sideナイト

仕事は俺が思ったよりも時間がかかった。

理由は天候と地形。

あまりにも相性が悪く全てに遅れを取ったがとにかくやり遂げた。

シーラにまた会うため俺は急ぐ。


仮眠も取らずただひたすら自分の城へと馬を走らせた。

普段ならこんなにも急いで帰る事はない。

ただ、今回は状況が違う。

シーラはどうにかして俺から離れようとしている。


そんな状態で悠長に眠ってなんかいられなかった。


城についたのは午前3時。

きっとシーラは眠っているだろう。

ちょうどいい、こんな血みどろの姿を見られたら嫌われるかもしれない。


魔物の血に塗れた男なんて見ていて気持ちのいいものじゃないからな。

とりあえず体を綺麗にしてから同じベッドで眠ろう。

シーラの温もりを早く感じたい。


城に着くと門が勝手に開き執事のエドとメイド長のミザリーが出迎えた。


「お帰りなさいませ、公爵様。」

「お帰りなさいませ…。」


わざわざ外に出てまで俺を待っていたと言う事は何か面倒な事が起きたって事だ。


「どうした、何があったか簡潔に言え。」


くだらない仕事を終えてようやくシーラに会えると思えばこれか。


「あの……公爵様、実は少々問題が…。」


ミザリーはかなり挙動不審だ。

一体何があったんだ?

どうせまた手癖の悪いメイドがいたとかどうでもいい事だろう。


「早く話してくれないか?」


こうしている時間が惜しい。


「あの…人魚の、お嬢様のことで少々…」


は?


「まさかシーラに何かあったのか?

怪我か?病気か?早く答えろ。」


俺が急かすとミザリーはかなり言いづらそうに言葉を続けた。


「それが……今朝」

「お!いらっしゃった!!

公爵様ー!」


門の外で見窄らしい男が騒いでいる。

なんだ、あの男は。


「ご命令通り女を捨てて参りました!!

報酬の話をお願いします!」


女を捨てた?

一体何を言っているんだ?


俺がエドとミザリーに向き直ると二人は顔を真っ青にして俯いていた。


「おい……冗談だよな?」


誰が提案したかは知らないが趣味が悪い。

どんな馬鹿がこの状況を見ても何が起きたのかすぐに分かる。


取り返しのつかない事をしたと言わんばかりの使用人2人と門の外で騒ぐ頭の悪い男。


つい数秒前には、シーラに何かあったと言いかけていたな。


心臓の一番奥が凍りついたような恐怖に襲われた。


「申し訳ございません!!!

メイドとお嬢様との間に行き違いがあったようで…!!」


だから?それがどうした?

行き違いなんて知るかよ、そんな事はどうだっていい。


「事の発端のメイドを叩き起こして来い。」

「ですが公爵さ」「早く行け!!!!」


俺の怒鳴り声に怯えているミザリー。

エドはひたすらオロオロしているだけだ。


「さっさとあの下衆野郎を中に入れろ。

アイツにも用がある。」


エドは言われた通り、門を開けて庭に男を入れた。


「公爵様!こんな夜中にすみません!」


常識も品位も何もかもないような男だ。


「別にいい、今帰って来たところだ。

それより、女はどうした?どこに捨てた?何もしていないだろうな。」


男の薄ら笑いがどうにも腹が立つ。

もしもコイツがシーラに何か酷い事をしていたのなら思いつく限りの拷問をかけて殺してやる。


「安心してください、ご命令通り足で帰って来られない所に捨てましたから!

手錠もつけてますし、死ぬのは時間の問題でしょう!」


「なぁ、教えてくれよ。

俺はいつどこでお前に趣味の悪い命令をした?」


男の顔からは薄ら笑いが消えて、代わりに引き攣った笑みを浮かべる。


「た…確かに、このような高貴なお方には会った事がありませんが…その…公爵様のご命令だと聞いておりましたので……」


だんだんと声が小さくなる男。

話している最中にようやく自分が騙され利用された事に気が付いたらしい。


「俺も今この状況を完全に理解していない。

とりあえず、当事者であろうメイドをここに呼びつけたから顔を確認しろ。

嘘をついたと分かった瞬間、この世の苦しみ全てを味合わせて殺してやるからな。」


男は俺の殺気にブルブルと身を震わせる。

死を悟った人間の顔だった。

同情はしない。

シーラが見つかったとしても当事者は皆殺しにする。


「ほら!急ぎなさい!!」


噂をすれば来たな。

ミザリーと犯人であろうメイドが。


「ミザリーさん、どうしてこんな外に…」


若いメイドは俺と青ざめた男を見て足を止めた。

そして状況を理解したらしい。

面白いくらいこの女も顔を真っ青にする。


さて、聞いてやるか。


「俺の大事な女に何をした?」

「こ…これは……一体……」


寝ぼけた頭には理解できないか?


「全て話せ。シーラを捨てるようこの男に命令したのはお前か?」

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