第11話 心の無茶ぶり

「彩羽君、下着を忘れたの。替えを持っているなら、貸してほしいんだけど・・・・・・」


 心はむずがゆいのか、体をぼりぼりとかいている。


「男の一人暮らしなのに、女物の服を持っているわけないだろ」


 実際に持っていたら、完全なる変態レベル。家族だけでなく、周囲からも白い目を向けられる。


 ○○は期待にそぐわない回答にもかかわらず、ひょうひょうとしている。メンタルの強さについては、神レベルに達しているのか。


「パンツだけでいいから、貸してくれないかな。下着を取り換えていないからか、股のあたりがむずむずしているんだ」


 男のにおいのついたパンツを、堂々と貸してくれといえる女。緊急事態を脱するためなら、手段をいとわない方針を取っているのか。それとも、ただのバカなのか。それとも、何も考えていないとか。他人の家に勝手にやってくる女なら、どんな思考をしていてもしっくりとくる。


「パンツだけでいいなら、衣服店もしくはコンビニで買ってきてやる。かゆいだろうけど、ちょっとだけ我慢しろ」


 体を起こそうとしたとき、的を得た指摘を飛ばされた。


「男が女物の下着を買うの。他のレディースを求めているお客さん、レジを通す店員に白い目で見られることになるよ」


 ピンク色の下着を購入する男は完全なる変態、いろいろなところで噂を流され、不自由な生活を余儀なくされる。


「お金を渡すから、下着を買ってこい」


 財布から千円札を取り出し、○○の手に持たせようとする。


「○○君に悪いよ。男物でいいので、パンツを一枚だけ貸してください」


「男のにおいのついたパンツを履いたら、一生のトラウマになりかねないぞ。そうなってもいいのか」


「私は構わないよ。男の人のにおいがついた、パンツを一度でいいから身に着けてみたかったんだ」


 行動力だけでなく、思考回路まで異次元レベルに達している。まっとうな人生を送ってきた男には、理解不能な領域に達している。


「一週間前に、新しいブリーフを買ってある。それでいいなら、好きに身に着けていいぞ」


「新品を借りるのは悪いから、古いパンツでいいよ」


 心はタンスをあけると、手当たり次第に物色する。パンツを探しているのは、すぐに察しがついた。


「生活に余裕がないのか、パンツは黄ばんでいるね。そろそろ、捨てたほうがいいんじゃない」


 新作ゲームにお金を使いすぎて、衣類に回せなくなっている。


「ゲームにお金を使うのはいいけど、ほどほどにしておいたほうがいいよ」


「うるさいな。一人暮らしは寂しいから、ゲームで気を紛らわせているんだ」


 一人暮らしの醍醐味は自由気ままのゲーム。これなくしては、生きている実感を得るのは厳しい。

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