sideシーラ

「はぁ…はぁ…はぁ…」


さすがに疲れてきた…この剣、本当に重い。

私がナイト様の部屋で大暴れしている間に部屋には3人の若い執事が集まってしまった。

これはかなりまずい。


3人に取り囲まれて一気に攻められたら終わる。

とにかく近寄らせないようにプルプルと震える腕で剣を構えた。


「もういいだろ、殺そう!」


一人の執事が物騒なことを口にした。


「殺したら俺たちの弁明の余地がなくなる、半殺しにするぞ。」


二人目の執事はかなり最悪なことを提案している。


「お前は甘いんだよ!

コイツが俺たちを殺そうとしているのは明白だ、武器も持ってるしな!

正当防衛だから公爵様も許してくださる。」


三人目の執事は私を殺すことに賛成らしい。

私を殺すに二票、生かすに一票。

多数決で私の死が確定した。


殺されたくない、怖い、逃げたい…!

いろいろな感情が一つの体を飛び交っていく。

でも逃げ場なんてない。


このお城から一歩でも出たら私は歩けない。

動けなくなった私なんか簡単に殺される。

きっとすぐに首を落とされてしまうわ。


だからと言ってここにいても結果は同じ。

これはもう時間の問題だ。


完全に手詰まりよ。

結局、私もママと同じ運命を辿るらしい。

このままきっと嬲り殺しにされる。

親子揃って本当に間抜けよね。


もういい、どうにでもなれ!!


