sideシーラ
頭の中が真っ白になる程の快感に包まれた。
甘くて強烈なその感覚は今まで感じてきた何よりも気持ちいい。
「はぁ…はぁ…はぁ……/////」
ドッドッドッドッ…。
全身が心臓になったみたいに脈打っている。
痛みなんてもうどこかへ行ってしまった。
「善かったか?」
脱力した私の頬を優しく撫でて聞いて来たナイト様。
「………はい/////」
もうここまで来たら恥も外聞もないわ。
ナイト様は少し笑みを浮かべて私にキスをした。
さっきまで恥ずかしかったキスが今では心地いい。
ナイト様が私の中から出て行った時に下腹部に痛みを感じた。
まるで、あなたが出て行ってしまったのを体が悲しんでいるみたい。
「ナイト様…。」
私ばかり気持ちよくなってしまった…。
「ん?」
ナイト様は私の隣に寝転び私の方を向いた。
「ナイト様はいいんですか?その……。」
「あぁ、気にするな。
これからずっと一緒にいるんだからタイミングはいくらでもあるだろ?」
ずっと一緒、か。
ボーッとする頭では難しい事は考えられなかった。
ナイト様が優しい顔をして私の頭を撫でてくれる。
これ以上幸せなことなんてない。
ずっとこうして微睡んでいられたらいいのに。
明日からもこうして穏やかな気持ちで過ごせるのかな?
そんなことを考えていたら眠たくなって来てしまった。
瞼が勝手に落ちていく私を見てナイト様が私の体を引き寄せる。
これはあれだ、俗に言う腕枕と言うやつだ。
あぁ、もう起きてるなんて無理無理無理無理。
「おやすみ、シーラ。」
「…ん。」
おやすみなさいって言いたかったのに私の体は何一つ言うことを聞かない。
抗えない眠気に襲われて私はかなり深い眠りに落ちて行った。
「ん……。」
あれ?もう朝?
部屋に入る光で目を覚ました。
かなり眠っていたみたい。
頭がはっきりして来て体も完全に目覚めた頃…
「っ!!」
強烈な痛みが下半身を襲う。
内腿が突っ張っているように痛い。
それに、昨日ナイト様が入った所もヒリヒリする。
「/////////」
そうだ。
私、ナイト様とシちゃったのよね/////
私は本っ当に頭が弱い、弱すぎる。
まさかナイト様と一夜を共にするなんて。
私はナイト様の愛人にすらなれない女なのよ?
それがどうしてあんなあっさりナイト様を受け入れたのよ。
今冷静になって考えたら本当に馬鹿なことをした。
私と関係を持ったことできっとナイト様に迷惑をかけてしまう。
この事は何があっても他人にバレないようにしなきゃ。
私なんかを抱いたとなればナイト様の印象が大変なことになる。
まだ眠くて大欠伸をした。
「ふぁ〜。」
痛いけど体を伸ばしてとりあえず一瞬スッキリ。
これからの事をよく考えないと。
ナイト様は本当に私をここへ置く気だろうか。
私は結局ナイト様が好きだから半分嬉しくて残り半分は不安だ。
「はぁ………。」
何だろう、このドツボにハマった感じは。
ガチャッとドアが何の前触れも無しに開いた。
ドアの方を見ると髪が濡れたナイト様がいる。
きっとお風呂に入っていたのね。
「ナイト様…」
私がおはようございますを言う前にナイト様がベッドの近くへ来た。
「呼び方が違うだろ?」
昨日よりも優しい瞳をしている気がする。
ナイト様は絶対に呼び捨てにしろと言うだろう。
だったら……
「公爵様、ですか?」
ナイト様の眉がピクッと動いた。
「両方ありえない呼び方だが一つ前の方がまだマシだ。」
公爵様は嫌なんだね。
使用人にはそう呼ばせているくせにおかしな人。
「分かりました、ナイト様。」
私がにっこり笑って見せると、ナイト様がいきなり私にキスをした。
「強情な
今はまだそれでいい。今はな。」
とりあえずナイト様呼びでいいらしい。
ナイト様は、今だけだと言っているけど私は死ぬまでこの呼び方で呼ぶつもりよ。
身体的な距離が取れないならせめて呼び方だけでも気を遣わないとね。
「それよりシーラ、体は大丈夫か?」
私はナイト様が分からない。
優しいのか、怖いのか本当にどっちか分からないよ。
「…はい////」
私の答えを聞いてナイト様がまた私にキスをした。
「そうか、それならよかった。」
こんなの嫌だ。
愛情のようなものを感じてしまう。
ナイト様は私を遊び道具だとしか思っていないのに。
私とは火遊びしただけ。
好きとか愛してるとか、そんな言葉は一つもなかった。
キスはするけど愛の言葉はない、本当によくある話だと思う。
身分が高ければ高いほど侍らせている女の数も多い。
ナイト様はこの国の公爵様だ。
きっと私以外にもいるはずよ。
こうして理性と意識がはっきりしているときに自分に言い聞かせなきゃ。
絶対にこれ以上この人にのめり込むな、とね。
「体が大丈夫なら少し付き合ってくれないか?」
付き合う?どこへ?
