sideナイト

シーラが俺に敬語を使った。

いきなりどうして?何で?

馬鹿な衛兵に乱暴に扱われて気が動転したのか?

それで俺にあんな他人のような態度を取った?


シーラのよそよそしい態度がどうしても受け入れられない。


「本当に申し訳ございませんでした。

私は仕事に戻」「待て。」


勝手に行こうとするな、まだ話は終わってない。

シーラの髪を掴み上げて挙句に殺そうとしていたのにタダで帰れると思ってんのか?


そんな訳ないだろ、俺は絶対に許さない。


何もかもが許せない。

シーラのあの態度も、馬鹿な衛兵も何もかも。

シーラに触れておいて生きていられると思うなよ。

俺の怒りで庭の花が枯れていく。

その様子を見て衛兵が腰を抜かして怯え始めた。


「公爵様!お許しを!

あなた様のお連れの方と存じていればあのような愚行はいたしませんでした!!」


どんな言い訳を並べようが関係ない、殺してやる。


細切れにして狼の群れにくれてやるか。

それか、足を切り落として海に沈めてやるか…

まぁいい、とりあえず腕と足を叩っ斬ってやる。


剣を振り上げたその時、面倒な男が現れた。


「やりすぎだよ、ナイト。」


この国のもう一人の公爵で聖騎士のルークだ。

どうしてわざわざこんな所に?


「首を突っ込む理由は?

このタコ野郎はお前の弟か何かか?」


「失礼な事言わないでよ、そんな間抜けと家族にされたらたまらない。

とりあえず、その魔力をどうにかしてくれる?

すでに城の中の花も枯れてきている。

せっかくの休みでそれなりに舞踏会を楽しんでるから騒ぎを起こされたら迷惑なんだよ。」


要は、貴重な休みの日に仕事を増やすなってことだな。


「じゃあこのまま素通りしてくれ。

どうせ死体は残らない。」


俺の言葉にルークがため息をついた。


「そのペーペーはこう見えても貴族のお坊ちゃんだ。後日家族から捜索願いなんか出されたら面倒でしょ?いいから見逃してよ、本当に面倒だから。」


面倒、か。

別に俺に面倒事が降りかかる事はない。

俺はどうしてもこの兵が許せなかった。

殺さないと気が済まない。


「言っても無駄か。

それなら仕方ない。」


ルークはそれだけ言うと一瞬にして姿を消した。

諦めたのかと思いきやルークはまた一瞬で戻ってくる。

俺はルークが連れてきた人物を見てさらに怒りを募らせた。


「離せ、今すぐに。」


俺の視線の先にはルークがいる。

最悪な事にルークはシーラを連れてきた。

しかもシーラを姫のように横にして抱いている。


「君がナイトを止めてくれる?

あの衛兵を殺すって聞かないんだ。」


「え??殺す??

お話しするだけって…。

そもそも、あなたは誰ですか!」


ルーク、余計な事を…。


「麗しいレディにそんな事を言うなんて聖騎士も大したもんだな。

少しコイツと話をしていただけなのにルークは虚言癖か何かか?」


「虚言癖って…、どの口が」

「それより早く離せ、気安く触るな。」


もう衛兵はどうでもいい。

今はシーラが他の男に触られている事が許せない。今すぐルークの手をもぎ取ってやろうか。


「哀れなその彼を見逃す?」


ルークが言っているのは衛兵のことだ。

シーラが天秤にかけられている以上、もう興味はない。


「見逃すも何も話をしていただけだ。

ほら、さっさと仕事に戻れよお坊ちゃん。」


衛兵は俺を化け物でも見るような目で見てくる。

失礼な奴だ、元はと言えば全てお前が悪いのに。


「固まってないで戻りなよ、せっかく命拾いしたんだから。」


恐怖に支配されていたであろう衛兵はルークの言葉で自我を取り戻した。


「し、失礼します!!!」


半ば転げながら逃げる衛兵はかなり間抜けだった。 


まぁいい、その辺のゴミだと思っておこう。

それより……


「離せって言ったの聞こえなかったか?」


その手を離せ、早く早く早く早く。


「シーラ、君は脅されてナイトといるの?

そうじゃなきゃその目は節穴だよ。

男を見る目がまるでない。」


ルークは気安くシーラの名を呼び話しかけた。

殺意が募れば募るほど残酷な殺し方が脳裏に浮かぶ。


「脅されてるなんてとんでもない!

ナイト、様は私を助けてくれて側に置いてくれている素晴らしい人なんです。」


また言った。様って…。

どうして…何で? 


「素晴らしい人ねー。

悪魔の間違いじゃない?」

「悪魔なんかじゃありません!」


ルークはシーラを揶揄って楽しんでいる。

このままだと二人は仲良くなるだろう。

そんな面白くねぇ話があってたまるか。


「話は終わりだ、俺たちは帰る。」


シーラが他の男と話している事実が胸糞悪くて少し強引にルークの腕からシーラを奪い取った。


いきなり俺の腕に抱かれたシーラは少し驚いていた。

本当に可愛い顔してるよな。


「またね、シーラ。」


ルークが訳のわからない事を言っている。

 またって何だよ。


「…は、はい。」


俺はもちろんシーラのこの反応が気に入らない。

はい、って何だ?まさかまた会うつもりか?

二人とも面白いな。

俺は二度と会わせる気なんてないのに。

まぁいいか、そんな事わざわざ言わなくても。


俺だけが知っていればいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る