「あんた達なんて大っ嫌い!!!」


私の恨みの籠った声に魔力が乗って3人の耳を攻撃する。


「ゔっ!!」

「こいつ!」

「くそっ…!殺せ!!」


3人の男達が私に向けて手のひらを向ける。

どうやら魔法を使うらしい。

防御魔法なんて高度な魔法は使えない。


ここで本当の終わりだ。


殺された後、私の死体をナイト様に見せるだろうから最期くらい穏やかな顔でいたい。

怖い、まともに立っていられないくらい死が怖い。


きっとすごく痛くて苦しいんだ。

怖くて泣き出しそう。

いずれは訪れると知っているのに本当に怖い。

でも、もう受け入れるしかない。


そもそもここは、このお城は私のいていい世界じゃなかったのよ。


ママ、待ってて。すぐに行くわ。

目を閉じた瞬間…


ヒッ…」

「え」

「あ…。」


男達の間抜けな声が聞こえた。


ボトッ、ボトッ、ボトッ…。


何か重たい音がしたかと思えばプシューッとが噴き出す音も聞こえる。


その何かが私の体にかかり纏わり付いた瞬間、本能的に目を開けてはいけないと感じた。

恐怖で硬直していると大きな手が私の目元を優しく拭う。


何も理解できず呆然と立っていたら…


「あーあ、俺の人魚が汚れちまった。」


低く単調に呟かれたその言葉にほんの少しだけ安堵した。


「怪我は?」


ナイト様が私に優しく聞いた。

目も開けられず一歩も動けない私は何度か首を横に振り涙を流す。


安堵と恐怖が入り混じった涙だ。


「そうか、それならいい。

とりあえず風呂に入るか。」


声が出なかった。

この感覚になるのは何年ぶりだろう。

何にしても、私のせいでまた三人死んだ。


ナイト様に抱き上げられて、その胸に寄り添った。それでもまだ目を開ける事はできない。


ナイト様は甲冑を着ているせいか冷たく硬い。


「誰でもいい、片付けておけ。」


使用人の誰かに言ったであろう言葉も同じように冷たかった。


「…は…はぃっ…!!」


返事の声的にいつも部屋の前で待機しているメイドだ。この時だけは彼女のことを気の毒だと思った。


「シーラ、いつまで目を閉じてるんだ?」


ナイト様に言われてそっと目を開けた。


「っ……。」


ナイト様の顔には返り血がこびり付いている。

私はそれを見てさっきよりも強いショックを感じた。


「ナイト様…また私のために…。」


人を殺してしまいましたね。

今回は自らの手で、一瞬で。


「あぁ、シーラに手を出す奴は殺すって決めてるからな。あの三人が全て悪い、シーラは何も気にするな。」


血みどろで私を抱いて歩くナイト様。

それを見て気を失いそうな通りすがりのメイドや執事。


こんな事ばかりしていたらナイト様は一人になってしまう。

誰からも愛されなくなってしまうわ。


「あの………ナイト様」

「公爵様!!!」


私の言葉に被せるようにメイド長ミザリーの甲高い声が聞こえた。 


ミザリーはこっちに向かって勢いよく歩いてくる。

私がさっき殴った顔と割れた眼鏡が何とも痛ましい。


「公爵様!!その女は裏切り者です!!」


ミザリーは怒りのあまり興奮しきっていた。


「言葉に気をつけろ、お前も首を刎ねられたいか?」


ナイト様の言葉に怯まないのは私がルーンと繋がっていた場面を目撃したからだ。


「いえ、首を刎ねらるのは私ではなくその女です。その女は他の男とバスルームで密通していました!」


「何?」


ミザリーの発言を聞いてナイト様の首筋に筋が入る。


「人魚の姿になり、コソコソとお湯の中で他の男と話しておりました。」


ミザリーは言いたくて言いたくてたまらなかったんでょうね。

言ってやった、スッキリした、そんな顔をしてる。

こうなる事はちゃんと分かってた。


もう逃げも隠れもしない。

実際、ルーンと話していたのは本当のことだから。

ナイト様、私に何をするかな。


ミザリーの言う通り首を刎ねられるかも。

私の命は常にナイト様の手の中ね。


「そうか、続きはシーラに聞く。

誰でもいい、ミザリーを地下牢にぶち込んでおけ。」


ナイト様はこの場で私を問い詰める事はなく、どうしてかミザリーを地下牢へ入れると言い出した。


「何故!何故ですか!公爵様!

その女は危険です!事実を隠蔽しようと私を殺そうとしたんですよ!?」


さらに興奮したミザリー。

そんなに興奮して頭の血管が切れなければいいんだけど。  


「前にシーラへの無礼は許さないと忠告しただろ。今すぐに殺さないだけありがたいと思え。」

「そんな…!公爵様!お待ちください!公爵様!」


ナイト様はミザリーを完全に無視して再び歩き始めた。ナイト様はそれから何も聞かない。


まさかこのまま許してくれるの?

そんな甘い考えはバスルームに行って打ち消される事になる。


バスルームに入り扉を閉めたら勝手に鍵がかかった。


その後は…


「きゃっ!!」

バシャン!!!!


さっきまで私が入っていたお風呂に私を乱暴に落としたナイト様。


綺麗なお湯が返り血で汚れていく。

私が落とされた時に飛び立ったお湯がナイト様の顔にかかり、固まっていた血が再び溶け始めた。


「で?お前はなんて言い訳をするつもりだ、シーラ。」


バン!!と私の頭の真横につけられたナイト様の手。


その手に筋が入っているのを見るに相当怒っている。


「まさかあの元恋人じゃないだろうな?」


ナイト様に凄まれた私は恐怖で固まり何も言えなくなってしまった。


「もしそうなら…あの男には消えてもらうしか道はない。」


怖いからって固まってたらダメ!

何か言わないと、何か、何でもいい!!


「あ……あの……私……その……。」


怖い……ナイト様、本当に怖い。


「恋人じゃ……ない、の。」


ナイト様が怖くて何を言っているか正直分かっていない。


「ルーンとは恋人じゃない…私……恋人なんていた事、なくて……。」


私はこの期に及んで何を言っているんだろう。


「だから……ナイトが心配するような事はなくて…やましいこともない…」


怖くて素が出た。

ナイト様の事をナイトと呼んでしまった。


私は混乱してる。

ただの遊びの女にどうしてここまで怒りをぶつけるんだろう。

ナイト様は私をどうしたいの、って。


ナイト様の顔が怖い顔から、安堵した顔に変わっていく。


「……恋人じゃなかったのか?」


毒気が抜けたように聞くナイト様。

私はおずおずと頷いた。


「ルーンはたった一人の友達です。」 


ナイト様、どうしてそんなに安心した顔するの?何で?どうして?

