第9話 すっごくおいしい

「彩羽君、カレーできたよ・・・・・・」


「カレーができた」が合言葉となったのか、横になっていた男は目を覚ました。


「カレー、カレー」


 手作りカレーを食べるのは、中学生以来である。実家に住んでいたときは、母が良く作ってくれていた。


「彩羽君、ノリノリだね・・・・・・」


「クラスメイトの女の子が、自分のためにカレーを作ってくれる。漫画の世界だと思っていたから・・・・・・」


 作ってくれたのは告白した女の子。男子高校生として、最高級の幸せを感じられるシチュエーションだ。


「そんなに喜んでもらえると、こちらとしても作った甲斐があったよ」


 味もよければ、さらにテンションは上がる。彼女のカレーはどのような味なのだろうか。


「彩羽君、冷めないうちに食べてね」


 心のカレーを一口食べた瞬間、口と体の中にあふれんばかりの幸せが広がった。


「すっごく、おいしい・・・・・・」


 カレーライスをほめられた、心の鼻は30センチほど伸びたように感じられた。


「そうでしょう、そうでしょう。腕によりをかけて作ったんだもの。最高の味になるに決まっているよ」


 心はカレーをなかなか食べようとしなかった。そのことが気になったので、彼女に質問を投げかける。


「心さんはカレーを食べないの?」


「私はいいよ。おなかがあんまりすいていないみたいだし、彩羽君の食べっぷりを見ているのは楽しいもの」


「心さん、食べておいたほうがいいよ」


「それなら・・・・・・」


 心は大きく口を開けた。


「彩羽君、口の中に入れてほしいんだけど・・・・・・」


 積極的すぎる女性に対して、たじたじになってしまった。


「心さん、いいの?」


 質問をしたからか、心に眉に皺ができる。


「いいの。早く食べたいんだけど・・・・・・」


 クラスメイトにカレーを、「あーん」で食べさせる。はた目から見れば、完全なるカップルといえる。


「隠し味が入ってないから、ごくごく普通のカレーになっているね。私はあんまり好きじゃないかな・・・・・・」

 

 カレーの隠し味といえば、ヨーグルト、コーヒー、はちみつ、りんこといったものから、にんにく、しょうが、ジャム、バター、牛乳などと幅広い。各家庭によって、入れるものは異なる。


「心さんの家では、カレーにどんな隠し味を入れるの?」


「甘いもの好きが多いから、ジャムを入れるようにしているよ。チョコレートを投入することもあるかな」


 ジャム、チョコレートと聞き、甘いものを好む人が多いのを察する。


「彩羽君が作ってほしいなら、他の料理も作ってあげるよ」


「心さん、ありがとう・・・・・・」


 心のおなかが空腹のサインを示す。二人はおかしかったのか、室内で大爆笑していた。

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