「あの…ナイト様に着いていきたい気持ちは山々なんですけど私は歩けないのできっと邪魔になりますよ?」
また前のように歩ける魔法をかけて、なんて図々しいことは言いたくない。
もちろん、抱っこしてとも言いづらい。
「歩けない事は気にしなくていい。
俺がずっと抱いててやるからな。
それも踏まえてついて来てくれるか?」
「はい…でも本当にいいんですか?
私、重いですよ?」
きっと疲れるはず。
そもそも、身分が明らかに上の人に抱っこされるのは大丈夫なのかな?
「安心しろ、俺はオークを引き摺り回すくらいには体力がある。何も心配するな。」
オークは大きいし重たいはず。
それを引き摺り回すなんてどんな怪力してるの?
それにしても引き摺り回すって怖いわね…。
それからナイト様と少し話して、メイドが3人来た。
3人とも私と同じくらいの年齢だろうか。
「お嬢様、お出かけのご用意をさせていただきます…!」
だけど様子がおかしい。
どうして3人ともそんなに怯えているんだろう。
「支度ができたら教えろ。」
「「「はいっ!!!」」」
見ているこっちが可哀想になってくる程彼女たちは怯えていた。
「後でな、シーラ。」
ナイト様が怒っていた訳でもあるまいし、何にそんなに怯えているんだろう。
「はい、ナイト様。」
歩くことのできない私はベッドで身支度を整えることになる。
体を拭かれ、可愛い服を着せられ、化粧に、髪も綺麗にしてくれた。
こんなに手厚くいろいろされたのは初めてだ。
慣れて無さすぎてちょっと落ち着かない。
「ぅっ!」
ブラシで髪をといてくれていたけど、何せ昨日まで海水にいたから絡まるのは仕方ない。
「っ!!!申し訳ございません!お嬢様!!
決してわざとやった訳ではありません!
どうかお許しください!!!」
え?え??え???
「あの…どうしてそんなに怯えているんですか?ナイト様に何か言われたりしましたか?」
私に怯えている訳ではなくナイト様に怯えているのかな?
きっとそうよね、私ってそんなに迫力ないしそもそも身分もかなり低い。
「お嬢様……知らないのですか?」
え?何を?
「あの…もしかして私の知らないところで何か起こってたりしますか?
私は昨日ここへ戻って来たばかりなのでここ最近のお城の状況がわからなくて…。」
私がそう言うと3人のメイドは顔を見合わせた。
この反応で何もないわけがない。
「私どもの口から説明するにはあまりに恐ろしくて…。どうかお嬢様が公爵様と直接お確かめになってください。」
メイドたちが恐ろしくて私に言えないことって何?
ナイト様と直接確かめるって何??
何を聞いてもきっと答えてくれないだろう。
一体私はこんなにオシャレをさせられてどこへ連れて行かれるの?
