を見つけられたとしてもその密偵の首は飛んでしまうだろうから、王家と揉めるのは間違いない。


考えるのよ、シーラ。

どうやっても一人で密偵を探し出さなくちゃいけない。


まず手始めにどこから探す?

いや、それよりも密偵が男か女かで絞らないと。

もしも私が皇女なら密偵は女を選ぶと思う。

女にした方が目標わたしに近づいやすいから。 


メイドとして紛れ込ませれば、掃除を理由に部屋の中まで知る事ができる。

このお城には圧倒的にメイドが多い。


そうなればやっぱりメイドに的を絞った方が賢いかもしれない。


メイドの事を聞くならメイド長がいいけど、ミザリーは今地下牢に投獄されている。


ミザリーなら全てのメイドを把握しているはずだから一番手っ取り早いよね。

ただ、問題はどうやって聞き出すか。


皇女の密偵が紛れ込んでいると正直に言えば、ミザリーの性格上、皇女側に寝返りそうだし…。


うーん……。

あ…!!!!


ちょっと待って!閃いちゃったかも!!

この作戦ならナイトにも知られず、ミザリーから情報を引き出すことができる。

そうとなれば今夜から作戦開始よ!

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