第10話 心の整理が追いつかない

「彩羽君、一人では寂しいでしょう。私と一緒に夜を過ごそうか・・・・・・」


「心さん、何を考えているの?」


 心は息を大きく吐いた。


「両親と大喧嘩して、家出をしてしまったんだ。今夜だけでいいから、家に泊めてくれると・・・・・・」


「面倒ごとには巻き込まれたくないんだけど・・・・・・」

 

 良心で宿泊させれば、誘拐犯扱いされるリスクが伴う。未成年と接する際には、細心の注意を払う必要がある。 


「事情については、こちらか話しておくから・・・・・・」

 

「そういうわけじゃなくて・・・・・・」


「これまでもやっているから、どうってことないと思うよ」


「そうだとしても・・・・・・」


「路上生活はしたくないんです。一日だけでいいので、泊めていただけないでしょうか?」


「同性の友達の家にいけばいいだろ。ここのマンションには、親友が住んでいるだろ」


 かみ合わないやり取りを続けていると、心さんのスマホが鳴った。

 

 スマホからは、聞こえてきたのは図太く、大きな声だった。年齢からして、心のおかあさんであると思われる。

 

「心、どこにいるの。すぐにかえ・・・・・・」

 

「友達のところに泊めてもらうから・・・・・・」

 

 宿泊許可を出したおぼえはないんですけど・・・・・・。目の前にいる女性にいっても、わかってくれそうにはなかった。

  

「お友達に迷惑でしょう。すぐに帰って・・・・・・」

 

 娘は非常識だけど、おかあさんは最低限の常識を持っている。親子そろって、話が通じなかったら、完全に詰んでいた。

 

「明日になったら、家に戻るから・・・・・・」

 

「そんなこと許されるわけないでしょう。すぐに家に戻ってきなさい。おとうさん、おねえちゃん、妹なども心配しているのよ」


「・・・・・・・」

 

 心は会話を一方的に切ると、スマホの電源をオフにする。


「心さん・・・・・・」


「ごめん、うちの家庭は複雑なんだよ。すぐにはいえないけど、いつかは話そうと思っているの」


「・・・・・・・」


「今日だけでいいので、ここに泊めてください。お願いします」


 ここまでいわれると、断ってはいけない気がする。乗り気ではないものの、彼女を宿泊させることにした。


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