私を恋人にはしてくれないくせにそんな嬉しそうな顔するなんて。

狡いよ、そんなの。


でも、正直嬉しい。

嫉妬されて本当に嬉しいよ。

思わず、ナイト様にキスをした。

今だけは酔わせて。


私があなたを虜にする最高の女なんだって。


私のキスで始まる二人の時間。

ナイト様は甲冑を脱ぎ捨てて浴槽に入る。


「ンッ…んむっ…ンッ/////」


私を膝に乗せて腰に手を回し、息が出来ないほど熱いキスに襲われた。


「ナイト様…///」


唇のキスが終わり、首筋にキスをされる。

ナイト様は自分のシャツのボタンを外すのが面倒だったらしく半ば引き裂くようにシャツを破り捨てた。


私のキスで始まる二人の時間。

ナイト様は甲冑を脱ぎ捨てて浴槽に入る。


「ンッ…んむっ…ンッ/////」


私を膝に乗せて腰に手を回し、息が出来ないほど熱いキスに襲われた。


「ナイト様…///」


唇のキスが終わり、首筋にキスをされる。

ナイト様は自分のシャツのボタンを外すのが面倒だったらしく半ば引き裂くようにシャツを破り捨てた。


私のキスで始まる二人の時間。

ナイト様は甲冑を脱ぎ捨てて浴槽に入る。


「ンッ…んむっ…ンッ/////」


私を膝に乗せて腰に手を回し、息が出来ないほど熱いキスに襲われた。


「ナイト様…///」


唇のキスが終わり、首筋にキスをされる。

ナイト様は自分のシャツのボタンを外すのが面倒だったらしく半ば引き裂くようにシャツを破り捨てた。


「今すぐに抱きたいがこんな血塗れじゃ嫌だよな?」


ナイト様が何をするのか知らないけど何か企んでいるのは明白。

何をするのか聞く前に私とナイト様の頭から雨が降り注ぐ。

不思議に思い上を見たら雨雲が天井を覆っていた。


「どうしてこんなとこに雲が…。」


ナイト様は魔法で何でも作り出せるのね。


私が上ばかり見ていたらナイト様が私の喉元にキスをする。

雨は激しくなり私たちに付いていた血はほとんど洗い流された。


それを見てナイト様が私の足を開かせた状態で私を抱き上げる。

そのまま浴槽を出て、私の背を壁に押し付けると…


「ひゃっ…あぁっ//////」


一気に中に入って来た。



「ん゛…っぅ…//////」


いきなりの刺激で視界がチカチカ揺らぐ。


「ほら、力抜けって。」


耳元で囁かれた低い声にゾクゾクした瞬間、ナイト様がさらに奥に入り込んできた。


「あ゛っ/////」


このまま動かれたら壊れる。

そう思った私はナイト様の腰に足を絡み付かせた。


「あぁ、その方がいい。

しっかり捕まってくれていた方がありがたい。」


「え…///?」



惚けた私を揶揄うようにナイト様が腰を動かした。


「あぁっ/////やだ///待って…/////」


ナイト様は腰を動かしながら私の唇の端にキスをした。


「ナイト様ぁ/////激しい…/////」


ナイト様は私の中を容赦なく突き上げて気持ちよさそう。


「シーラ……、はっ……シーラ…。」


名前を呼ばれる度に愛されていると勘違いしそう。

麻痺するような快感と荒い息遣い。

こんなにも体を密着させて快楽を貪るのに私たちは赤の他人。


それでもこの人と繋がれて心の底から嬉しい。


「待って…まって//////

ナイトっ/////だめっ…////」

「っ…シーラ、ずっとそう呼んでくれ。頼むから。」


切なそうな声も私の胸をキュンとさせる。


「ナイトっ////あぁっあっ/////」


誰よりも私の中を知り尽くしているナイト様はすぐに私を絶頂させた。

それと同時にお腹の中が熱くなる。


「はぁ…はぁ……。」


よかった、ナイト様もちゃんと気持ちよくなったんだ。

脱力した私たちはしばらく抱き合って互いの熱を感じていた。


ほんの一瞬の休憩と熱の混ざる戯れを繰り返した。

部屋に戻る頃には朝日が登っていて、さっきまでとんでもないことになっていた部屋も何事もなかったかのように片付いてる。


てっきり、部屋のベッドで眠りにつくのかと思っていたけどバスローブを脱がされた瞬間、まだまだ眠れないと悟った。


「ナイト様、もう」

「様はいらん、呼べるようになるまで抱き潰す。」


抱き潰すってそんな…!


