第4話 sideナイト
「そっちのも持ってこい!」
「死体は絶対に残すな!燃やし尽くせ!」
轟々と燃える火を見つめながら騎士たちのやり取りをぼんやり聞いていた。
案外時間がかかったな。23時か…。
シーラは寝てるだろうな。
「ナイト、もしかしてお疲れ?」
ぼんやりしている俺に話しかけたのはルークだった。
どうしてコイツがここにいるかと言うと、たまたま通りかかったからだそうだ。
こんな辺鄙なところをウロウロしている公爵なんて俺くらいなものなのに、コイツは一体何をしていたんだ?
「お前、そろそろ何しに来たのか言えよ。
次またウロウロしていただけなんて馬鹿みたいな言い訳したら叩っ斬るからな。」
ルークは相変わらずヘラヘラ笑った。
「そんなに眉間に皺が寄ってたらみんな怖がって逃げちゃうよ?あ、もう一回は逃げられたんだっけ?可愛いシー」
俺がルークの首元に剣をやるとルークは苦笑いした。
「あの子の事になると本当に冗談が通じないね。」
「あぁ、俺は純粋な男だからな。
お前の悪意に満ちた冗談が通じる訳ないだろ。」
「純粋、ね。
まぁいいや、一周回って純粋って事にしておいてあげる。
誤魔化してもしょうがないし、正直に言おうか。実はね、国王に頼まれたんだ。
ナイトの様子を見て来いって。」
国王が?
「で、お前はなんて答えるつもりだ?」
俺の質問にルークは困ったように笑った。
「とりあえず普通だったって答えるつもりだよ。国王陛下は心配してるんだよ、未来の義理の息子が人魚に操られているんじゃないかって。」
国王は俺と皇女を結婚させたがってたな。
誰が好きでもない女と結婚するか。
「そうか、じゃあ俺はもう手の施しようがないくらい狂っててとても皇女の旦那にはなれないと伝えておけ。」
「別にナイトがかなり飛んでることは昔から知ってるけどさ、シーラが心配なんだよ。
ほら、国王ってちょっと強引なとこあるでしょ?
欲しいものはどんな手を使ってでも手に入れて来た。
あんまりシーラばかりに構ってると消されちゃうかもしれないよ?」
俺の様子を探りつつ警告もするのか。
本当に何を考えてるか分からない奴だ。
でも、一応は安心させてやるか。
「この俺から何か一つでも奪える奴がいるとしたらシーラだけだ。」
俺は情けないくらいシーラに全てを支配されてるからな。
王が俺からシーラを引き離そうとするなら王都を焼き尽くしてやる。
「お熱いねー。とりあえず、それ僕以外には言わないでね。今王都では人魚は目の敵にされてるから。」
人魚は元々人間からあまり好かれていない。
船乗りを誑かして船を転覆させるだとか、美しさに惑わされて人生狂うとか、歌声を聞いて死んだとか、とりあえず恐ろしい存在だと言われているからだ。
「そんなもの今に始まった事でもないだろ。」
確かに質の悪い人魚はいる。
でもシーラがいろいろやらかしている訳でもないから正直関係ない話だ。
「まぁ、そうなんだけどさ。
とある貴族の男が人魚に惚れ込んでの大騒ぎなんだよ。
男は人魚と一緒になるために妻に離婚を申請して、嫉妬に狂った妻は血眼になって人魚を探して裁判にかけて人魚を処刑。
男は頭がおかしくなって海に飛び込んで行方不明なんだよね。」
それはそれは絵に描いたような悲劇だな。
「だから何だ、自分の気に入った女を守れなかったしょうもない男の話なんてどうでもいい。」
「バッサリだね。」
「まぁ、そんなこんなあってさ。
今王都では人魚は嫌われ者なんだよ。
で、国の英雄が何年にもわたって一人の人魚を囲ってるって事実もあるし、国王陛下はご心配なさってるんだよ。」
俺がシーラに惑わされたとでも思ってるのか?
俺が無理矢理囲って毎晩抱いてるのに?
真実を知らない人間は想像力が豊かで困る。
「俺はこれ以上の地位なんていらないしあの王族達とも出来るだけ関わりたくない。
お前が代わりに結婚しろよ、同じ公爵だから向こうも文句ないだろ。」
「俺は行かない。」
「本当に困るなー。」
ルークは相変わらずヘラヘラと言う。
困ると言いつつ本当に困っているのかすら疑問だ。
「レイジリアン公爵様!!」
突然誰かが俺の名を呼んだ。
「どうした。」
まさか魔物がまだ残っていたか?
この辺り一体は皆殺しにしたつもりだったが。
「公爵様の馬に付いている魔法石が赤く光っております!
何か大事なご連絡が入ったのではないかと思いお声かけしました。」
俺の馬についてる魔法石、それは俺の城と繋がっているもので緊急事態を知らせる時に赤く光る物だった。
前回光った時は、シーラが城からいなくなった時だ。血の気が引くのは人生二回目だった。
「ルーク、何も聞かずに今この場を引き継いでくれ。埋め合わせは何でもする。」
正直取り乱したくてたまらない。
シーラに何かあったか、また逃げたか、とりあえずいい事は何一つ起きていないからだ。
「そんな怖い顔やめなよ。
あ、そうだ。皇女様の舞踏会出てよ。
そしたら僕も何も言わずに引き継ぐよ。」
「分かった。」
シーラを引き合いに出せば何もかも了承するのは俺の悪い癖だ。
でも仕方ない、シーラだけは手離したくない。
俺はすぐに空間魔法を使い馬の所まで飛び魔法石を確認した。
確かに真っ赤に光ってるな。
突然俺が血相変えて飛んできたから周りの騎士が騒ついてる。
何かまた魔物が出たとでも思ってるんだろう。
場を混乱させないためにも勝手に帰ることはできないな、後々面倒だ。
「後の事は全てルークが引き継ぐ、何かあればアイツに報告しろ。
俺は私用で一足先に帰る、誰でもいいが手が空いている奴は悪いが馬を持って来てくれ。
もちろん礼はする。」
これだけ明確に伝えれば大丈夫だろう。
とにかく城まで距離があるから数回に分けて瞬間移動の魔法を使うか。
幸いぶっ倒れるような距離じゃない。
さっさと帰って何が起きたか確かめないとな。
絶対に無理だろうが、もしもシーラが城から逃げ出していたのなら連れ戻して鎖に繋いでやる。
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