第二章

第2話 sideルーン

夜になり、月が海の真上に輝く。

今日は晴れていて雲もない。

人魚狩りの船のもいつの間にか陸に帰っていたし、星を見るには絶好のタイミングだった。


「ルーン、行こ!早く行こう!」


俺が提案した時はあまり乗り気じゃなかったから不安だったけど、今ではシーラの方が楽しみにしている。


よかった、ちゃんと笑ってるね。


「そんなに焦らなくても星は逃げないよ。」

「いいから行くのー!」


シーラは子供みたいにはしゃいで俺の手を引っ張って泳いで行った。


シーラが一番先に海面から顔を出した。


「わぁー!」


宝石を散りばめたような夜空を見てそんな無邪気な声を上げる。


「ルーン!見て見て!」

「うん、綺麗だね。」


俺たちは手を繋いだまま一緒に星を眺めた。


「ルーン、ありがとう。

ルーンが星を見るって言わなかったら私こんなにも綺麗なものを見逃す所だった。」


陸に何年もいたのにシーラはまるで贅沢を言わない。

今だってそうだ。

星空でこんなにも喜んでくれる。


陸から海に帰ってきた人魚は大抵目が肥えてしまっている。


容姿が美しい者が多い人魚は人間さえ選べばそれなりに贅沢な暮らしができるからだ。

シーラの話を聞く限り、シーラも金持ちに気に入られて何年も贅沢な暮らしをしただろうに。


それなのに…


「わ!!ルーン今の見た!?星が動いたよ!!」


たかが流れ星でこんなにも喜ぶんだ。


こんな純粋な女の子を呆気なく放り出した男が許せなかった。


シーラと奇跡の再会をした日、シーラは手錠をつけられ体中痣まみれだった。


その痣は意地が悪い人間につけられたと言っていたけど手錠は?


シーラを囲っていた男がおそらくつけていたんだろう。


捨てるときに手錠をつけたままなんて野垂れ死ねと言っているようなものだ。

馬鹿にするにも程がある。


シーラは陸に戻る気はなさそうだし、俺としてもその方が嬉しい。


シーラとずっと一緒にいられるし、そうなってくると結婚した方がいいってなって、その内子供とかも出来たりして……


「///////」


馬鹿、何浮かれてるんだ。

シーラは俺のことをただの幼馴染だとしか思ってない。


結婚して子供が産まれるなんてどこの世界線の話だよ!この変態!


「ルーン?どうしたの?顔が真っ赤よ?」


真っ赤にもなるよ!!

シーラ、本当に綺麗だし…そもそも、好きだし…。


「何でもない!本当に!何でもない!!」

「嘘!絶対何か隠してる!ちゃんと言って!」


ちゃんと言って!?


「無理!まだ無理だよ!」

「まだって何よ!」


俺たちが騒がしくしていると、聞きなれない音が耳をくすぐる。


バサッと、大きな布が風に靡かれたような音だった。

その音に俺もシーラも辺りを見回した。


「ねぇ、今何か聞こえなかった?」


シーラは怖いのか俺の手をぐっと引いて近づいてきた。


「うん…聞こえた。」


まるで、大きな船の帆が靡くような音が。

だけどおかしい。


この辺り一体に船は見当たらない。


俺もシーラも聞こえた音だから空耳だとは考えにくいし……。


何にしても深いところに戻った方がいいかもしれない。

本能的に感じる危険には素直に従っていた方がいい。


「シーラ、今日はやめておこう。

嫌な予感がする。」


考えすぎならそれでいい。

星くらい、いつでも見せてあげれる。


「ねぇ…ルーン、あれ何?」


シーラは斜め前をそっと指差した。


あれって?


「何も見えないよ?」


ただの暗い海、それ以外何の景色もない。


「違うよ、ほら。なんかユラユラしてない?」


シーラが指差す方をじっと見つめた。

するとシーラの言う通り一瞬だけ景色が不自然に歪んだ。


明らかにおかしい。

そう思いながらも歪んだ所へ手を伸ばした。

コツ。

何もない所で指先に何かが当たる。


木のような触感だ…。

…木?

まさか…!!!


「シーラ!!船だ!!!」


船だと気付いた時にはもう遅い。


「上げろー!!!!」


「きゃあ!!!」

「シーラ!!!」


男の声が響き渡り、突然真下から網が上がって来た。

それと同時に真っ黒な船が姿を現す。


網の端が俺とシーラが手を繋いでいた所で、運悪く網に捕まったのはシーラだった。




「ルーン!!!助けて!!!」

「シーラ!!!」


シーラが網にかかると、網はすぐに丸まってシーラを逃さないように勝手に結び目を作る。


ものすごく高度な魔法だ。

一体誰がここまでして人魚を狩ってる?


「一匹かかった!引けー!!!」


男の声が掛け声になり、シーラの網に繋がったロープを何人もの男が大きな船に引き上げていった。

このままだとシーラが連れて行かれる…!!


「シーラ!!!」


俺は必死に網にしがみついた。


シーラの体重なら軽いけど、俺が乗っかればそうそう簡単に引っ張り上げられないだろ。

幸い体はデカい。


人間が俺の重さでもたついている間にロープを噛みちぎってシーラを逃す!!!


シーラを人間の餌食にさせてたまるか!!!

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