「あぁっ/////」


もう限界、早く眠りたいよ…!


「ん……。」


目を覚ましたことによって、自分が気を失っていた事を知る。

まだナイト様が私の中にいる感覚が抜けない。

散々気持ちよくさせられたのにまだ欲しがっているみたいで嫌だな。


「随分と長く寝てたな、眠り姫かと思ったぞ。」


声をかけられて腕枕されていた事に気付いた。


「ナイト…さ」


ナイト様が私の口を優しく塞いだ。

ナイトと呼べと言う事だ。

本当にいいのかな…そんな呼び方して。

私は話を続けるためにナイト様の手を退けた。


「ナイト様がダメなら、ナイトさんはどうです?」

「ナイトでいいだろ。この話し合いは何年続くんだ?」


確かに何年もこの話をしてる。

私もナイト様も折れないから結局ここまで引きずってしまった。


「なぁ、こうしないか。

そんなに周りの目が気になるなら二人きりの時に呼び捨てにすればいい。」

「……。」


かなりいいとこを突いてくる。

二人きりの時だけの呼び捨て、か。


「あ…あの…それだと特別な感じがしますけどいいんですか?」


「……質問の意味がわからない。」


ナイトさまは分からない事はハッキリと言う。

ウジウジした私とは大違いだ。

 

「だから…その……なんか特別な感じがしませんか?私がそんな待遇を受けていいのか本当にわからなくて…。ほら、私って一応は魔物でしょ?」

「魔物?…ハハハ!」


え?何??今笑うとこあった???


「そりゃ、とんでもなく可愛い魔物だな。

フォークで倒せるようなへなちょこは魔物なんて呼ばねぇよ。」


フォークで倒す!?私を!?


「な、何ですか!私それなりに強いんですから!!っ…!」


軽くナイトの胸板をパチッと叩いた手のひらにヒリヒリした痛みが走る。

そうだ、あの剣を握ったから掌が大変な事になってるんだった。


「ん?」


ナイトが私の様子に気付いて私の手を取り掌を見た。

これが私が魔物だと言う何よりの証拠。

人間のナイトはこんな無様な事にはならないのだから。 


「全く、お前が対魔物用の剣を持っていた時は心臓が止まるかと思ったぞ。」

「そんなに危ないんですか?」


私は何の気無しに握ってしまったけど本当に危険な物なんだろうか。

まぁ、手は大火傷してるから安全なものとは言えないけど。


「あれに触れるだけで消える魔物もいる。」


その言葉を聞いてサーッと血の気が引いて行った。


「な?だから気を付けろ。

お前が消えたら生きていけない。」


そんな事を言われるとは思っていなかった。

生きていけない、か。

愛してるとは言ってくれないのね。

これは本当に分かりやすい依存だ。

依存であり情、よね。


「そんな事ありませんよ。

ナイトはいずれ結婚するでしょう?

そうなると子供も生まれて賑やかになってあっと言う間に私がいらなくなる。寂しさなんて感じないはずです。」


きっと、取り残された私だけが寂しくてナイトの妻を妬む。そんな未来がハッキリと見えていた。


「結婚してお前を失うなら妻も子供もいらない。」


酷い人だ。

本当に私の欲しい言葉ばかりをくれるんだから。


「嘘ばっかり…。」

「嘘じゃない。」


あなたは私のものにはならない。

それはもう神様が定めた事よ。


「なぁ、シーラ。俺の歳はいくつか分かるか?」


え?いきなり歳の質問するの?


「……28。」


だったよね?間違ってないよね?


