第8話 夕食を作り始める心

 好きな人が家にあがって、夕食づくりをしている。夢を見ているかのような展開に、口元からよだれを垂らしてしまった。


「彩羽君、すっごくご機嫌だね」


 よだれを服でふいたあと、適当にはぐらかすことにした。


「そ、そんなことはないけど・・・・・・」


「よだれを垂らすほど、カレーを食べたいんだね。作る側としては、最高のシチュエーションだよ」


 よだれを垂らしたことには、悪い印象を持っていないらしい。そのことについては、よかったかなと思える。


 心はほぼ未使用のまな板で、じゃがいも、玉ねぎ、にんじんを切っていた。料理を普段からしているのか、手慣れた手つきだった。


「彩羽君、カレーを楽しみにしてね」


 カレーライスを食べられると知って、テンションは少しだけ高くなっていた。


「カレーライスができるまで、睡眠をとってもいいよ」 


「満さんに悪いよ。手伝えることは何かないかな?」


 料理スキルは0だけど、一つくらいは手伝えることがあるはず。クラスメイトから作ってもらったカレーを、ただ食べるだけというのは避けたいところ。


「一人でやるから、こちらは気にしなくてもいいよ」


「そうだとしても・・・・・・」


「家事をろくにやってないのに、手伝いをできるわけないでしょう。料理スキルを身につけることができたら、サポートしてもらおうかな」


 告白のときもそうだったけど、はっきりというタイプだなと思った。本音と建前を使い分けるのは苦手なのかな。


「彩羽君のために料理を作ります。味がおいしかったときは、満面の笑みでおいしいというようにしてください。それだけで十分だよ」


「満さん・・・・・・」


「満ではなく、下の名前で呼んでほしいんだけど・・・・・・」


「わ、わかった。心さん」


 心は満面の笑みを向けたのち、本気モードに突入する。


「カレー作りに集中したいので、声をかけないようにね」


 真剣な目つきは、鍋の方向に向けられる。体のオーラからは、絶対においしいカレーを作るという意思を感じた。

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