聞き出せる雰囲気でもなく準備は淡々と進んだ。
私の身支度が終わると、ナイト様の命令通りメイドの1人がナイト様を呼びに行く。
部屋に入って私を見るなりナイト様は…
「どの国の姫もシーラには敵わないな。」
なんて嬉しい事を言ってくれた。
お世辞だと分かっていても嬉しい。
「ふふ/////ありがとうございます。」
きっとメイドたちは私をからかったのね。
ナイト様はこんなにも穏やかに笑っているんだから恐ろしい事なんて起きるはずない。
この時の私は愚かにもそんな甘い事を考えていた。
私の考えが甘かったと後悔させられたのはこの1時間後。
ナイト様の腕に抱かれて領地のど真ん中の広場に連れて行かれた時だ。
かなりの人混みができている。
大人から子供まで勢揃い。
そして異様なまでの活気があった。
一体何なの?
「シーラ、あれが何か分かるか?」
全く状況を理解していない私にナイト様が聞いて来た。
ナイト様が見た方向を見て私は戦慄する。
「…え?」
私の目に映ったのは断頭台だった。
「ナイト様……処刑を見に来たんですか?」
私は処刑なんて見たくない、そんな怖い物見られないよ!
「あぁ、俺は別にどうでもいいがシーラにはきちんと見せておこうと思ってな。」
え?何で?何でそんなこと…
困惑していると民衆たちが大きな声で叫び始めた。
口々に罵詈雑言が飛び交う。
領地で処刑だなんて一体誰が何をしたの?
私の疑問を解決するかのように、死刑囚が断頭台に立った。
「え………?」
私は目の前の光景を疑う。
「な…何で…?」
断頭台に立っているのは一ヶ月前に私を階段から蹴落とした意地の悪いメイドだった。
「ナイト様…冗談でしょ?
あ、あれくらいで処刑するなんて…。
ねぇ、ナイト様…!」
恐怖と焦りで声が震えしまっている。
だって…だって…処刑するなんて…
確かに私は酷い事をされたよ?
でも、命を奪う程酷い事をされたわけじゃない。
「この騒ぎを見て冗談に見えるのか?」
ナイト様は周りの様子を知らしめるように私に言った。
「ナイト様、誤解です!
いくらなんでも処刑なんてやりすぎですよ!
今からでも中止にしてください!私は彼女を許します…!」
「そうか、それならそれでいい。
でもな、シーラ。」
ナイト様は私の頭をグッと引き寄せて逞しい胸に私の顔を押し付けた。
そして、耳元でそっと囁く。
「俺はお前を傷つける奴は絶対に許さない。」
ザシュッ!!!…ゴロゴロ。
ゾッとするような音が響き、民衆たちが活気盛んに騒ぎ出す。
見ていなくても分かる。
あのメイドの首はもう斬られてしまったんだ。
「次の奴の首も刎ねろー!!!」
ナイト様の腕の中で恐怖で震える私。
次は誰が首を刎ねられるの?
「嫌よ…!違うの!!私は無理矢理やらされたの!離して!死にたくない!!!」
声を聞いて分かったもう1人の人物。
あの時、私を押さえていたメイドの1人。
この民衆の騒ぎの中、彼女の叫び声がよく聞こえる。
もちろん…
「嫌よ!!こんなの!!どうして私がこんな」ザシュッ!!!
首が刎ねられる音も。
あの時一度だけ彼女たちに罰を望んだ自分がいたけど、死んでほしいとは思っていなかった。
この罰はあまりにも重すぎる。
「キャァァアアッ!!!!!
嫌ー!!!!キャァァアアッ!!!」
同僚2人の首が切り離されて正気を失ってしまった最後のメイド。
私はその声だけで震えが止まらない。
ナイト様はどうして平気なの?
どうして民衆たちは人が死んで喜んでいるの?
「ナイト様…もう嫌だ…。」
ここは野蛮すぎる。
外なのに血の匂いが充満している気がして気持ち悪い。
「私…帰りたい…ナイト様、お願いします。」
ナイト様に縋りつくようにして懇願した。
「シーラには少し刺激が強すぎたか。」
ナイト様は何事もなかったかのように私に言った。
人の首が刎ねられているところを見てどうして平気なの?