「あぁ、大正解。

今まで結婚の話なんて数え切れない程持ちかけられたし全部蹴って来た。

結婚だけがしたいならとうの昔にその辺のいいのを見繕って結婚してる。

俺がここまで独身貫いてるのは馬鹿げた法律のせいだ。」


え???何??法律??

私は訳が分からずナイトの話を聞いていた。


「あのクソみたいな法律さえなけりゃ俺だってこんな面倒な真似はしてないし、すぐに結婚してガチガチに縛る予定だった。」


もう全くついて行けないんだけど。

ナイトは一人で何の話をしてるの??


「あの…ちょっと話の趣旨が分からないんだけど…。」


私が自信なさげに言うとナイトが私の額にキスをした。


「へぇ、そうか。

じゃあ明日は一階の図書室に行って法律のお勉強をして来い。俺の気持ちが本当によく分かるだろうからな。」


え??え???

法律の勉強??どうして???


「ちゃんと答えを聞かせてくれよ?

楽しみに待ってるからな。」


「????」


ナイトはそれだけ言うとすぐに寝てしまい私は次の日になるまでずっと悶々していた。

だって意味がわからない。


どうして法律の勉強をする事になったのか、訳の分からない理屈を捏ねられてどうして素直に従って今現在図書室にいるのか。


そう、私は今図書室にいる。

ナイトに勉強しろと言われたらしますよ、そりゃ。

結婚の話からの法律の話になったよね?

と言う事は結婚に関する法律を勉強すればいいの?

まぁ、そうだと仮定して一応読んでみよう。


婚姻に関する法律は何個かあった。

難しい言葉で書いてあったけど噛み砕いて言えば…


・本人たちの了承があれば結婚は可能。

・13歳未満の男女は結婚できない。

・地位の高い男は何人妻を持ってもいい、逆は厳禁。

・魔物と人間の結婚は問答無用で禁止、破った場合は人間は終身刑で魔物は処刑される。


と言ったところだ。


この法律で私が気になったのは一つだけ。

魔物と人間の婚姻は認められていない。

そこで昨日のナイトの言葉を思い出した。


あのクソみたいな法律さえなけりゃ俺だってこんな面倒な真似はしてないし、すぐに結婚してガチガチに縛る予定だった。


「//////////」


もしも、その言葉の意味が私との結婚を意味していたとしたら?

ナイトはまさか、私と結婚しようとしていたってこと??


勘違いだったらかなり恥ずかしい。

でも…でも…でも…/////

私が分厚い本を持って浮かれていると…


「お勉強は進んでるか?」


後ろからナイトに抱きしめられた。


「え!?」


突然抱きしめられて驚いた私と静かに笑うナイト。


「あ…あの…/////」


私、ナイトになんて言ったらいいの?


「ここ、なんて書いてある?」


ナイトが指したのは一番最後の項目だ。


「魔物と人間の婚姻は認められない……。」

「あぁ、そうだな。

このクソみたいな法律のせいで俺は躓きまくってる。」


トントン、と人差し指で文章を軽く叩くナイト。

私は自分の心臓の音がナイトに聞こえてしまわないか心配だった。


「本当に嫌になるよな?

この一行のせいで俺は一生独身だ。」


顔が熱い、期待で胸がいっぱいで痛い…。


「もし…も/////

この法律がなければ…ナイトはどうするの?…あ、どうしますか…?」


落ち着いて、心臓が本当に飛び出ちゃう…!

必死に気持ちを落ち着かせようとしているのにナイトは私の耳に優しくキスをした。


「っ//////」


ナイトの顔を見なくてもどんな表情をしているか察しがつく。


ナイトはきっと私を揶揄って遊ぶ時の顔をしてるはず。

ナイトは優しいけどたまに私に意地悪をするから。


「可愛い人魚を妻にして、幸せに暮らすだろうな。」

「その人魚って…私?…////」


ちゃんとナイトの顔が見たかったから控えめに振り返った。

ナイトは目が合った瞬間、すごく優しく笑ってくれる。


「あぁ、もちろん。俺にはお前しかいない。」

「………//////」


何年も何年も待ち続けた答えが今聞けた。


嬉しくて仕方がなくなって涙がポロポロ流れてしまう。

そんな私をナイトは自分の方へ向かせ、跪き私の両手を取った。


「もしもこの法律がなくなったら、俺と結婚してくれ。」


人生で一番幸せな瞬間だと断言できる。

ナイトに結婚を申し込まれた。

もちろん、結婚できない事は知ってる。


法律がなくならないことも、これは単なる夢物語だと言うことも。


それでも私は嬉しかったからきちんと答えることにした。


「もしも法律がなくなれば…もちろん。私はあなたの妻になるわ。」


私の答えを聞いて嬉しそうに笑ったナイト。

私も笑うとナイトが立ち上がり私に熱いキスをした。


「……ん/////」


幸せ…こんなに幸せでいいの?

ナイトと私が両思いだなんて。

一生叶うことのない恋だと思っていた。

それが今は思いが通じ合ってキスをしているなんて。


「ずっと一緒にいような。」

「…うん/////」


今日から、ナイトを堂々と好きでいていいんだ。だったら私の命をナイトにあげる。


「ナイト…これから先、何があっても私を愛してね。人魚は愛した人の愛が貰えなければ泡になって消えるの。嘘でも私を愛していないなんて言わないでね?」


これは本当に愛した人にしか教えてはいけない。

自分自身を跡形もなく消す最大の呪いだから。

ナイトはどう答えてくれるかな。


「その愛とやらだが、俺のは少し、いや、かなり歪だぞ。

俺の愛が大きすぎてシーラが潰されてしまわないか心配だ。」


私が潰れてしまうほどの愛?

一体それはどんなものなの?


「手始めに、一生繋がっていられるようにこうしよう。」


ナイトがそう言うと、ナイトの心臓のある位置から赤い光が伸びてきた。

そしてその光は私の心臓からも伸びている。


え?何これ???


赤い光は私とナイトの間で固く結びつき、互いの心臓へと吸い込まれた。


「何をしたの?」


私が聞くとナイトが綺麗な顔に笑みを浮かべた。


「シーラと俺の心臓を結びつけた。

シーラが死ねば俺も一緒に死ねるように。」


…………え???


「あ…あの…、ナイト、そこまでしなくても大丈夫、です…。」


私がおずおずと答えるとナイトは私の両脇に手を入れて私を高く持ち上げた。


「遠慮するな、俺たちはどうせ一生一緒にいるんだから。

死ぬ時だってもちろん一緒だ。よかったな?」


よかった…のかな……??


愛の告白からとんでもない展開に発展した。

私が死んでしまったらナイトも死ぬ、なんて。

まるで何かの呪いだ。

ナイトは私の命懸けの告白を命で返してくれた。


ナイトが私を愛さなくなったら私もナイトも死んでしまうなんて。


本当に律儀な人だ。

でも、正直嬉しい。


この怖い呪いのような魔法が、私にとっては婚姻の誓いのように思えたから。

まるで、本当の夫婦になれたような気がしていた。


時間は過ぎ、夜の事。

もちろん、二人で寄り添って眠るなんて可愛い事はしない。


お風呂に入り、ナイトの部屋へ行った瞬間から熱い夜の始まりだ。


ナイトは私が部屋に入るや否や、閉めたドアに私を押し付けキスをする。

私はナイトの首に腕を回しそのキスに答えた。


もう慣れっこなこの行為がなぜか新鮮に感じる。

いつもよりも早くナイトと繋がりたかった。


私がナイトをベッドの方へ押すと、ナイトは私をサッと抱き上げてキスをしながらベッドへ移動する。

ベッドに押し倒されて、ネグリジェをたくし上げられた瞬間に熱は一気に急上昇した。


いつもならこんな事はしないけど今日は特別な日だから…


「っ!」


私はうまくナイトを押して、初めてナイトをベッドへ押し倒した。


「今日はシーラが野獣の役か?」


そう、今夜は私が野獣になるの。


「じっとしててくださいね。」


こんな特別な日はあなたを快感の絶頂へ連れて行きたいの。


いつも、あなたが私にしてくれるように、ね。

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囚われた人魚は公爵様に溺愛される 花ノ音 @hanano_oto

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