「でも、これでもう大丈夫だ。
これから先、シーラを軽んじる奴はいなくなるだろう。
シーラを傷つける奴は必ず俺があの台へ立たせる。だから安心して俺と一緒に暮らそうな。」
ナイト様は私の頭にキスをして何の未練もなさそうにこの場を後にする。
馬車に戻ったところで空気は地獄だ。
そんな地獄でナイト様の膝の上に座っている。
馬車って常に最悪な状況で乗らなくちゃいけない物なの?
本当に馬車に乗ってていい思い出なんかない、馬車が嫌いになりそうよ。
気分が悪い。
私のせいで3人死んだ。
あの3人のことは大嫌いだったけど殺す事ないのに…。
「どうした、嬉しくないのか?」
「人が死んで嬉しい人なんていません。」
まだあの身の毛のよだつ音が耳から離れない。
ナイト様はここ一ヶ月でどこまでも変わってしまった。
前はこんなに残忍な事をする人ではなかったはずよ。
「ナイト様…。」
前の気さくで優しいナイト様はどこへ行ったの?
「ん?」
私のために人を殺すなんて…。
「どうして…変わってしまったの?」
「俺は何も変わってない。 昔からずっとこんな奴だ。シーラのために殺した人間はあの4人だけだと思うか?」
え?
まさかもっと人を…。
それより今4人って言った?
メイドは3人だったはずよ、4人って何?
「4人目は誰ですか?」
恐怖を押し殺して冷静に聞いた。
「シーラを浜辺に捨てたクソ野郎だ。
俺の大切な人魚をあんな所に放り出したからもちろん死んでもらった。」
誰のことかすぐに分かった。
一ヶ月前、私を浜辺に放り出した男は1人しかいない。
あの男も殺されるなんて…。
「これで最後にしてください…。」
これから先、私に何かした人がいても命までとらないでほしい。
私にそれほどの価値はないとどうして分からないの?
「最後になるかどうかは相手次第だ。
まぁ、この惨状を見てシーラに手を出す馬鹿はいないだろう。とりあえずは最後ってことにしておく。」
これが最後にならないと確信した。
きっと誰かが私に無礼を働いた瞬間、ナイト様はその人のことを殺すだろう。
その執着心の理由は何?
私は遊びなんでしょ?
「そんなに怯えられたら傷つくだろ?
シーラには何もしないから安心してくれ。」
ナイト様は私の額に自身の額をコツンと優しくくっつけた。
本当に馬車は地獄だ。
逃げ場がない。
とは言っても歩けないからどこにも逃げられないけど。
罪悪感に苛まれた。
私は悪い事をしていないはずなのにおかしな話だ。
私をいじめた人が死ぬなんて誰が想像できただろう。
しかも、あんな残酷な方法で。
私が何も言わないでいるとナイト様が私の唇に軽くキスをした。
「シーラ、そんなに怖がらせるつもりじゃなかった。怒らないでくれ。」
私は別に怒っている訳じゃないの、ナイト様。
ただ、あなたが怖いだけ。
あなたの権力と気まぐれが本当に怖い。
「これで最後にしてください。
ナイトの優しさが見たいです。」
私がナイト様を呼び捨てにすると、ナイト様は嬉しそうな顔をした。
「そう来たか、シーラ。なかなかやり手だな。」
本当に喜んでくれているんだと思う。
ナイト様が無垢な少年のように笑うから。
この笑顔を久しぶりに見た。
どんなに怖い人でも私はこの笑顔にすごく弱いみたい。
その笑顔を浮かべているあなたは本当に可愛い。
その笑顔こそ、私が心の底から愛したものだった。
懐かしくて愛おしくて胸がいっぱいになる。
そんな思いを隠すように胸の前でギュッと手を握りナイト様の胸に顔を埋めた。
機嫌のいいナイト様に抱きしめられたまま馬車の揺れを感じて私はいつの間にか眠りに落ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます